好き嫌いが混ざり合う

ヘイ

ぐちゃぐちゃ

 

 好きな人が居て、嫌いな人が居る。

 そういうのは、普通にある話で。

 

「ユリって好きな人居るの?」

 

 友達との会話で恋バナってのが有れば、嫌いな人の愚痴ってのもある。私だって善人じゃないし、全員平等とか言わない。友達は贔屓するし、嫌いな奴には内心舌打ちしてる。

 

「居るよ」

「え〜、誰、誰?」

「言わないよ、恥ずかしいし」

 

 好きな人の名前を口に出せるなんて凄すぎる。どれだけ自分に自信があるんだって話。そういうのは友達でも……友達だからこそ、か。口にできない。

 

「私の好きな人教えるから、ね?」

「良いって、そんなの」

 

 知った所でどうにもならないし、アドバイスなんて出来ないから。

 

「それより、ほら帰ろ」

「あ、待って……今日は」

 

 ごめん、バイトあった。

 そう言って先に行ってしまった。バイト先は別方向らしいから、何とも言えないけど。

 

「じゃあね」

 

 一人で帰ろう。

 大人しく生徒玄関に向かう。靴を履き替えていれば自然と私が嫌いな男の顔が見えて、思わず顔を顰めてしまう。

 

「……はあ」

 

 ツいてない。

 目が隠れてて、いつもニヤニヤ笑ってるのが嫌い。陰気臭い様な雰囲気で、いつも一人。

 ジメジメした感じ。

 

「…………」

 

 かと言って、嫌いな奴に態々気を使いたくなんてないし。何だって私の方が避けなきゃいけないのか。

 

「さっさと帰れば良いのに」

 

 歩き出す気配は見えない。

 どうしてか髪を弄り始めて掻き上げる。私が外に出た瞬間に目があった。

 初めて見る筈なのに。

 

新井あらい正太しょうた……?」

 

 目には覚えがあった。

 テレビで見る、私が大好きな同年代の男性俳優。気がつかなかった、好きだったのに。

 

「あれ……?」

 

 見られちゃったな、と困った様に笑うのがサマになっていて。

 

「もう誰も居ないと思ってたんだけどな」

 

 嫌いだと思っていた同級生が好きな俳優で……整理のつかない私の心はぐちゃぐちゃだった。


「じゃあね、ユリさん」


 今しがた来た車に彼は乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好き嫌いが混ざり合う ヘイ @Hei767

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ