ぐちゃぐちゃになったアナタ

ねこじゃ・じぇねこ

第1話

 昔からアナタは空気を読める人だった。誰とでも仲良く話せて、場の空気を壊すことなく取り持つことが出来る人。私と同い年の若い娘だったにも関わらず、アナタは私の知る誰よりも大人だった。けれど、そんなアナタの活躍を正しく評価できる人はあまりいなかった。


 アナタは言わば縁の下の力持ち。気づかない人は気づかずに、アナタの存在を蔑ろにしてしまう。きちんと評価されている場面を私は見たこともない。私が労ったところで、アナタの苦労は報われない。アナタはもっと多くの人から評価されるべきだった。けれど、その前に、アナタは心身ともに耐えられなくなってしまってぐちゃぐちゃになってしまったのだ。


 ぐちゃぐちゃになったアナタは世界の片隅に追いやられた。抜け殻のようなアナタがそこにいた。変わり果てたアナタが。もう取り返しがつかないのだと私が途方に暮れる中、アナタは辛うじて残っていた両目で私をじっと見つめてきた。恨んでいるような、或いは何も考えていないような、そんな眼差しで見上げられているうちに、私はふと思い立ったのだ。


 ぐちゃぐちゃになったアナタをこねこねしてみたい。

 読みすぎた空気の重さに耐えきれなくなってしまったアナタの心身を、払い除けられたりしないこの両手で包み込んで、泥人形のようにこねこねしていくのだ。

 そうして作り上げるのは、私の脳裏に焼き付いたかつてのアナタの姿。きっとそれは本当のアナタじゃない。

 けれど、アナタを放っておけなかった。アナタがいたから助かった人はたくさんいたはず。誰も彼も気づいていないだけで、アナタの優しさに触れた人だっていたはず。そんなアナタがぐちゃぐちゃのまま放置されているなんて、耐えられなかったのだ。


 不器用なこの手で作り上げる歪な人形は、かつてのアナタとは程遠いかもしれない。それでも、私は夢見ていた。アナタが再び笑ってくれるその日の訪れを。

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