No.2 春の気配はプロローグ

風白狼

春の気配はプロローグ

 満開の桜が入学したての大学一年生を祝福するように咲き誇り、俺はその一本道を悠々と歩いていく。春のそんな気配も、俺にとっては序章プロローグに過ぎない。ようやく俺の季節がやってきたんだ。

 いや実際は桜は祝福なんてしてなくて、むしろ散るその姿に想いを寄せる人間クソうぜえくらいに思ってるに違いなくて、掃いて捨てるほどある花びらがマッハで腐っていく様をせせら笑っているのかもしれなかった。いつだって人間の想像力は知覚するありとあらゆる物に余計な風味を足して景色を彩ろうとする。そこにあるのはそれそのものでしかないというのに。

 それでも人間様である俺は来たる春に胸を踊らさざるを得なくて、こうして一張羅のスプリングコートに身を包み初登学をキメていた。

 誰も彼も俺を見ている。振り向いている奴すらいる。熱視線は俺の背に矢のように降り注ぐや否や快感に変わり田舎のババアの味噌汁の如く五臓六腑に染み渡る。コレだコレ。春は俺の為に来た様なものだ。すれ違う奴らは全員その恩恵に預かっているに過ぎないのだから皆揃って感謝して欲しい。

 ああ暑い暑い。こうも見られては身体が火照る。俺はコートのボタンをひとつずつ外して身頃を開いた。風よ吹け裾よ舞え。

 温い春風と俺はひとつになる。



【大学内不審者情報】

 四月一日、大学正門前にて全裸の男が目撃され警備に取り押さえられました。

 学生諸君におかれましては今後も類似の事案に気を付けて下さい。


 以上

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