我が混沌
星野道雄
「我が混沌」
KAC2023お題③『ぐちゃぐちゃ』
『我が
◯
今回は「エッセイ」というものに挑戦しようと思い、まずはやってみる事にします。
※苦手な方はこの時点でご退場をお勧め致します。ここはアナタのいるべき場所ではございません。どうかお目汚しされないうちにお気をつけてお帰りください。
──。
私はエッセイというものに興味を持ちながら、自分でそれをやるという事に対して少し嫌煙しておりました。というのも、エッセイとは言わば「作者自身」を作品として送り出して勝負するわけですよね。
まず一つめに、私という人間が、読者様にとって受け入れ難い場合はそこで終わってしまうんじゃないかという不安。
二つめは、“私”という人間を他人様に明かす事で作品を読む時に“私”が透けて出てきてしまうんじゃないかという危惧。
まあ最も、そんな高尚な作品は手がけておりませんので、私の様な人間が作品の裏からむっくり出て来ようが関係ないとも言えますが。
ですが、去年の十月末にカクヨムデビュー…というより人様に作品を発表するデビューをして早4ヶ月ほど経ち、様々な素晴らしいと思う作品や作者様との交流を通して、私の心境にも変化が訪れて参りました。
せっかくKAC2023という短編企画もある事だし、少しエッセイしてみようかな、と思った次第です。
お題①②と続けてスピンオフだったので箸休めにでもなれば。(④から再開予定)
因みに、決して『ぐちゃぐちゃ』テーマで話が思い付かず、エッセイに逃げた訳ではございません。違う、断じて。
●これまでの『星野とKAC2023』は──。
「カクヨムコン8」の読者選考期間が終了し、けっこう呑気していた星野は土壇場でKAC2023に初参加を威勢よく表明した。
なぜ滑り込みで参加したのか、それは星野の尊敬するユーザー様方の参加や、何となく体感でこの企画の盛り上がりを感じた事で、少し寂しくなったためである。
しかし土壇場故に時間はない。星野は慌てて自らの長編作品に登場する『
きっとこの企画は作者の発想力であったり引き出しの量であったり、即興でどれだけの短編が用意できるのか試されているのではないか。星野はそう解釈した。
しかしお題③は「ぐちゃぐちゃ」である。なんだい、それは。
本屋ならばお店なのでいくらでもアイデアを出してみせよう。例えば「不思議」という要素をひとつまみして「不思議な本屋」でも良いし、そこに訪れる「不思議なお客」でもいい。このテーマでお話を作るとしたら主に「本屋」と「お客」の2つの入り口みたいなものがあるんじゃないかと星野は勝手に思った。いや、多分もっとある。
ぬいぐるみでもそれは同じに感じた。「ぬいぐるみ」そのもの、「持ち主」「売ってるお店」「思い出の話」などなど。お話をカクうえでも特に困る事はなさそうであった。
※個人の感想です。
しかし「ぐちゃぐちゃ」ってなんだい?
ここから一体どうお話を作れば良いんだい……?
●星野と『路頭』
星野は仕事のお昼休みにお題を確認するとすぐに路頭に迷った気がした。言うなれば心の路頭である。久しく迷い込む事はなかった、あの路頭に再び足を踏み入れる事になった。
ああ、最後にそこへ足を踏み入れたあれはいつだったか──……。
高校を卒業して直ぐに三年ほど適当な会社に就職して働き、しかしどこか人生に対する「
星野道雄(21)は死にたいくらい憧れた花の都“大東京”に突撃する事にしたのだった。
その時の私は「ビッグになる」と鼻息荒く、内なる矢沢と語り合っていた。
「私は東京で一旗あげてビッグになるよ、そのために一度横浜駅に途中下車してスナックでアルバイトしても良いんだ。私はきっと成り上がるんだ」
「ああ、“成り上がり”。良い言葉だね。でも星野。君は何になるつもりなんだい?
ほら、矢沢はさ、スーパースターになるために飛び出したわけよ。ビッグなやつね。ロックンロールセンキューて感じよ」
「イェア、ロックンロールセンキュー、キャロル。ファンキーモンキーベイベー」
こうして、矢沢との交流を経て決意を固めた私は東京都港区に単身乗り込んだ。待ってろ、東京。鎌倉の星野が今行くぞ。
──。
結論から言うと、私はなけなしの貯金五十万円を全て失った。
それどころか、怖いお兄さん達に拉致同然で黒塗りのアルファードに乗せられ、六本木から三軒茶屋へ。そして私は三軒茶屋で上着を奪われると車を降ろされた。さらにそこで置き去りにされた。
こうして私は物理的にも路頭に迷った。
当時の私は西麻布にある家賃三万五千円のシェアハウスとは名ばかりの刑務所で暮らしていたのだが、三軒茶屋から一体そこまでどうやって帰ればいいんだ。金も上着もない。あるのは身分証明書と惨めな人間一人だけだ。
結論から言うと、私は西麻布まで歩いた。グーグルマップという文明の利器を頼りにひたすら歩いた。帰った時には夜が明けて空は白んでいた。
「これが東京か。へへ、しょっぺえなあ……」
私は東京に敗北した。どうやら、私という人間はハナから鎌倉に収まる人間だったらしい。
何が竹下通りじゃい、小町通り万歳。と自分を納得させざるを得なかった。
──。
路頭に迷ったのはこの時以来である。それほどまでに今回のお題『ぐちゃぐちゃ』というのは厄介に思えた。
◯
●星野と『予感』
だが、私もアマチュアとはいえ物書きの端くれ。何もアイデアが無かったわけじゃない。お題が出た本日(2023.3.6お昼頃)の時点から様々な短編のアイデアを練ってみた。
しかし、結論から言うとそれらは全てボツにした。
それは何故か。それは『予感』がしたからである。
「お前、これは面白くならないぞ」
リトル星野の声が聞こえた。
私もリトルに同感だった。私はどちらかと言うと、直感だとか予感だとかいったものを重視する人間である。直感とはデタラメではなく、これまでの経験や知識に裏付けされた本能的警告だと思っているからだ。
「お、今回は面白くなりそうだ」
「これは良い展開だぞ」
「いや、これは駄目だ」
こんなふうに物事に打ち込む時に何となく感じた事を重視して判断している。そのセンサーが今回は「辞めとけ」と告げた。
しかし、せっかくなのでそのボツ案をここで披露したいと思います。
とても恥ずかしいモノなのでどうか笑って私と共に供養して下さい。
────。
案①『思春期で頭の中がぐちゃぐちゃな少年(少女)を解き放つ青春ストーリー』
これはいける。私は思った。
最後に屋上で叫びたがっている心を叫ばせてみるか? 文化祭でバンドやってもいいなあ。それか合唱コンでも良いかも。ミステリー要素を入れてもいいぞ。
いや待てよ、それ私に面白くできるかな。
どう背伸びしてもそれ以上のアイデアが、ビビッとくるものが、私には無かった。降りてこなかった。青春を軽んじて過ごした罪と罰なのか。
案②『ぐちゃぐちゃ=混沌と定義して、混沌の神様(ゆるキャラ)っぽいのと少年(少女)との感動的交流』
これは勝つる、私は思った。
世界を破壊しようとする「混沌」は純粋無垢な幼子との交流を通して「人の心」を知る。
何とも邦画的でまるで毎年やってるファミリー向け夏映画じゃないか。混沌は名前を「コントン」とかにしたら可愛いかも。
いや待てよ、それ私に面白くできるかな。
これ一歩間違えたら大スベリだぞ。それに雰囲気が何処となく「ぬいぐるみ」の時と被っている気がする。大体「コントン」って名前はなんだ。パンダじゃあるまいし。
案③『ぐちゃぐちゃとは、散らかっている様をいうらしい。であれば“異世界お掃除話”だ。』
これしかない。私は思った。
私の好きな妖怪や化物、所謂「オカルト」を扱ったお掃除業者の話をしよう。お化け退治でも良いし、スペース・オカルト・お掃除・ハードボイルド・お仕事。のような。
いや、駄目だ。これはもはや私が既に連載している長編作品にも通じるし、単なるゴーストバスターズになってしまう気もする。
────。
これらの非常に可愛そうな三つの案たちは全てボツにした。私の胸の中へしまい、静かに供養しようと思う。良かったらこの苦しみを読者の皆様とも共有させて下さい。分かってくださる方もどこかにいるかも知れない。
これら全てに『予感』がしたのだ。これらは上手く行かないぞ、と。
こんなにも露骨に嫌な予感を感じたのはいつ以来だったか──……
東京に敗北し鎌倉への退陣を余儀なくされた私は実家へ逃げ帰った。何せ資金が何もない。
だが仕事という足枷から解放された私は飛べもしないくせに性懲りも無く毎日プラプラしていた。無職万歳。
「ねえ星野ちゃんさ、ちょっと一緒にビジネスやらない?」
そんな時、無職で暇していた私を幼馴染が起業に誘ったのだ。「ビジネス」。その響きには散々に苦渋を舐めさせられた。
世の中、そんなに甘くない。上手くいく人間には理由と素質があるというのが私の持論だ。
・いわゆる天才。一人で勝手に完成している。
・二世型。親、または一族が立派。産まれた時から勝利を約束されている。失敗しても誰かが助けてくれる。
・バイタリティモンスター。圧倒的なフィジカルとメンタルを武器に境遇や才能を跳ね返して自らの力で未来を切り開く。彼らは「努力」を正しく行える。
こんな具合に大体何かしらの才能を持っていて普通ではない。外れている。だが私は不公平を訴えたいわけじゃないし、腐っているわけでもない。
彼らに成りたくば「普通」の枠組を飛び出すしかない。その勇気が無いならば、「普通」の道に生きる他ない。
こう結論付けたわけです。(完全に持論です)
ごちゃごちゃと議論をこねくり回しましたが、要するに何が言いたいかと言うと。
──私はその幼馴染の口車に乗って「青汁ビジネス」を始めた。
青汁は機能性表示食品として販売する事ができる。本格的な健康食品のもっとライト版みたいなもので、平たく言うと販売に特別な資格などもいらない。その代わりに「効果を医学的に保証しませんよ」みたいなものである。
青汁の成分は調べればすぐに分かるが、どれを買ってもほぼ同じである。多少の、水に溶け易さの差はあるがほぼ同じ。私は実際に大手の物を数社ほど買って飲み比べて検証した。(諸説あり)
じゃあ、売れてるものと売れてないものがある中でその差は何か。
その差とは「ブランド」である。
仮に本当に全部同じならば、より売れてる、信用のある、絶対に美味しく健康になれそうだなあ、という気がする。そんな有名ブランドの物を買うわけです。誰が聞いた事もない奴から青汁みたいな緑色の苦い飲み物なんて買うものか。誰だってそうする。私だってそうする。
私は見事に失敗して負債十五万円と、完成した青汁の在庫を二百個ほど抱えた。現在も私の部屋の隅に巨大な段ボール箱が二つ鎮座し、中には私が少しずつ飲み進めている青汁が眠っている。
一袋で一カ月は保つ計算なので、私が一人で飲み進めると約二百カ月は必要な計算になる。まだまだ先は長い。
失敗する『予感』はあった。でも辞められなかった。私はこれ以来、予感をある程度は信じる事にしたのだった。
その予感が今回も私に告げた、『ぐちゃぐちゃ』はそれだけ危険なテーマだぞ、と。
●星野と
ここまで『ぐちゃぐちゃ』というテーマに悩まされ、もはや頭の中の方がよっぽどぐちゃぐちゃになってしまっていた。
愚痴の一つも言いたくなるというものである。
運営、いやあのカクヨムの公式キャラクターの「トリ」はなんだ。あの胸のファスナーみたいなのはなんだ。澄ました顔しやがって、私を弄んでいるに違いない。確かに私より偉いかも知れない。だがあんまりだ。時間のない中で「本屋」と「ぬいぐるみ」に対して下手なりに一生懸命向き合った私に対する態度か、それが。
出題からわずか三日で話を考え、仕事の合間に書き上げ、かつ面白い。そんな瞬発力と発想力と文章力を結集した即興のセッションはもはや「JAZZ」だ。なんだトリ、お前「JAZZ」が読みてえのか?
私が察するに──。
「あ、星野の奴は『本屋』と『ぬいぐるみ』をクリアしたようだッピ
そろそろ、カクヨムの“洗礼”を浴びせてやるかッピ(笑)
次のお題は『ぐちゃぐちゃ』。精々、足掻くが良いッピ」
とかいうノリでお題を決めたに違いない。実際、私の体感ではお題の難易度が回を追うごとに上がっている気がする。それともこれは私の被害妄想か。
※運営様、誠に申し訳ございません。愚痴と愚痴とが合わさって何やら愚痴愚痴と言うてはりますけど私は決して特定の個人に対して攻撃的な意図は一切ございません。
毎度の事、カクヨムが盛り上がるよう面白い企画の立案と運営。大変感謝致しております。
◯
『ぐちゃぐちゃ』というお題に向き合い、今日一日いろいろと頭を使ってみました。
でも思い返してみると、自分の人生の方がよっぽど「
いろんなバイトやいろんな経験をしました(善良、非善良問わず)。それなりに出会いと別れも経験しております。
熱々の鉄板を敷いて、その上でアームレスリングデスマッチに興じたのは今となっては良い思い出です。
私にとっての創作活動とは、今更格好良く言っても仕方のない事ではありますが、この自分の中の「
それで少しでも共感して下さったり「いいね」とか「♡」だとか「☆」なんかが貰えたら嬉しい。
それは私の「ぐちゃぐちゃ」が誰とも知らぬ誰かに認められたという事だと思うからです。
少なくとも、その瞬間だけは通じ合う何かがあったんだと私は思いたい。
このエッセイも結局ぐちゃぐちゃになりました。でも開き直らせて頂きます。これが私です。
『謙虚であれ、真面目な事は尊い事だ』。と、ある尊敬する人に言われました。謙虚と真面目は異なる意味ですが、私はこれを言葉ではなく心で理解しています。
なんでも良いじゃないか、良い言葉なんだから。
何でもかんでも明らかにすれば良いと言うわけでもない。ぐちゃぐちゃに混ざり合って混沌としている方が面白いモノも世の中にはたくさんある。
それが、我が『
────「我が混沌」完
我が混沌 星野道雄 @star-lord
★で称える
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