ぐちゃぐちゃにしてあげる

仁志隆生

ぐちゃぐちゃにしてあげる

 イライラしながら歩道を歩いていた。

 道行く人が怯んで俺を避けていく。

 おそらく相当な顔してんだろうなあ。

 まあ自分でもこんな奴に会ったらそうするだろうな……。


 くっそあのクソ担当者め!

 ぐちゃぐちゃ文句言って無茶な値引き要求しやがって!

 本当にぐちゃぐちゃにしてやろか! 


 ……はあ。

 そう言えたら楽なんだがなあ。


 あ、公園がある。

 ちょっと休憩して落ち着こう。




 ベンチに座り、さっき買った缶コーヒーを飲んで一息ついた後、辺りを見た。

 昼時だから誰もいないよなあと思ったが、砂場で泥団子作って遊んでる女の子がいた。

 小学生くらいに見えるけど、もっと小さい子なのかな?

 

「はい、できましたよ~」

 どうやらままごとしてるみたいだな。

 ぬいぐるみを二つ横に置いていて、あれを子供に見立ててるのかなあ。

 あれって一つは鬣あるから、ライオンかな? 


「え、こんなのより肉団子が食べたいって? もう、好き嫌いしちゃダメ」 

 あははは。

 俺も似たような事おふくろに言ったなあ。

 ああ、なんか癒やされるわ~。

 

「うーんもう、しょうがないわねえ。じゃあ今から取りに行こうね」

 女の子はそう言った後、ぬいぐるみを抱えて何故かこっちの方に歩いてきた。


「お兄さん、お肉取りに行くの手伝って」

「は?」

 いや、見ず知らずのおっさんを誘うな。

 もし変態だったらどうするんだよ。


「ねえ、いいでしょ~。ゲン君とモモちゃんに美味しいお肉食べさせたいの」

「え? それ、その子達の名前?」

「そうだよ。あたしのお友達で、二人は恋人なの」

「そうなんだ……」


 ゲンとモモって、大学の後輩二人と同じ名前だよ。

 モモはゲンが好きで、俺の彼女経由で仲を取り持ってくれって頼まれたなあ。  

 けど彼女は在学中に交通事故にあって、そのまま……。

 

 ゲンには彼女の恋心は言わなかった。

 もし言ったら奴の性格からしてずっと引きずるだろうと思って。

 

 そういやゲンとはもう随分会ってないが、元気にしてるかなあ。


「お兄さん、ゲン君ここにいるよ」

 女の子がぬいぐるみを見せて言ってきた。

 あ、声に出しちゃってたかな。

「ごめんね、違う人の事だよ」

「ううん、これがゲン君だよ」

 ……うーん、しょうがない。ここはこの子に合わせておくか。

「おいゲン、久しぶりだな。元気にしてたか?」

「お腹減ってるって。だからお肉取りに行こ」

「……そうかよ。じゃあ肉屋へ」

「ううん、ガッツ商事へ行こ」

「は?」

 それ、俺がさっきまでいた取引先だよ。

 てかあそこは食料品店ですらねえよ。

「というかお兄さん、ぐちゃぐちゃにしたいんでしょ?」

「え、何を言ってるんだい?」

「だからさ~、えいっ」

「え……あ?」

 女の子が俺の手を握ったと思った途端、意識が途切れた。




「ぬふふ、いい感じだねえ~。じゃあぐちゃぐちゃにしてミンチ肉にしてあげるから、頑張ってね~」

 少女はに向かってそう呟いた後、どこかへ歩いていった。

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ぐちゃぐちゃにしてあげる 仁志隆生 @ryuseienbu

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