REGRET"

奈川

第1話 後悔

今、夜19時、天気は雨、暗い。風と雨のせいで寒い。


それにしても学校の帰り道ってなんでこんなにも気分がいいのだろうか。


明日も憂鬱な学校があるのに、その帰り道だけは、今日が終わった感じがして気分がいいのかもしれない。


「帰ったら、ゲームして風呂入って、昨日買っておいた業務用プリン食べるかな~」


そんなことを楽しく考えながら踏切の前まで歩いていた。


踏切の警報音が雨音に負けず鳴っている。


(カンカンカンカンカンカンカン)


「ふうー寒い」もう白い息がでる季節だ。


(カンカンカンカンカン)


「ん」


目を疑ったがそこには踏切が降りて今にも電車が走ってくるというところに人が立っていた。


「おいおい、あんた何やってんだ」


俺は、思わず傘を捨て、踏切を押しのけて線路の中に入ってしまった。顔に雨が降りかかる。


(カンカンカンカン)


もう電車はここまであと少しのところまで近づいていた。


(カンカンカン)


押すしか助けれねぇ。


(カンカン)


あともう少しで、手が、そしてやっと背中に触れた。


(カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン)


それが俺の人生最後だった。


ずっと寝ているのに起きているような感覚が長く続いて、気が付いた時には、駅のホームにいた。


周りを見渡すと外は黒く海のようなところで、そこにポツンとこの駅のホームはあった。


ホームには、うすく青白い顔で表情がよく見えない人が多くいる。


「ここどこだ」


「人を助けようとして」


「いやいやまさか電車に轢かれて」


「こんなの夢だよな、夢」


死んだのかどうかなど考えたくもなかったが、嫌な想像ばかりが頭の中に浮かぶ。


「ポッポー」突然、汽笛のような音が聞こえてきた。


「まもなく黄泉の国行き列車が参ります」


どこからか、アナウンスが流れ、とても古い列車がきた。


「ゆっくりとご乗車ください」


周りにいた人たちも乗り出していた。


黄泉の国行きの列車なんてまさしく死者が乗るもじゃないか、どうする乗るべきなのか、だけどみんな乗ってるし…どうせ……あの時死んでしまったんだろうし……


「見ず知らずの人を助けて死んだんだ、もしかしたら天国に行けるかもしれないよな。それに姉さんにも自慢できるようなことしたんだ」


もう覚悟は決まった。


そして、俺は列車に乗り込んだ。と思ったら見えない壁にはじかれて列車に入れなかった。


「は?!」なんだこれどうして俺だけ。


「黄泉の国行き列車まもなく出発いたしまーす」


「いやちょっと、まだ乗って」


見えない壁のせいで乗ることができない。


「出発―!」


とアナウンスが鳴り入口のドアが閉まって俺を乗せずに列車は行ってしまった。


先ほどまで、人がたくさんいたホームには、もう俺一人になってしまった。


「行ってしまった…」


まあ、次の列車を待ってまた乗れるか試そう。死んだんだせめて気楽に逝こう。


そういえば、俺が助けようとした子は助かったのだろうか、背中を押したところまでは覚えているのだが、俺の分まで生きていてほしいな。


そんなことを考えていると何のアナウンスもなく列車の来る音が聞こえてきた。


「何の列車だこれ?」


その列車は、前の列車とは違ってところどころに赤い液体がついていて、でこぼこしていて傷だらけの貨物列車のようだった。


列車はホームに停車し、先頭車両から黒い車掌さんがでてきた。


だがよく見るとその車掌さんは腕が8本あり、身長は4メートル近く、顔に目がなく大きな口だけがついた男だった。


なんだあいつ気味が悪いにもほどがあるだろ。


よく見るとこの列車には乗車口のような扉もついているし、いったい何を運んでいるんだろう。


驚いていると、目の前の扉だけが開いた。


「?!」


その列車の中は、嗅いだ瞬間、一瞬で鼻と喉が壊れそうになるほどの刺激臭がする黒赤く肉団子のような塊で詰まっていた。


「なにを積んでいるんだ?!」


臭いは列車から離れても自分を追ってくるようにしている。すごく今すぐにこの列車から逃げたいところだったが、ホームからの出口はない。


「お客」


突然の声に思わずびっくりして声が出なかった。


いつからいたのか、先ほどこの列車から降りてきた8本腕の口だけ車掌が笑顔で、俺の後ろにいた。


「お客、出発いたしますので、早くご乗車を」


どうやら食われるとかではなかったらしい、この車掌さんは見た目が怖いが普通に会話が出来そうで少し落ち着いた。


「あの、俺さっきの列車に乗れなくて」


「それはそうでしょう、あの列車は黄泉の国行きでしたので、死んだ魂には、常世の国、黄泉の国、奈落の国、このどれか三つの国に逝くのです」


「そうだったんですね、俺はまだ死んでいないから乗れないとかではなかったんですね」


「御冗談を、ここは死者しか来れませんよ」


「さあさあご乗車を」


しかし、乗れと言われても手で示された方には肉の塊で詰まっている。


「あのー、乗れと言われても、どう乗れば…それにこの列車はどこ行きなんですか?」


そう言うと車掌はまた笑顔になった。


「あなたが死んだ後に行くところなんて、死ぬ前からわかっているでしょう」


「あなたの罪を思い出してください」


「え」


何を言っているのか、よくわからなかった。


「人殺しが逝くとこなど、わかっているでしょう?」


ひとごろし?なんのことだ、どういうことだ。


「さあ、まもなく奈落の国、地獄行き列車出発いたします!」


俺は車掌に肩をつかまれた。


「ご乗車」


それはもうニッコリだった。


「待って!!どうして、何で?!」


車掌の手でどんどん入口に押されていく。


「俺がいつ人殺しなんてしたんだ!!!」


「ご乗車、ご乗車」


体が徐々に肉に飲み込まれていった。気持ち悪い感触で、どんどん、この肉と体が一体化していくようだった。


「人を助けて死んだってのに、こんなの、こんなの」


あんまりだという前に体がすべて乗車してしまった。


「奈落の国地獄行き出発いたします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る