第7話 いざ、戦場へ
一同は“モーモーファイヤーの計”を実行するために、各村を回ると理由を話して包丁や果物ナイフを借り牛達の角に括り付けていく。
準備を終えると、ルーフェルはサターナに視線を向けた。
「サターナちゃんとベルルちゃんは、ここに残ってお祖母様を守ってあげて」
「どうして、私が留守番なのですか!?」
「そうです! わたくしも行きます!」
ルーフェルの言葉に、当然二人は反論してくる。
それに対して、レヴィアは心の中でこう思った。
(私は行かないとダメなんだ… そう… だよね…)
何故なら、彼女は優秀な魔法使いではあるが少し気弱なところがあり、本音では戦場に行くよりもここで動物の世話をしていたかったのだ。
「サターナちゃんは、次期魔王なんだから当然でしょう?」
「では、私は王都までご一緒しますわ」
ここから戦場までは、王都の近くを通るのでサターナはそのような提案をしてきた。
もちろんそのまま何だかんだ言って、付いていく気満々である。
「そうだね。王都に戻ったほうが良いかも知れないね。じゃあ、王都までは一緒に行こう」
「はい、お姉さま!」
嬉しそうに返事をするサターナ。
そして、ベルルも同行してくる事を訴えてくる。
「わたくしも付いて行きます。戦場は水物。わたくしが現場で臨機応変に策を講じなければ、必勝は望めません!」
「ベルルちゃん…… うぅ~ん……」
ルーフェルはベルルの発言に頭を抱える。確かにベルルの言うことは一理あるからだ。
「できるだけ後ろでいてね……」
「はい!」
ルーフェルは仕方なく、彼女に同行を許可するのであった。
「公爵夫人様には、戦場に行くと聞けば心配なさるので、サターナ様を王都に送り届けると説明致しましょう」
「説明不足だけど、嘘は言っていないわね」
ベルルの提案に、アイシャも賛同する。
「それ、いい考えだよ! ベルルちゃん!」
幼い軍師の献策をルーフェルは称賛して採用することにした。
「 ―というわけで、お祖母様。サターナちゃんを王都に送り届けてきますね」
「気をつけて行ってくるのよ」
ルーフェルは公爵邸に帰ると、公爵夫人に事情を説明してサターナを連れて王都へ出発する。
(どうして、牛さん達を連れて行くのかしら?)
一同の背中を見送りながら、夫人は呑気な感じでこのような事を思っていた。
ルーフェルの”のんびりとした性格”は、この祖母から母親、そして彼女へと受け継がれたようだ。
彼女達は牛の背に乗りながら、王都を目指す。
そして、道中に立ち寄った村の人達に宿や食事の世話を受けながら、順調に進んで行く。
そして、三日後―
「王都が見えてきたね~」
「そうですわね。お姉さま~」
サターナは、目を輝かせて王都では無く姉を見る。
「あれが王都なのですか? わたくしのいた村より全然大きいです」
「まぁ、辺境の小さな村と比べたら大きいわよね」
一方、ベルルは王都の大きさに圧倒されており、アイシャが相槌を打つ。
「じゃあ、サターナちゃん。ここでお別れだね。私達はこのままお父様やお祖父様を助けに行くから、お母様によろしくね~」
「はい、お姉さま。牛さんはこのままお借りしていきますわね」
ルーフェルは牛の背中に揺られながら、王都へと向かうサターナと別れを告げるとその場を後にした。
「しゅっぱーーーつ!」
ルーフェルは元気よく声を上げると、彼女の後ろに付き従う三人の少女達、そして牛達と共に戦場へ向けて出発をする。
その三十分後―
「デスルドじいさんの牧場でイービル イービル オ~ こっちでモーモー そっちでモーモー ここモー そこモー どこでもモーモー 」
「これから戦場に行くというのに、呑気な歌ね…」
ルーフェルが突然口ずさみ始めた歌に、呆れ果てた表情を浮かべながらツッコミを入れるアイシャ。
「だから、こうやって緊張をほぐしているんだよ~。ねぇ、レヴィアちゃん?」
「そうですね……。黙っていたら、色々考えすぎて押し潰されてしまうかもしれませんね…。というか、私はもう押し潰されそうになっていますぅ~~~」
ルーフェルがレヴィアに声をかけると、彼女は泣きそうな顔をしながら答えてきた。
「レヴィアは、本当に怖がりね」
「だって、怖いものは怖いんですぅ~」
アイシャの言葉にそう答えながら、レヴィアは牛の背中から落ちないようにギュッと抱きついている。
すると―
「お姉さま~~~~!!!」
一同の後方から、聞き馴染みのある声が聞こえてくるので、その声に反応して振り返るとそこには牛に乗ったサターナの姿があった。
「サターナちゃん!?」
予想もしていなかった出来事に、ルーフェルは大きく目を見開く。
それもそのはず、彼女は王都にいるはずの存在であり、こんな所にいる筈がないからだ。
だが、それはルーフェルだけの反応で、その他は「ああ、やっぱり…」と言った表情をしている。
「お姉さま! やはり、私もお姉さまに付いていきますわ~!」
「えぇっ!? サターナちゃん! 駄目だよ! あなたはお城にいなくちゃ!」
「いえ! お姉さま達が危険な戦場に行くというのに、じっとしていられませんわ! それに、ここから一人で帰るのは逆に危険ですわ~」
「ここまで一人で来たけどね…」
アイシャのツッコミに対して、妹様は”うるさいですわ、ツンデレ”というような表情で睨んでくる。
(なっ!? このクソガキ様…!)
その態度に、頑張って怒りを堪えるアイシャ。
流石に次期魔王候補をぶっ飛ばすことは出来ないからだ。
しかし、確かに妹様の言う通り行きが何もなかったからと言って、帰りも安全という保証はない。
「弱りましたね。サターナ様を送り届ける時間もありませんし」
かといって、ベルルの言葉通り時間が無いのも事実であった。
そこにレヴィアがコレ幸いと、王都までのサターナの護衛を提案しようとする。
「あの… それでしたら、私がサターナ様の護― ひゃう!? なっ 何でもないれしゅ~~」
―が、妹様の”余計なこと言うなですわ! この弱気娘!”という視線に怯えて、撤回してしまう。
「仕方ないな~。サターナちゃんもベルルちゃんと同じように後ろにいるのよ?」
「もちろん、そうしますわ~」
こうして一行は、再びサターナを加え戦場に向かう。
その頃、戦場となる人間界と魔界の境界付近では、3000メートル程距離を置いて両軍が陣形を整えていた。
そこには兵を引き連れたデスバイン公爵も既に合流している。
公爵が馬に乗って、魔王のいる本陣に向かっていると前方から見知った人物が、同じく馬に乗って本陣の方に向かっていたので、彼は近寄っていくと声をかけた。
「デスルド! お主も今回の戦いに参陣していたのか」
「おお、デスバイン! そういう貴様こそ年甲斐もなくノコノコと何をしに来た?」
二人は軽口を叩きあう。デスルド公爵とデスバインは、前魔王の元で四天王を務めていた旧知の仲であり、数多もの戦場で轡を並べた戦友でもある。
現在は、100年前の戦いで前魔王を守りきらなかった責任を取る形で、四天王の座を退き辺境の領地を治めていた。
「最後のご奉公と思ってな」
「ワシも同じだ」
お互いに笑い合う二人。
だが、次の瞬間には真面目な顔に戻ると、デスバインは話を切り出した。
「お主が同じ理由で来たということは、ワシの勘もまだまだ錆びておらぬようだな……」
「ワシも嫌な予感はしていたが、ここに来て人間達の陣を見て確信に変わった」
デスバインとデスルドは、馬上から人間側が陣を敷いている方向を見つめながら、自分達の勘が当たっていることを察する。
彼らの視線の先には、広大な平原に展開中の人間達の大軍が映っている。
そして、その事は本陣にいる魔王や幹部達も同じで、老将二人が本陣に来ると議論が行われていた。
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