承認欲求高めなTS転生配信者エルフちゃんNEXT
世も末
異世界へバカンスに行こう!?
第1話バカンスへ行こう
「えるしぃちゃん。この書類にサインしといてや。それから午後から社内会議やからな~? ――ん? なんか元気あらへんなぁ~。どないしたん?」
エル・メシア・プロダクションの社長室。
えるしぃちゃんが使用しているデスクの上には承認待ちの書類が山積みにされていた。今、話しかけていたのは
立派なデスクに頬をぺちょんとへばりつけながら、だらけきっているのは『中庸の女神えるしぃ』。
異世界にTS転生し地球へ帰還したのち、なぜか人類滅亡を企む神を倒して地球を救い、真の女神化した本物のロリハイエルフだ。(元 田中 菊次郎 童貞)
キラキラ輝く銀髪に魅惑的な銀眼と金眼のヘテロクロミアが印象的だ。スタイルはほんのり主張するお胸がチャームポイントである以外はスットーンである。
『これでも真の女神化した際に成長したんだよ!!』と本人は主張しているが、見た目は余り変わったように感じない。
世界を救う際に発生させた高重力場により地球環境を破壊してしまい、国連組織に莫大な借金を押し付けられそうになるも、お願い(脅し)と言う名の切り札で回避に成功する。
その代わり世界を回って砂漠を緑化したり台風を無効化したり災害救助に引っ張られたりと大忙しだ。
プロダクションには救われた国々から莫大な謝礼金が振り込まれるようになったが、えるしぃちゃんへの報酬は社長室に設置されている『おちんぎん箱』へ毎日千円札が数枚ほど投入されているだけだ。
必要な物資などはえるしぃちゃんが書類を提出して会社が購入しており生活に不足はないのだが、自由に使えるおこづかいがないと本人は不満たらたらである。
これも世界貢献を行い民衆への『立派な女神ですよアピール』の一環であった。
身を粉にして働かなければで復興予算をあんさんに請求してもええんやで?(ニッコリ) と国連組織から脅しという名の催促のお手紙が飛んできてしまう。
もちろんえるしぃちゃんが購入した物資に掛かった費用などは書面で日本政府に提出義務が存在していた。本人曰く『世界を救ったのにあんまりだ!』と供述している。
スケジューリングも秘書である蓮ちゃんに完全管理されており、日々の労働に疲れ果てているえるしぃちゃんなのであった。
「癒し――癒しが欲しいよぅ。蓮ちゃんのおっぱいで挟まれるという極上の飴を与えられたら――馬車馬のように働いてしまう……悲しきエルフのサガ……。飴を与えてわたしをやんわりと働かせるなんて蓮ちゃんの鬼畜……ひんひん……」
「何アホなこと言うとるん? ――ほれ、ムッチムチのハリのあるおっぱいやで~? お仕事を頑張ったらパフパフしてもええんやで~?」
悪魔のささやきが聞こえて来る。フラフラと吸い寄せられるように近寄るも何とか踏み止まった。
「――ッ! や、やめろおおおお! わたしは負けないッ!
社長室にある窓から飛び出すと背中にエンジェル・ハイロゥを展開させ高速で飛行しプロダクション(お仕事)から逃走してしまう。
凄い勢いで景色が流れて行き銀髪がふわふわを揺らめく。――いつ見ても空は気持ちがいいなぁ……。
表情は疲れ切ったサラリーマンのようだが眼下に見える街並みは荒んだ心をわずかながら癒してくれる。
「ひんひん……もう、仕事したくないよう……」
雲の上に到達するとふわふわと浮かびながら愚痴をこぼす。すると、えるしぃちゃんの身体から二人の女神が顕現してきた。
彼女達はえるしぃちゃんの分裂した人格が独立した存在であり、いつも身体の中に存在している。真の女神化したことにより現実世界に好きな時に顕現する事が出来るようになった。
「ならば早く私達の依り代を製作しなさい――プロダクションの仕事は……手伝いませんが」
「――手伝わないんかいッ! そこは手伝って上げますよ、あらあらうふふって言うとこじゃなの~? 慈愛ちゃん……」
自らの要望を突きつける割には仕事をしない宣言をする厚かましい女性は『慈愛の女神』だ。基本的に母性的で優しそうに見えるが腹の中は真っ黒であり性格は独善的だ。魔術神としての側面もあり様々な知識を所有している。
「我も依り代が欲しいのう。この世の武芸者共と殺り合いたいのじゃ」
血の気の多いのじゃ語を話すややツリ目の女性は『殺戮の闘神』と呼ばれ神業としか言えない戦闘技術に、自らの流派『闘神流』の技術を広く異世界に広めている。
二人ともえるしぃちゃんと瓜二つなのだが雰囲気が違い過ぎるために割と見分けを付けやすい。
「え~、だって依り代作るのに神核の欠片を分けないといけないんでしょ? 痛そう……」
神核とはえるしぃちゃんの真の女神としての力の源であり、地球世界で人類滅亡を企んだアラメスの遺品でもあり身体の中に取り込まれたものだ。
当然、依り代を作成する為に欠片を渡すという事は、自らの胸の中にある神核を取り出す術式を展開しなければならない。
そのような痛そうな事を『中庸の女神』であり、基本的に面倒くさがりなえるしぃちゃんが許可を出すわけがない。
ならば、と慈愛の女神が提案して来る。
「――――ならば仕方がありません。エルシィ教の布教活動を無制限で行う事を条件に私がプロダクションの仕事を代行しましょう……それと、異世界へ渡航する為の極大魔法を術式化したパッケージをあなたに与えます。――人格が分化してから高度な術式を組めなくなっているのはわかっている――いなさそうね……」
術式を使えないとは? と首を傾げながらよくわからないという態度のえるしぃちゃん。元々は一つの存在であったため、魔術神としての術式と戦神の戦闘技術が抜け去っているのだ。
つまり、力はとっても大きいけれど使い方が分かんないポンコツ女神と化している。現代地球で早々、戦闘や必要な時は来ないはずなのだが。慈愛と闘神に頼っている場面は結構存在していた。
この慈愛の女神。神核を手に入れて地球世界に自らの宗教の布教活動を企んでいたのだが中庸の女神が偶然、神核を手に入れてしまい計画が頓挫していたのだ。
プロダクションの仕事を代行すると言う条件と神核の欠片を譲渡する条件が心の狭間で揺れ――――る間もなくえるしぃちゃんは快諾した。
「え!? まじ!? 嘘じゃないよね!? 仕事変わってくれるの! やったあ!」
「それと異世界渡航の術式付与はあなたに少しだけバカンスをプレゼントよ? 最近仕事で頑張っていたようだし少しは骨休めをしなさい」
えるしぃちゃんの生まれた異世界への切符を押し付ける慈愛。元々はコミュ障を直すために異世界から無断で地球世界へやって来ている。
慈愛は異世界に顔を出しに行くが面倒なのでえるしぃちゃんにバカンスと言って責任を押し付けたようだ。
どこまでも自分本位な慈愛の女神であった。
「慈愛はわたしの事を分かっているようだね! ――うんうん! バカンスバカンス~!」
すっかり騙されたえるしぃちゃんは絶対トラブルになることが分かっている異世界への帰還を承諾してしまう。
色好い回答をえるしぃちゃんから引き出せた慈愛の女神はニチャリと笑う。
闘神はまたこの腹グロが……と内心思っているが言わない。神核を手に入れれるチャンスが目の前にあるからだ。
ご機嫌なえるしぃちゃんの気分が変わらないうちにさっさと神核を取り出す為の
抽出術式を展開させると痛みもなくサックリと終わる。
慈愛の最大のネックだったのは真の女神であるえるしぃちゃんの同意がないと術式が成功しなかったのだ。
もし抽出術式を展開しても拒絶反応が出て慈愛がナチュラルに呪詛返しを喰らうか、ちょっと足の小指の角をタンスにぶつけた痛みがえるしぃちゃんに走るだけだ。
もちろんそんなことは同じ存在である慈愛はしたくない。同意が取れればそれでよかったのだ。そして、ようやく許可を得た慈愛の女神はさっさと二人分作成していた依り代に神核を馴染ませた。
魂の固定化術式を展開すると依り代に溶け込んで行くと術式に身を委ねる。
暫くすると依り代に入った慈愛と闘神のはパチリを目を覚ました。首や手を動かしたり術式の展開をしたりと確認作業に入る。
「あーあー。――うむ、問題ないようじゃ。前よりも力が増しておるのがわかる」
銀髪なのはえるしぃちゃんと変わりないが、やや褐色の肌に真紅の瞳をした闘神が身体の調子を確かめる。同一個体のままでは分かりづらい為、慈愛に差別化を行うよう提案され依り代を作成したようだ。
身長や体形は未成熟のまま変わりない。戦闘を生き甲斐とする闘神はそこまでこだわりが無いのだ。
「うふふふ。これが私――――美しいわ……」
慈愛の女神は盛りに盛った巨乳をタプタプさせながら魔術で作った鏡を見てうっとりしている。身長も胸もでっかくなっており母性がマシマシになっている。元々の性格的にピッタリではあるのだがえるしぃちゃんがお乳をジトっと見ているようだ。
「慈愛…………あんた。やったね。やっちゃったね? 盛っちゃったよね?」
「はて? 何のことやら……――未成熟なあなたが悪いのよ。美しい私は元々この身体だったわよ? ほら、さっさとバカンスに行ってきなさいよ――――ほら、術式を刻んだわ」
ナイスバディの慈愛が手を掲げると周囲を覆うような円形の術式陣が展開された。えるしぃちゃんを包み込むと収束していき額の中へ収容された。
「お。おお……しゅごい」
「あなたと記憶は共有しているから業務は問題なく……あなたよりは効率的にできると思うわ。それと、こちらと連絡を取る手段として異界でも通信できる魔導デバイスを渡して置くわね」
見た目はスマホそっくりなのだがスペックを慈愛が説明していくとトンデモないシロモノであることが分かる。
えるしぃちゃんの個体を識別して作動し身体から出る自然放出魔素を取り込み充電不要。異界間でも座標を特定し相互通信可能であり異空庫の機能も搭載。防御障壁や飛翔魔術もバッテリーを使用すれば展開可能であり、無くさないように普段はバングルとして装着可能と神器クラスのアーティファクトである。
えるしぃちゃん自身も工作は大好きなのだが慈愛はこういう高度なプログラムや技術は得意分野なのでこういうアイテムをよく製作していた。
後半の説明を聞き流しながら適当にウンウン言い始めたところで慈愛が説明を辞めてしまった。
「まったく。あなたはこらえ性がないんだから…………それと【えるしぃちゃんねる】を異世界でも配信できるようにしておいたから。私は布教活動とプロダクションの仕事で忙しくなるから責任もって運営しなさいよね? それと――――」
「わかったぁ~。これすっごいねっ! さすがは慈愛。――じゃあ、蓮ちゃんによろしく言っといて!」
エルフの小さいお手々を振るとずごごご、と空間を裂いて現れた禍々しい泥の様な渦。
「ほいっとな――ばっははーい!!」
「――――ッ!! 待ちなさい!! 術式の様子がおかしい!」
すぐさま異世界渡航の術式を展開して出現した渦へ飛び込んでいってしまったえるしぃちゃん。なにかを慈愛が言っていた気がしたがまったく気にしていない。
異世界への渦はドロドロに濁ったヘドロの様な色をしており禍々しい雰囲気が漂っていた。慈愛がすぐさま解析に取り掛かるが鎖の様なものが入り口を覆うとバキバキと音を立てて消え去ってしまった。
「――――今のは…………。不味いわ。異世界渡航の術式が作動しない……」
「慈愛よ…………どうしてこうも悪だくみをするたびにトラブルを起こすのじゃ? さすがに擁護しきれんぞ……我は」
「うるさいわね……。でもあの子の力があれば大抵のトラブルも問題ないのだけれど本当に不味いのはね――――大気に漂う自然魔素が向こう側から感じられなかったの……何かを封じているような違和感が……」
「それじゃ魔法も魔術も使えないではないか?」
魔法とは精霊の使用する概念の様なもので、魔術は高度なプログラムを組み魔法を人間でも使用できるようにローカライズされたものだ。どちらが優秀とは一概にも言えず魔法が概念という法則で全てを塗り替える事ができるし魔術はプログラム次第で世界法則を騙すことが出来る。
ただ魔法はハイエルフの様な精霊と親和性をもつ種族しか使用できないという枷は存在するがその分汎用性は高い。こうしたい、ああしたい、とおこちゃまえるしぃちゃん向けの力なのだ。
だが世界中に満ちている自然発生している魔素を利用している為、慈愛の言う世界に満ちている魔素が無ければ燃費がとてつもなく悪くなる。身体強化や自己治癒程度なら問題ないが空を飛んだり炎弾を発生させたりという事ができなくなってしまう。
できたとしても効率が最悪であり殴った方が早いまである。
「ええ、できなくはないけれど効率が最悪ね。持たせていた魔導デバイスに色んな術式を入れているけれど――――はぁ。不味いわ……闘神の戦闘技術も三割程度しか習得していないじゃない」
「そうじゃのお。そんなところか…………マズイではないかッ!? ど、どうするんじゃ!?」
結構本気でヤバイ事実にさすがの闘神も慌て始めてる。力はあるけれど発揮できないポンコツ女神が術式も戦闘技術も中途半端では心労がマッハである。
「すぐさま解析するけれど時間が掛かりそうだわ。――プロダクションの仕事は闘神にやってもらうほかないわね?」
さらりと仕事を押し付けて来る慈愛に苦い顔をする闘神。こいつ本当は解析出来ていて仕事が面倒だから押し付けているんじゃなかろうか? と思うものの状況が状況なので文句を言いづらい。
「ふふふ。そんな顔しないの、解析に時間が掛かるのは本当よ? ただプロダクションの社員には説明しなきゃね……。――あの子はトラブルに愛されている女神なのかもしれないわね」
「そのトラブルを発生させる女神が何を言っておる。この腹グロ悪質女神めッ!!」
「嫌だわ……――美しく聡明で優しい女神よ? ――さて、忙しくなるわね」
エンジェル・ハイロゥを展開させると二人の女神はエル・メシア・プロダクションへ帰還する。社員達にあれこれ説明するとかなり心配されてしまう。しかし、現状打つ手がなくえるしぃちゃんからの連絡待ちだと聞くとひとまず安心するものの、今度は異世界自体が心配になって来る。
えるしぃちゃんがとんでもない騒動を巻き起こしてこないかと……。
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