【KAC20233】わたしの女神様2

かなめ

うっかり間違った話

「あ、おかーさーって間違ったあああああああああああ!!!」

「千紗さんや。なんて言いたかったの?」

「……先生です、絢ちゃん。あと、笑うの耐えなくていいから。むしろその生ぬるい視線のが居た堪れないから!」

「そんなこと言われてもねぇ……」


 人前で高笑いとかするの苦手だから無理なの、ごめんねと、同じ制服を身にまとった高い位置で結んでなお背中の真ん中まである艶やかな長い黒髪の少女が腹筋をぷるぷるさせながら呟いた。

 黙って立っているだけなら冷たくて近寄りがたく涼やかな印象が先立つけれど、内心はものすごく感情表現が豊かだと知ったのは二人であちこち食べ歩きするようになってからだった。


 私と一緒に居ることに少しずつ慣れてくれた絢ちゃんは、どうやら一旦ツボにはまるとしばらくずっとぷるぷるしてる。学校とかではそういう部分を上手に隠してるみたいだけれど、一緒にいる時間が多くなった私は絢ちゃんのそういう部分も分かるようになった。なんて尊くて可愛い生き物だろうって思う。


 どんな反応をしてくれるかなって、ちょっとイタズラ気分で飛び出る熊のラテアートを内緒で予約して一緒にご飯に行ったことがある。食後に出てきたチョコとミルクフォームで出来ている熊さんの、あまりのふわもこ可愛さにしばらく固まるのまでは予想通りだったんだけど……。

 私だけ知ってる女神様のとろけるような笑みはちょっと困った顔していた。


「うううう恥ずかしいいいい」

「大絶叫だったものねぇ」

「やっちゃったよ」

「やっちゃったねぇ」


 膝から崩れ落ちてせっかく可愛くセットしていた頭をぐしゃぐしゃにしながら呻いていたら追い打ちをされた。ひどい。

 世間一般的に可愛いの部類に入るらしい私は、肩まで伸ばしている茶色に限りなく近い黒茶色のふわふわした猫毛を華美にならないリボンやバレッタで飾っているだけだから手櫛で直すのはちょっと厳しいのだけれど、羞恥心のが強すぎた。


 きっと、と私は知ってるから心の赴くままに全力でぐしゃぐしゃにする。

 可愛いものが大好きな私の女神様。

 みんな彼女をとても冷たいとか、私のことを可哀想とか色々言ってくるけれど、彼女はものすごく優しいひとで、私は彼女のさり気ない優しさに包まれることが大好きだった。


「そろそろ落ち着いた?」

「ん」

「櫛は?」

「……持ってる」


 じゃあ行こうかと女神様に手を引かれながら、これから私は至福の時を過ごす。




終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20233】わたしの女神様2 かなめ @eleanor

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ