KAC20233 ぐちゃぐちゃ

橋元 宏平

ぐちゃぐちゃさん

 子供は、ぐちゃぐちゃさんが大好き。

 大人は、ぐちゃぐちゃさんが大嫌い。

 ぐちゃぐちゃさんは、河川敷かせんじきのダンボールハウスに住んでいるホームレス。

「ワシは愚者ぐしゃだから、こんなぐちゃぐちゃになっちゃったんだよ」

 これがぐちゃぐちゃさんの口癖くちぐせで、それでみんな「ぐちゃぐちゃさん」って、呼ぶようになった。

 大人達はいつも、「あんな大人になっちゃダメよ」と、言っていた。

 それでもボクらは、ぐちゃぐちゃさんが大好きだった。

 ぐちゃぐちゃさんは、心優しいおじいちゃんだった。

 歌が上手で、ギターを弾きながら歌を唄ってくれた。

 ボクらが拍手すると、顔をくちゃくちゃにして、嬉しそうに笑っていた。

 大人が聞いてくれない話も、ちゃんと真面目に聞いて、一緒に考えてくれた。

 頭も良くて、なんでも知ってて、色んなことを教えてくれた。


 ある日突然、ぐちゃぐちゃさんは亡くなった。

 豪雨の日に川が増水して、流されて溺れて死んでしまったらしい。

 それは、大変なニュースになった。

 ぐちゃぐちゃさんは昔、有名な歌手だったんだって。

 歌手だった頃の映像を見たら、めっちゃイケメンだった。

 その後、ぐちゃぐちゃさんのドキュメンタリードラマが作られて、凄い人だったことを知った。

 彼は、子供の頃から歌が上手くて、頭も良かった。

 国立大学卒業後、モデル兼歌手として華々しく芸能界デビュー。

 しかし、たった数年で芸能界から姿を消した。

 彼のマネージャー兼事務所社長が、莫大ばくだいな借金を残して蒸発。

 連帯保証人にさせられていた彼は、その借金を背負わされた。

 借金を負ったせいで、あらぬ噂を流されて、芸能界を引退。

 彼は全てを売り払い、働いて働いて、数十年後にようやく返済完了。

 借金返済の為、結婚も諦め、子供も作らなかった。

 身も心もボロボロになり、働けなくなった結果、ホームレスになった。

 ぐちゃぐちゃさんの「愚者ぐしゃ」の意味を知り、ボクは涙が止まらなかった。

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