人生負け犬のおっさん、世界最後のゴーレムを手に入れて無双する！

はじまり

　昔々、それは気の遠くなるほどの昔、あるところに王国があった。

　その王国はゴーレムと言う機械を使っていた。

　ゴーレムは人が乗り込み、精霊と人が共に協力して動かす機械だ。

　それには偉大な力があった。暴れる川をせき止め、山を動かすほどのとてつもない力があったという。無論その力は……戦でも役に立った。

　王国は武力によって諸国を併呑し、多くの民族を奴隷として従えた。

　ゴーレムの力を利用した王国は、栄華を極めた。

　王はもとより、その民もあらゆる贅沢を楽しめたという。

　しかしある時を境にして、王国はこつ然と歴史から姿を消した。

　王国に何があったのか？

　多くの歴史家がその謎を追及したが、ようとして知れなかった。

　もはや今となっては、ゴーレムを操る術を知る者はいない。

　いまやゴーレムはただのおとぎ話、伝説となった。

　しかし王国は遺跡にある物を残した。――「魔道具」だ。

　煌々照らし続けるランプ。水の尽きぬ水差し。

　伝説のゴーレムに比べれば、つまらぬものかもしれない。だが、貴重なものだ。

　危険を顧みずに遺跡に潜り込み、魔道具を持ち帰り、一攫千金を成し遂げる者が次々と現れた。

　人々は彼らを「冒険者」と呼んだ。

　レヴィンもそんな冒険者のうちの一人だ。

　赤い短髪に白髪が交じる、壮年の男性。

　彼を例えるなら、研ぎ続けて薄刃になったが、鋭さは増したナイフだ。

　しかし、彼の仕事ぶりは正直と評判だが、大成しなかった。

　チャンスはあった。魔道具を見つけたことも一度や二度ではない。

　だが、彼は他人を押しのけてまで、金持ちになろうという気が無かったのだ。

　彼は薄暗い酒場でテーブルにつき、向かいに座る若い男と話していた。

　若い男は気取った様子で、手に持ったグラス入りワインを揺らしている。

　カビた木製のジョッキで、馬の小便のようなビールを飲んでいるレヴィンとは、実に対照的だ。

「僕の隊に加わらないかレヴィン？　君は評判も悪くない。いいヤツだと聞いているんだが？」

「誘いは嬉しいが、ゲルリッヒ……オレはもうロートルだよ。最近は膝も悪い」

　レヴィンがゲルリッヒと呼んだ青年は、20台という若さの冒険者だ。

　彼はまるで白磁器のようなシミ一つない肌に、シルクのような金髪を持っている。

　そしてゲルリッヒのその声は、心地よい弦楽器のようだ。

　見目が整い、自信のあるふるまいをする彼は、とても頼もしく見える。

　彼は自然と人を集めて、その中心になる男だった。

　そのためか、悪い意味で貴族的な部分が目立つ。

　一言で言えば自信過剰。世のすべてが自分のためにあるといった万能感。

　そういった類のものだ。

「だからお前たちだけでやってくれ、迷惑もかけたくない。オレは一人でやる」

　レヴィンはベテランだ。

　今こうしているように、遺跡に挑戦する隊への誘いが無いわけでもない。

　しかし彼は断ることにした。

　遺跡で見つかる魔道具は貴重で、とても高値で売れる。

　見つけるまでも大変だが、見つけたその後も大変なのだ。長年連れ添った仲間が、魔道具を見つけた瞬間に敵になるのも、そんなに珍しい事ではない。

　もし真っ向勝負になったら、レヴィンが若い冒険者に敵うはずがない。

　だから断ることにしたのだ。

　ゲルリッヒのような冒険者にとって「いい奴」と言うのは「都合のいい奴」と言う意味だ。すくなくともレヴィンはそう思っていた。

　レヴィンに断られると思っていなかったのだろうか？

　何かが勘気に障ったのか、ゲルリッヒは彼を遠回しに貶め始めた。

　レヴィンは彼なりに言葉に気をつけたのだが、それにあまり意味はなかったようだ。

「でも一人じゃ大きな成功は掴めませんよ。現にそうなってますよね？」

「僕はベテランのレヴィンさんが、若い子の刺激になって欲しいんです。それに、彼らに教えることを通して、レヴィンさんだって成長できますよ」

　――露骨なヨイショにオレは苦笑いする。

　ゲルリッヒはそれを見て、しめたとばかりに微笑み返すが、冗談じゃない。

　若造ばかりのパーティーに放り込まれたら、命がいくらあっても足りはしない。

　なるほど、奴がなにを考えているのか、それが透けて見えた。

　若造だらけで、遺跡を探索するためのノウハウが不足しているのだろう。

　道理でこんなジジイをしつこく口説くわけだ。

　耳障りよく成長だなんだ言うが、余計なお世話だ。

　お前はオレじゃない。

　他人の人生に責任を持つ気もないくせに、お前が作った危険に引き込むな。

「今さら伸ばそうとしても、ちぎれるだけだよ」

「絶対にできることだけやる。それがオレのやり方だ」

　挑戦はしない。できることだけする。これを笑われても別に構わない。

　彼は自分の仕事が認められないことには慣れていた。

「あなたができない事は、僕たちがします。どうでしょう？」

「オレの気は変わらん。頑張ってくれ」

「わかりました、レヴィンさんの選択ですから、もう何も言いません」

　断りの意志を伝えると、トゲのある言葉がゲルリッヒから投げかけられた。

　腹が立たないわけではない、しかし手を上げるほどのことでもないと思った。

　ただ、酒が不味くなるのだけは不快だった。

　気を紛らわせるように、オレはジョッキを持ち上げる。

　すると、ある人影が目に入った――