推し
金谷さとる
壁でいたい
すこし長めの髪を首の後ろで短い尻尾にしているのがなんだかかわいらしくて、ひっそり乱れた姿を妄想し、笑む。
ネオンくんちゃんの彼氏とゆったり会話している姿は架空の妄想が捗って楽しい。
「ふぅちゃんだ。良い本見つかった?」
にこにこと本を抱えたネオンくんちゃんが聞いてくる。抱えた本は図鑑だったり、環境関係の本だったりいろいろだ。
「んー、読みたい本は無限に欲しくなるから制限中。収入に限界があるのが悔しみぃ」
連れていってくれるアテンダントもなかなか見つからないしね。
「モブになって物語を見守るのって楽しいのに、どうして拒否られるの?」
アテンダントに拒否られることを知っているネオンくんちゃんの無邪気な問いに曖昧に笑って誤魔化す。
「不思議だよね。壁や路傍の石になって推しを見ていたいだけという罪のない希望なのに」
アテンダントはモブであれ、登場人物の器を持たせて物語を案内してくれるのだ。それは勘も察しも良いスパダリ様に確実に認知されてしまうという事である。
推しはこっちを見るな!
スパダリヒーローに見つかる。何度不審者じゃないと主張しても不審がられるのだ。
そうなると物語はめちゃくちゃぐちゃぐちゃに拗れていく。時には肉体もバラされる。おかしい。大概はホラーじゃないのに。
壁でいたいのに!
そして慌てたアテンダントが帰還させるという事を数回繰り返した結果、アテンダントに拒否られた。案内してくれるアテンダントが滅多にいないのだ。案内してもいいという数少ないアテンダントは高級品達で時に月の収入すべてがふっ飛ぶ。
物語を見守れないなら、自分の頭の中でまわすしかない。
小綺麗平凡眼鏡とクール美人系黒髪男子というネタは美味しいものだ。触らないし、まわすのは脳内だけで無罪だ。
「ふぅちゃん、タイくんはネオンの彼氏だからね」
うんうん。
現実世界の対人関係をぐちゃぐちゃにはしたくないよ。
推し 金谷さとる @Tomcat
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