実力主義の魔剣学園

白銀優真

一章 作られた天才と始まり

第1話 実力主義の魔剣学園

 物心ついたときから広い檻の中に居た。そして一人の男に強くなること、知識を身につけることを強制されていた。

 自由なんて一切なかった。起きてから寝るまで全ての行動を支配され、強くなるか、勉学をするかの二つしかなかった。少しでも失敗すれば傷つけられ罵倒される日々。結果、私は常人よりも優れた存在になれたのかもしれない。


 高い位置にある小さな窓から少しだけ見える青い世界に飛び込みたいと、ずっと思ってた。届かないと知っていても手を伸ばしたりもしてみた。


 私にはきっとこれかも自由なんて訪れない。それでも、手が届かなくても伸ばしたい。あの世界ならきっと今より遥かに幸せだろう……。



◆◇◆



 一つの建物に続く道を多くの人が歩いている。この先にある建物は『メリトクラシー魔剣学園』。エレメル王国にある毎年数多くの優秀な魔剣士を輩出する先進校。同時に毎年全魔剣学園の中でも異様な数の退学者を出す。


 理由は簡単。この魔剣学園が完全な実力主義の上に成り立っているから。ここでは実力がなければ生き残れない。生徒を育てるのではなく、削っていく場所だ。別にこんなに面倒な所に来るつもりもなかったのだけれど。


 私は今日からここに通うことになる。学園生活の始まり。穏やかな風に触れて私の長い髪がなびく。


 この三年間で私は私が望んだものを手にすることができるのだろうか……。それとも、この世界にも私は失望することになるのだろうか……。



◆◇◆




 入学を行うためホールと呼ばれる場所に行くことになった。入ると大量の椅子が用意されていて、一番正面に壇上がある。全体的に木材でできていて温かみを感じる。席に指定はなかったので空いていた一番後ろの右端の椅子に座ろうとする。ただ、その前に……


「隣、座ってもかまわないかしら?」


 私は一つ奥の椅子に座っている金色の髪に宝石のような緑色の瞳を持った女の子に尋ねる。座ってから友達が座る予定とか言われても面倒だから。だめと返答されたらどこに行こうか考えていると……


「うん、どうぞ」


 彼女は笑顔でそう答える。それを聞いて私は椅子に座る。椅子はフカフカで座り心地は悪くはない。


 隣に座っている女の子も前に座っている男の子も全員ここに入学する生徒ということになる。でも、一概に同じ学園に通う仲間とはいえない。ここが実力主義であるなら他人を蹴落としたりする者もいるはずだ。

 チラッと見ただけだけど、素行の悪そうな人が何人か確認できた。

 できればあまり関わりたくはない。面倒だから。


 私はあの檻の中であらゆる物事を吸収させられた。ほとんど同じでほぼ違いのない剣技を学ばされたりしたこともある。正直、一方がもう一方の剣技より劣っていたため学ぶ意味が分からなかった。明らかに無駄な動作があるのにそれを完璧にできるようやらされた。無駄なことを覚えるのも、行うのもただ面倒なだけ。今後剣を振る機会は多くあるかもしれないけれど、私は片方の技しか使わないだろう。もう片方を使う意味が一つもないから。そんなことを多く学ばされた私は無駄なこと、面倒なことが極端に嫌いになった。


 座ってからしばらく立って壇上に一人の男性が立った。


「これより入学式を始める。ただいまより、貴殿らをこのメリトクラシー魔剣学園の生徒として認定する。ここでは実力が全てである。それは単に強ければいいとゆうわけではない。学力も、魔力も、技能も、個性も、感情も、欠点さえも全て、全てひっくるめて『実力』であるのだ。貴殿らには今後、わが校の顔に泥を塗らないよう励んでもらいたい。これにて入学式を終了する」


 黒い服に身を包んだ男性が語る。式と言うにはあまりにも終わるのが早すぎる。それに語ったこともこの魔剣学園に来ている人なら誰でも知っているようなことだったし、もはややる価値があるのかどうか疑う。

 そんなことを考えていると一人の女性が話を始めた。


「これから皆さんは分けられたクラスの教室に入ってもらいます。外に掲示してありますのでご確認ください」

 

 女性がそれを言うと解散になり、言われた通りに教室に向かうことにする。



◆◇◆




 入学生は合計四十五人いる。クラスは三つに分かれていて、一つのクラスに十五人の生徒で構成されている。

 私はブルー=サードと呼ばれるクラスに入ることになった。ブルーは学年の括りで入学生がブルー、在学生がレッド、卒業生がブラックになる。サードはクラスの順で最初がファースト、次がセカンド、最後がサードになる。


 指定された席があるのでそこに座って次の指示があるまで待機している。

 十五人の生徒が教室に入ってから一分ほどして、一人の女性が教室に入ってきた。栗色の髪を肩のあたりよりも少し伸ばしている。

 


「えー、ひーふーみー……うん、十五人全員揃っているね」


「今日から皆さんの担任をします、スロといいます。今日から一年間よろしくお願いしますね」


 彼女は笑顔で続ける。


「えーっとそれじゃあみんなの名前を確認しますね。名前を呼ばれた人は返事をするか、立ち上がるか、または手を上げてください」


「フル・リード君」


「はい」


「レノン・カーベルトさん」


「はい」


「ルワ・ツイヤー君とその取り巻きのテイシャ・ブコン君とセジ・スマゴリ君」


「取り巻きってひどくないか?!」


「そーだ、そーだ、ふざけんな! ルワ様の取り巻きなんて恐れ多い……」


「レン・ローレール君」


「あ、はい」


「バール・レイヤー君」


「はい」


「ウリシア・アーレインさん」


「はーい」


「グラン・バーニン君」


「はい!!!」


「ブラッド・ジェネル君」


「ふふふ……我は全てを統べるものなり……」


「ロゼ・ラビットさん」


「はい」


「ルナ・エメラルさん」


「は~い」


「エル・シェリーさん」


「はい」


「ノア・ブルーホワイトさん」


「はい」


「最後に……エメリア・エレメルさん」


「……ええ」



◆◇◆



 さっきので一通り名前と特徴は覚えた。茶色い髪の背が低い男の子がフル・リード、彼より背が低い灰色の短い髪の女の子がレノン・カーベルト、入学式の時にいっていた素行の悪そうな人達がルワ・ツイヤー、テイシャ・ブコン、セジ・スマゴリの三人、気弱そうな眼鏡の男の子がレン・ローレール、おとなしい黒髪の男の子がバール・レイヤー、クラスで一番ゆるい雰囲気の銀髪を二の腕辺りまで伸ばした女の子がウリシア・アーレイン、赤色の髪の快活な声の男の子がグラン・バーニン、何を考えているのかまるでわからない紫の髪の男の子がブラッド・ジェネル、桃色の髪のサイドテールでまとめた女の子がロゼ・ラビット、入学式の時、隣だった金色の髪に宝石のような緑色の瞳の女の子がルナ・エメラル、右半分が白、左半分が黒の髪をしたツインテールの女の子がエル・シェリー、黒髪に真紅の瞳の女の子がエメリア・エレメル。

 

「よぉ、嬢ちゃん。俺と話しねぇか?」


 頭の中で名前と特徴を整理していると、ルワ・ツイヤーが話しかけてきた。


「はぁー……」


 こちらは関わりたくないのに、そっちから関わってくるのは面倒だ。私は大きなため息を吐く。面倒なことがあるとすぐため息を吐くのは私の悪い癖だ。


「おいおい、そんな反応すんなよ……嬢ちゃんないい知らせがあるんだぜ?」


「……興味ないわ」


「見たところ……綺麗な容姿はしているが、有名な家の出自じゃないだろ? ブルーホワイトなんて家の名前も聞いたことがないしな」


「家のお話はやめてもらえるかしら? まあ実際、良家に産まれたわけではないのは認めるわ」


 家の話になると嫌でもあの男の事を思い出してしまう。


「なぁ、俺の女になれよ。これでもそこそこいい家の出自なんだ。ここでは上級の家の人間と交際するってのも一種の実力になるんだ。メリットはいくらでもあると思うんだだがなぁ?」


 なんとなく察しはついていた。自分より下級の家の女なら気軽に手を出せると思っているのだろう。


「言ったはずよ? 興味ないって」


「俺の親はここの教員と仲がいいんだ。俺から口添えすりゃあ、お前を退学にするなんて簡単なことだぜ?」


「やめなよ、ノアちゃん困っているでしょ?」


 金色の髪の女の子……ルナ・エメラルが私達の間に割って入ってきた。


「気にしないで大丈夫よ」


 私は彼女に気を遣わせないようにする。こんなくだらないことで他の人に気を遣わせたくはない。


「でも……」


「それで?」


「そう見栄を張るなよ……せっかく苦労して入った学園ここをすぐに退学となっちまうは嫌だろ? わかったらさっさと……」


「苦労はしていないわ、あの程度で」


「おいおい見栄を張るのもいい加減に……」


 彼は私の瞳を見つめて何かを感じ取ったのか押し黙った。


「……冗談だろ……?」


 彼は私に少し怯えたかのような表情になる。


「ね、ねぇ? 入学試験ってすごく難しくなかった?」


「う、うん。時間ギリギリだったし……」


 離れたところからヒソヒソと女子が話しているのが聞こえる。


「チッ、その態度気に入らねぇな……身体に教え込まれねぇとわからねえみてぇだな!」


 それを言うと彼は私の首を絞める。


「オラッ! 俺のものになると言え! それともこのまま死にたいか?!」


「ちょっと! いい加減に……」


 ルナ・エメラルが止めようとしてくるのを私が手で静止する。


「お、おい……このままだと死んじまうぞ……?」


 数十秒首を絞められても顔色一つ変えない私を見て向こうの顔はどんどん青ざめていく。私に恐怖を感じ始めているみたい。

 首を絞められることなんて日常茶飯事だった私にとってこんなことではなんとも感じない。

 そんなことを知らない向こうは顔に怯えを見せる。もうこの茶番も飽きてきたし、終わりにしよう。


「ぐぅ!! おうあぁ!!」


 私が膝蹴りを喰らわせると彼は痛みに悶え、すぐに気絶した。正直、なんでこんなのがこの学園に入学できたのかまるでわからない。


「……はぁ……面倒だわ」

 

 私は小声で呟いた。



◆◇◆



「続いてブルー=サードについてだ」


 辺り一面が黒で覆われた部屋で複数の鬼のお面をつけた人が囲んで話し合いをしている。


「有力な人材はいるか?」


 一人の鬼が聞くとほかの鬼が答える。


「剣聖の家系であるルナ・エメラルや事前総合評価一位のグラン・バーニン、そして王家の次女エメリア・エレメルが筆頭候補だろう」


「一人、気になる人物が」


 一人の鬼が口を出す。その鬼は一人だけ他の鬼とは違う面をつけていて存在感がある。


「事前調査に関して一切のデータがなく、かつ全ての試験を合格ラインぴったりで通過した者がいます。しかも書かれていた回答、行った実技は全問正解、残りは不正解でなく、空欄としていたり、実技の場合は辞退していました」


「つまりわざとそのようにしたと?」


「はい、その可能性が高いかと」


「誰なのだ? その人物とは?」


「……ノア・ブルーホワイト。彼女です」


「ほう、実に興味深い」


「まあ二年かけてじっくり観察するとしましょう。……最も、二年後彼らがここに残っているかはわかりませんがね。クックック……ここでは実力が全てです」

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