七色のスープ

雨宮羽音

七色のスープ

 まずひとつ、お爺様が投げ入れた。


 真っ赤に煮え立つ赤の粒。


 次いで優しい緑色。


 ほのかに湿った水色も。


 最後に明るい黄色でおしまい。


 たっぷり中身が入ったお皿を、お爺様がぐーるぐる。鼻歌まじりにかき混ぜる。


「ぜんぶ一緒でだいじょうぶ?」


 ボクは机にかじり付き、背伸びをしながらお皿をのぞく。

 お皿の中身はうずまいて、色んな色がぐっちゃぐちゃ。


 お爺様はボクを撫で、優しい笑顔でふぉふぉふぉと笑う。


「大丈夫じゃ、ぜーんぶ大事なものじゃから」


「まぜたら変になったりしない?」


「むしろ混ぜなきゃ味気ない」


 だんだん色が整って、お爺様が「よし」とうなる。


「まだまだいろいろ加えるぞ」


 お爺様は立ち上がり、どこからともなく楽器を取り出す。

 そうして奏でられたのは、せせらぎみたいなバイオリン。


 お皿の中身が踊りだし、ぴかぴかきらきら嬉しそう。



 曲が終わると杖をもち、今度は中身に模様をえがく。

 最初はキレイな風景画。一度崩してふわふわ動物。


「ねこ」


「犬じゃ」


 ボクはふてくされてぷーっと膨れる。お爺様、あんまりじょうずじゃないみたい。


 お絵描きをやめて杖をしまう。次はいったいなんだろな。


「これも忘れちゃいかんなあ」

 

 ゆったり袖から取り出した、分厚く大きな紙の絵本。

 そこから語りつむがれる、ボクも大スキな物語。





 気付けばお皿の中身には、色とりどりの七つの光。

 まとまりがないぐちゃぐちゃの、でも美しくまばゆい輝き。


「いろいろ入ってキレイだけど、ケンカをしたりはしないのかな?」


「何事も、バランスが大切なのじゃ。これは実に複雑なんじゃよ」


 お爺様はそう言って、お皿の中身をジョウロにそそぐ。

 そうして雲の隙間から、地上に向けて雫をこぼす。


「そう……人間というやつは、実に複雑なんじゃ──」




 しとしと、しとしと、水が降る。


 キラリと七つに光る雨。


 大地を潤す神の恵み。



 虹から産まれる人間は、どんなヒトになるのかな──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

七色のスープ 雨宮羽音 @HaotoAmamiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説