罰ゲーム用クジの封印が決まったときの話
綾乃姫音真
罰ゲーム用クジの封印が決まったときの話
「はい」
わたしは妹に向かって箱を差し出した。中身は紙を三角形に折り込んだクジになっている。姉妹ふたりがそれぞれ考えた内容で、拒否権なく実行しなくてはならない。そういうルールだったのだけど……ちょっと悪ふざけし過ぎた自覚がある。主に最後に書いた1枚は、間に合うなら今からでも消し去りたいくらいだ。
まぁ、まさかいくら妹にクジ運が無いとは言えピンポイントで引いたりしないだろう。
「えっと、なになに――は?」
妹がジトーっとした目で見てきた。
「どうしたの?」
「……お姉、馬鹿?」
「馬鹿は酷いんじゃない?」
あ、これ引いちゃった?
「罰ゲームをクジ引きで決めるってルールで『全部の罰をひとりで受ける』とか入れるのは馬鹿でしょ」
大丈夫、自分でも思ってる。わたしが負けてたら引いてた可能性もある訳だから……本当に勝ててよかった。
「いくらなんでも引くとは思わないでしょ」
「あたしのくじ運舐めないで」
自慢できることじゃないですよー妹ちゃーん」
「どれどれ?」
言いながら箱をひっくり返してクジを順に開いていく。わたしが書いた分も正直、半分くらいしか覚えてないんだよね……妹はどんな罰を書いてたんだか。
「…………」
「…………」
・今日1日、ツンデレになる
・今日1日、ヤンデレになる
「このふたつだけで面白いことになってる」
わたしが書いた罰だけど……なんか、自分自身がものすごく馬鹿に思えてくる。全部乗せとかなに考えて入れたんだろうねわたし。
「――っ」
わたしの言葉でイラッとしたのかクッションを投げてきた。何年姉妹をやってると思ってるんだか。16年だよ? しかも双子。予想通りの行動! なお、予想が出来ても躱せるかは別問題の模様……モロに顔で受けてしまった。
「酷い」
「あ、あたしは別に――ねぇお姉?」
ふむふむ、他のクジも開けていきますか。
・着てる服を脱いで、クンカクンカされる
・スカートめくりされる
……待って、この妹はなにを書いてるの? これ、わたしにやらせたかったと? いや、自分がしたかったのか?
ただクンカクンカか――。
「……えっと」
反応に困るなぁ……。
「べ、別にお姉にやりたかったわけじゃないんだからね!?」
なんて言いながらシャツを脱いで投げつけてきた。え、わたしクンカクンカしないといけないの? 双子の妹のシャツを?
……躊躇ったのは僅かな間だけだった。両手で鼻へ持っていく。
「すんすん」
「~~~~っ!? いい匂いでしょぉ? お姉なら好きなだけ嗅いでいいからね!?」
思ってもないこと言ってるなぁ。羞恥心で涙目になってるじゃん……そして事実、いい匂いなのがなんとも言えない。
・下着の色を告白
「……」
ねぇ、やっぱこの妹の書いた罰が変だって! 怖い怖い!
「お姉……今日は水色なんだけど、スカートめくって確認してみる?」
「いや、もうシャツ脱いでるからね。さっきから水色のブラが丸見えだから」
お互い、下着姿を見る機会もあるよ? でもこれはさぁ……。
「…………」
わたしの言葉を無視して膝立ちになる妹。マジか、わたしはこれから双子の妹のスカートをめくらなきゃいけないのか……。
「…………」
無言で妹(上は既にブラのみ)のスカートを捲る姉。なんだこれ……まさかこんな罰ばっか書いてるとは思わないじゃん! わたしのせいだけど、わたしは悪くない! というか負けてたら、わたしが悲惨だった可能性が高い! 双子だけあってクジ運も正直……同じくらいなんだよね。
・全身をくすぐられる
うわ、ちょっとくらい変わったのを入れようと思って書いた全身くすぐりだけど……今現在、対象がほぼ下着姿のせいで大分アウトな感じに。
「…………………………っ」
少しの間、迷う素振りを見せたけど、その場で座る妹氏。わたしに向かって足を伸ばしてくる。
「なんで足?」
わたしの疑問に言葉じゃなく視線で返してくる。このクジ? 視線の先にあったくじを開くと、
・足裏をくすぐられる
とあった。うん、双子なんだなと実感した。というか、自分が書いたクジの中身をしっかり把握してる。きっと折り方を変えたりしてるんだろうなぁ。パッと見じゃわからない程度に……もっとも、わたしもやってるけど。とはいえ、同じ思考してるなぁ。ただ妹は恐らく全部覚えてるのに比べてわたしは半分程度なのが……切ない。
それにしても足か……ついでだとばかりに、わたしもひとつのクジを開いた。
・勝者のソックスの匂いを嗅ぐ
匂い関係はあんまり人のこと言えないんだよね……相手に嗅がせるか、相手のを嗅ぐかの違いで。今回はシャツとソックスの差はあるけど相打ちと。流石双子♪ ……むしろ、足のわたしの方が質悪い気がする……はぁ。
…………あ、自分で書いといてアレだけど、わたしの足、臭くないよね……? 嗅がれる前に一応、確認したいかも……。でも、妹は確認せずにシャツを投げて来てる訳だから言い出しにくい……。
「……………………へ、変態!」
「あなたに言われたくないから! わたしになにをさせる気だったのかな!?」
「やめやめ! こんな罰ゲームクジは封印!」
「勝った側だけど賛成! 負けたときのことを考えるとゾッとするし!」
「半分はお姉が考えたくじだけど?」
「もう半分は妹ちゃんだけど?」
一瞬、顔を見合わせ、どちらともなくクジを集めると、ビリビリに破いていく。小さくなった紙片をふたりで更にぐちゃぐちゃにしてそのままゴミ箱へ!
こうして姉妹間の黒歴史がまたひとつ増えたのだった。
ちなみに、ソックスまでの罰はしっかりと実行されました……幸いなことに臭くなかったとのこと。
罰ゲーム用クジの封印が決まったときの話 綾乃姫音真 @ayanohime
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