画家を目指す友の謎理論
武海 進
画家を目指す友の謎理論
連絡が取れないから様子を見に行って欲しい、進学の為に地元から一緒に出てきた友人の母親からの頼みで俺は彼が住む安アパートを訪れた。
俺は公務員を目指し専門学校に、彼は画家を目指して美大に入学した。
入学当初は毎日のように一緒に遊んでいたのだが、段々と互いに課題にバイトにと忙しくなり会う機会が減っていた。
だからこのアパートに来るのは二週間ぶりなのだが、階段を昇り彼の部屋の前に着いた俺は顔を顰める。
部屋からとんでもない悪臭がしたのだ。
「おい北斗! いるのか!」
嫌な考えが頭を過ぎった俺は近所迷惑など考えずに扉を叩く。
「おー、幸太か。ちょっと出れないから勝手に入ってくれ」
一先ず友の声が聞こえてきたことに安堵した俺は、扉を開けると異臭を放つ雪崩に巻き込まれた。
「くっさ! 何だこれ、ゴミじゃねえか!」
ゴミの雪崩で尻餅を付いた俺は、頭から被ったゴミを払いながら部屋を覗く。
部屋の中は以前のきちんと整理されていた頃の面影はなく、溢れんばかりのゴミでぐちゃぐちゃだ。
一言で言えばとんでもなく汚い。
そんな汚部屋の中から絵具塗れの服を着た北斗が芋虫のように這い出してきた。
慌てて助け起こしながら、俺はこの惨状と連絡が取れなかった理由を問いただした。
彼が言うには連絡が取れなかったのは携帯がゴミの海で遭難してしまったから、らしい。
連絡が取れなかった理由はまだ理解できたのだが、部屋が汚部屋になった理由は全く理解出来なかった。
「かの葛飾北斎は汚いぐちゃぐちゃの部屋で傑作を描き上げたのだから、僕も部屋をぐちゃぐちゃにすれば最高の作品が描けると思ったんだ」
呆れて俺は何も言えなかった。
別に葛飾北斎が素晴らしい画家というのはあまり絵に明るくない俺でも知っているが、絵が素晴らしいのと部屋が汚いのは幾らなんでも関係ないだろう。
そういえば最後に会った時、北斗は良い絵が描けないと悩んでいたが、彼は悩みすぎておかしくなったのかもしれない。
「馬鹿なこと言ってないで部屋を片付けるぞ!」
嫌がる北斗に、片づけないなら親御さんに言いつけると脅しながら無理やり片づけを始めさせた。
そうして一日がかりで綺麗にしたぐちゃぐちゃだった部屋から出てきたのは、北斗が描き上げた俺でも分かる素晴らしい一枚の絵だった。
画家を目指す友の謎理論 武海 進 @shin_takeumi
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