整理整頓の勇者の今後
桜枕
短編
「俺の剣がないぞ! どこに片付けやがった!」
彼は武器を探して、勇者の固有スキルであるアイテムボックスの中に手を突っ込みながら叫んだ。
その上擦った声が彼の心を表していた。
一緒にこの世界へ召喚されて早くも一ヶ月。
彼の学習能力は低いようだ。
「剣はスロット1だって何回も言ってますよ」
「盾はどこだ!? もう敵が目の前なんだぞ!」
アイテムボックスから剣を引き抜き、次は反対の手で縦を探している。
「盾はスロット2です」
ようやく戦闘準備が整い、周囲を囲っていたゴブリンを一掃する。
そして、雑に剣と盾をアイテムボックスの中に放り込んだ。
「戦闘の度にこれじゃ命がいくつあっても足りねぇよ。お前が俺のボックスの中を整理するからいけないんだ。ここからは俺一人で行くからな!」
王様から二人で協力して魔王を討伐せよ、と命じられているから一緒にいただけで彼に特別な感情はない。
一人さっさと突き進んでいく彼の背中を見つめ、元来た道を行くことにした。
身分を隠して与えられた勇者のスキルを披露すると、村の人たちは快く歓迎してくれた。
村に居座るようになって二週間が過ぎた頃、こんな噂話が流れてきた。
「勇者様がオークになぶり殺しになれたらしい! なんでも、武器を持たずに立ち向かったそうだ。なんて勇敢な方なんだ」
それは勇敢と言って良いのだろうか。
蛮勇ともちょっと違う気がする。
無謀って言うのかな。自業自得かな。
彼はありとあらゆる武器に扱えた上に、それらを収納するボックスを所持していた。
しかし、アイテムボックスは万能ではなく、常に中身はぐちゃぐちゃになっている。
その中身をスキル『整理整頓』で整えてあげていたのだ。
「なぁ、あんたはどう思う?」
何も知らない風を装って曖昧に返事をしておく。
「もう一人の勇者様はどこに消えたのやら。さて、本題に入るが仕事を頼みたい。あんたにしか出来ない仕事だ。頼んだぜ、"掃除屋"」
彼は行き急いでしまったけれど、私はスキルを活かしてこの世界を生き残るまでだ。
整理整頓の勇者の今後 桜枕 @sakuramakura
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