【KAC20233】ぐちゃぐちゃだけど、一途だよ

ぬまちゃん

購買で買う? 食堂で食べる? それとも……

「そーいえばさ、今朝の事故ひどかったよな。俺さ、偶然見ちまったんだぜ。あれを見ちまったら、当分肉料理は食べられない、って感じだよな」

「へー、そうなんだ。でもよ、お前、その手に持ってるのは肉料理じゃないのか?」


 お昼休み、いつものように噂好きな級友がハンバーガと牛乳パックを手に彼の隣に座った。

 彼は焼きそばパンを一口かじって飲み込んでから、彼の持ち物をじっと見つめて、すこしおどけて呟いた。


「う……。これは良いんだよ、火が通ってるから。てか、その事故のおかげで、お前ら今朝遅刻しそうになってたじゃん。ホームルーム始まる直前に、二人そろって教室に飛び込んできた時はびっくりしたぜ」

「うん、そうなんだ。まさか、そんな事になってるなんて思わなかったから。走りどおしだったんだぜ、学校まで。いや、学校に来てからも、『走るな』の掲示板を無視して全力疾走さ」


 彼は、口からはみ出た焼きそばを押し込みながら、教室の窓からグランドを見下ろして今朝の体験をあらためて思い出していた。


「よく考えたらさ、あそこで事故証明をもらっておけば遅刻にならなかったよね。そうすれば、君に私のバッグまで預けて二人で朝から全力疾走せずにすんだかもね」


 お弁当袋とお茶の入った水筒をもって、彼らの隣にちょこんと座りながら幼馴染の彼女が、そう彼らの会話に割り込んできた。


「でも、やっぱり気が動転しちゃうもんな、さすがにそんなとこまで気が回らないよ」


「うん、そうかもね……、っ、うわぁあ! あーあ、はぁー。しまった。やっちゃったよ」


 隣に座って、会話をしながらお弁当のふたを開けた彼女は、お弁当の中身を見てから、突然素っ頓狂な声を上げて天上を見上げた。


 お弁当の中身は、今朝の全力疾走のために、おかずもご飯もぐちゃぐちゃになってしまっていたのだ。

 それを横から覗き込んで驚いた彼は、すまなそうに、焼きそばパンの残りを差し出した。


「ごめんよ、ここ口付けてないから、食べる?」


 大丈夫だよ。お弁当はごちゃごちゃになっちゃったけど、君の優しさに私は一途だからね。

 彼女は心の中で、ごちゃごちゃ弁当と焼きそばパンの残りを見比べてそう思った。


(了)

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