キチンキチン星
NADA
「ぐちゃぐちゃ」
もう昼か…
汚れた部屋の、衣類や物が散乱したベッドで寝ていたグウタは起き上がった
足の踏み場もない床をヨタヨタと歩いてキッチンへ行き、冷蔵庫を開ける
飲みかけのジュースを取り出すと、ラッパ飲みする
しばらくボーッとしていたけれど、またベッドに戻って横になる
グウタが住んでいる惑星、ぐちゃぐちゃ星
グウタはぐちゃぐちゃ星の平凡な若者だ
実家を出て一人暮らしをしている
生まれてからずっとこの星に住んでいる
今日の夜から、初めての宇宙旅行へ行く予定だ
ダラダラと寝転がっていたグウタだが、夕方近くになって面倒だけれど旅行の準備を始めた
スーツケースに適当にその辺に落ちている服を放り込む
丸めてギュウギュウと押し込んで、出来上がり
散らかった部屋は当然そのままで、時間ギリギリで家を出た
あれ、鍵かけたっけ…?ま、いっか…
宇宙船を下りると、皆がキチンとエスカレーターの左側に並んでいる
キチンキチン星へようこそ!
綺麗な文字が壁に等間隔に並んでいる
キチンキチン星のステーションは、理路整然としている
グウタが出てくると、きちんとした身なりの人が、ホテルはお決まりですか?と声をかけてきた
行き当たりばったりのグウタは、泊まるところも決めていなかったので案内されるままについて行った
ピカピカに磨きあげられたホテルのフロントの床を、グウタが汚れたスニーカーで歩く側から清掃員が後ろから掃除する
グウタはチェックインして部屋に入って感動した
ベッドの上に何も乗っていない
シワひとつなくベッドメーキングされている
机の上にも、もちろん床も何もない
靴を脱いで歩いても何も踏まないし足をぶつけない
真っ直ぐ歩くことができる
おぉ、これが話に聞いていたキチンキチン星か…!
何もないベッドは広々としすぎて眠れない
何だか落ち着かないグウタは、スーツケースを開けると中身をベッドにぶちまけた
あー、やっぱりぐちゃぐちゃは落ち着く…
いつの間にか眠りに落ちていた
次の日、やはり昼頃に目を覚ましたグウタは、お腹が減ったので何か食べようと出かけた
ファーストフードの店を探したけれど見つからない
どうやらこの星には無いようだ
仕方なくなるべく安価な感じの店を選んで入った
メニューを見ると、全ての料理に丁寧な説明が書かれている
グウタは何も読まずに一番安いのを注文した
出てきた料理は、細かく仕切られた四角い皿に何種類ものおかずがのっていた
キチンとした店員の、全種類の内容とそれぞれの品につけるソースと調味料の説明が長すぎて、グウタはぐったりした
食事の後、観光しようとブラブラと散歩してみた
気の向くまま散策しようと思ったけれど、全ての道が縦横きっちり整備されていて案内表示が交差点ごとに出ていて何の面白みもない
街中にはゴミひとつ落ちていない
道行く人は左側を足早に真っ直ぐ歩いていく
無駄が無い
つまり、暇そうな人もいない
道に迷うこともなくホテルに帰ると、清掃員がグウタの後ろを部屋の前までピッタリとくっついて掃除をする
滞在予定を早めに切り上げて、グウタはぐちゃぐちゃ星へ帰った
やっぱり家はいいな…
リモコンもティッシュも本も全て手の届くところに転がっている
憧れていたキチンキチン星は、真っ直ぐ歩けるのはよかったけれど、住みたいとは思えなかった
とはいえ、旅行から家に帰った矢先に山積みのゴミに引っかかり玄関で盛大に躓いたのは痛かった
どっちの星も良いところも悪いところもある
今度は、ほどほど星に行ってみよう
住むなら、ほどほど星くらいがちょうどいいだろう…
キチンキチン星 NADA @monokaki
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