第2話 地獄の意味

どれくらいの時間がたったかわからないが目が覚めると、そこは真っ暗な空間にいた。列車の音がせず、揺れもないそして、肉と混ざりあうような気持ち悪い感じもなかった。


「列車の中じゃない?」


部屋の中を歩いて探索してみたが、出口はなく、箱の中に閉じ込められている感じだった。


「本当になんなんだこれ、ここが地獄?」


不安な気持ちは止まらず、何かしたくても部屋で歩くことしかできなかった。


ずっとここにいるのか、一生このままこの暗闇の部屋でひとり・・・


「?!」


突然、床が抜け体が落っこちた。


「うああああああーーー!!!」


落ちる前は暗い部屋にずっとひとりでいることが地獄なんだと思っていた。


だけど、この後気づいたこれはまだ地獄の始まりなんかではないと。


暗闇に落下し続けて、落ちていく感覚になれて落ちているのか分からなくなったころ最初に着いた地獄は


「おぼ、(水)?」


暗くて気がつかなかったが、俺は水の中に飛び込んだようだ。


水中から出ようとしたが何故か落下が止まらず抜け出すことはできない。


まるで水難、息が出来ない苦しみを味わいながら、水中深くまで引っ張られる。


ずっと息ができなくで苦しいが死ねない、永遠と溺れているようだった。


「(いつまで、続くんだ・・・・)」


真っ暗なか不安と苦しみだけが続いた。


これが一つ目の地獄<水難の罰>、そしてやっとこの地獄は終わり、二つ目の地獄<墜下の罰>が始まった。


20メートルの高さから地面に落下し続ける。


地面に落ちた瞬間、痛みとともに体の隅々が変な方向に曲がる。


落ちた数秒後、また20メートルの高さから落下させられる。


無限ループを味わっている気分だった。


最初は、訳も分からず声を出しながら落ちていたが、徐々に声も出なくなって、どこが痛くて、どこが折れているのかわからなくなってきた。


そして三つ目の地獄<玩具の罰>。


そこは、大きな広場で、周囲が円を描くように大きな木が覆っている場所だった。


そこには、たくさんの鬼がいて、俺らが鬼のおもちゃにされる。


人で作った縄跳び、鬼のガムにされ、人を使ったキャッチボール、頭部でサッカー、鬼に体のいろいろなところを喰われたり、もう人としての扱いなどなかった。


これらの地獄が終わると、また真っ黒い何もない部屋に閉じ込められる。


俺にとってここが唯一の安息地だった。だけど、ここにいてもまた次も同じ地獄があると思うと心が休まるのは一瞬しかなかった。


ここにきてからたくさんの地獄を繰り返しどれくらいがたったのだろう。


もうよくわからない。


ずっと声を発してない。


この黒い部屋では、いつも後悔しかしていない


「(なんでなんで、あそこで助けようとしてしまったんだろう)」


「(なんで、なんで、こんな事、いいことしようとしてこれかよ)」


「(もう・・・・・・・・・・・・・どうして死ねないんだよ)」


もう何も考えなくなった。俺はとにかく死にたかった。


何度目になるかわからない地獄が終わり黒い部屋で顔をうずめていると、おかしなことが起きた。


なんだこの美味しそうなにおい、それはここではあまりにもおかしかった。


ここに来てから吐き気がするような臭いしかしなかったのに、なのになんで、そうかまた新しい地獄か、死んでから何も食べていない。


美味しいものを食べることは好きだったが腹が減らなかったし、食べる物なんてなかった。


食欲というもの自体がなくなっていた。


けれど、この匂いを嗅ぐとどうしても腹が減ってくる。


だめだ、ここは地獄だ。


これは地獄なんだ。


俺はずっと目をつぶっていた。


だって目を開けても真っ暗で目をつぶっているのと変わらないのだから。


「なんだ寝てるのか?」


この部屋で自分以外の声を聞いたのは初めてだった。


俺は思わず目を開けた。


目の前には、いつもなら暗く、なにも見えないのに火を起こして鍋を温めている一人の少年がいた。


「腹減ってない?」


そう言うと彼はシチューのようなもの渡してきた。


俺は何も考えずにそれを受け取ってがっつくように食べた。


うまい、うまい、こんなにもうまいものがあっただろうか、渇ききっていたと思っていた涙が溢れてきた。


「まだまだおかわりあるよ」


俺はここでこんなにも幸せを感じれるとは思わなかった。


「あ、あのシチューありがとう、久々にこんなに美味いものを食べた」


「いいよ、いいよお礼なんて、一人で食べるより誰かと食べたほうがうまいしな」


「でも、この食料どこから、というかこの黒い部屋にどうやって入ったんだ?」


「ん、あー食料は鬼から盗んできた。あいつら魂喰ってるくせに食べ物まで食べやがってよー」


そんなことを鬼の角のポーズをしながら言っていた。


「遅くなったけどよろしく僕ミロク」


「俺はルクトよろしく」


「にしても、ルクトはなんで地獄に来たんだい?僕は君が地獄に来るような人には見えなかったんだ。」


おれはそれを聞かれて驚いた。


「俺は、俺は・・・・」


そして、なんで地獄に来たのかわからないこと、なんで死んだかなど、ここに来てからたまっていた感情をすべて吐き出してミロクに教えた。


ミロクはすべて聞いた後、少し黙って考えていた。


「地獄は現世で人殺しの罪を持った魂が来るところだ」


「俺は人殺しなんかしていない!!」


「そんなこと・・・」


「もしかしたらだけど、君は電車に轢かれそうになっている人を助けようとその人を押した。しかし、その人は助からず電車に轢かれてしまった。最終的に君がその人の

電車に轢かれる原因を作った。だから君は人殺しになっているのかもしれない」 


「  」


言葉が出なかった。いや、え、どういう、俺は、ただ、人を助けようとして、どうして、なんで、こんな、結局こんなの


「命をかけた意味ないじゃないか」


俺は、どうすればよかったんだよ。


「意味がないわけないよ」


「君は自分の命を捨ててまで助けようとしたんだろ。そんなことできるやついないよ」


「君はとっても強い心を持った魂だ」


「どうだい?僕と一緒に地獄から抜け出さないか?」


そう言ってミロクは手を差し出してきた。


「お前なに言って・・」


無理だろ、俺はずっと死にたかった。


俺にそんなことができる勇気なんて・・・・


でも死にたいと思いながら、ずっとずっと待っていたのかもしれないこの地獄から抜け出せるときを、目の前に蜘蛛の糸が降りてくるときを、あとはそれをつかむ覚悟だけだ。


俺はまだ自分のしたいことに命をかける覚悟を捨てた訳じゃない。


俺たちはもう死んだ後だというのにミロクは本気で生きようとしている強い意思を感じる。


「やろうぜルクト、君の勇気を貸してくれ」


あの時命をかけて人を助けようとしたみたいに、ただ、純粋にしたいことをしたい。


もう後悔しないように、


「魂かけてやってやるよ」


俺はミロクの手を取った。

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