第84話 新種
84.新種
「ここで少々お待ちください」
「はい」
ダンジョン協会の会議室B、その中にある椅子へと座り一息つく。先ほどの人はダンジョン協会の職員で俺をここまで案内してくれた。
会議室は真ん中に大きな長方形の机が置いてあり両側に椅子が7個ずつ置いてある。
どうしてこんなところにいるのか。
数十分前に俺は【深海の遺跡】ダンジョンの探索を終えて協会の施設で持ち帰った素材の売却と宝箱から出た物の鑑定を依頼していた。
【深海の遺跡】ダンジョンに併設されている協会の建物は小規模で2階建ての小さな建物で必要最低限の機能だけが設置された所だった。
そんな小さな協会で手に入れた素材などを卸していたわけなのだがその中の一つ、最後に手に入れた卵の形をした美術品が問題になった。
基本的にこういったダンジョンに併設されている所では鑑定依頼に出した物は置いてある機械で先に簡易的に鑑定をする。
そこで調べるのは過去に鑑定した事があるかどうかとその場合どういった物だったかというのを調べるらしい、物によっては危険な武器やアイテムなどが持ち込まれることがあるのでまずは簡易でもいいから調べる、そういった機械らしい。
そこからどういった効果が付いているのか詳細を知りたい場合は鑑定を専門にしている部署へと送られる、それが鑑定依頼に出した物が後から戻ってくる理由になる。
そして今回の場合なのだが。
まだ、軽く話しを聞いた段階なので詳しい事は分からないが一つだけ分かっている事を教えてもらった。
美術品だと思っていたあの卵型のやつ、鑑定不能という結果になったみたいだ。
簡易鑑定の機械でもある程度の情報は出るはずなのだがそれが全くないという事は初めて確認された物という事に加えて鑑定スキルのレベルが高くないと何もわからないという事だ。
◇ ◇ ◇ ◇
「待たせてすまないね」
「いえ、大丈夫ですよ」
会議室で待つこと1時間ほど、入ってきたのはスーツをビシッきた男性と女性の二人組。どちらも20代後半から30代前半ぐらいに見える。
さらにその後ろから問題になっている卵型の美術品が入ったケースが運ばれてきた、特殊なガラスで作られているこの箱は危険な物や何かわからないけど取り合えずこれに入れておけば大丈夫だろうって時に使われる箱だ。
「私の名前は柊という、協会本部の職員で主にダンジョンから出てくる武器や防具、アイテムなどの管理を担当している者だ。こちらにいるのは同じ職場で働く平井だ、彼女は高位の鑑定スキルを持っている職員で今回の為に来てもらっている」
柊と名乗った男性が説明をしてくれる、それに合わせて女性の方もペコっと軽くお辞儀をした。
「神薙響です、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。早速だが鑑定不能と出たコレを調べさせてもらうよ」
「はい」
卵型の美術品は机の上に置かれてその流れで柊さんと平井さんも椅子へと座った。
なぜ彼らがわざわざここへと来たのか、もちろんこの鑑定不能と出たやつを調べるのもあるのだがそれだけなら来なくても物を送るだけで済む。そうしないのはコレが危険な物か運搬しても平気かどうかが分からないという事と所有権が俺にあるからだ。
昔に事件があった、まだ今みたいにシステムが確立していないころ。今回と同じ様に鑑定不能と出た物を鑑定依頼に出すと帰ってきたのは別の物だったということが。
職員が横領したのだ、鑑定不能のそれは武器だったのだが初めて確認された物だから持ち逃げしてもどういった武器だったとかが説明できないと思ったのだろう。
しかし発見者本人がきちんと武器の見た目などを写真にとっており今回の事をSNSで報告した、それが話題となり発覚したという感じだ。
探索者のほとんどの人はわざわざ宝箱からでた武器などの写真をとって保存してたりしない、横領した職員もそう思っていたのだろう。だが発見者は何を見つけたとか自分の成果を写真にとり後で見て思い返すなどを趣味していた。
そういった事件があり鑑定不能の物品が出た場合は発見者本人の前で鑑定する事になったらしい。待ってる間に軽く調べた。
目の前では高位の鑑定スキルを持っているという平井さんがケースに入った卵型の美術品をジッと見つめている。
鑑定ってああやってするんだなぁ。
「魔法生物の卵………それもゴーレムのです」
「やはりそうか………」
「やはり?」
何か事前に分かってた感じの言い方だな。
「あぁ、実はここへ来る前に画像だけ先に見ていたんだがその時からそうじゃないかと思っていたんだ。君は魔法生物についてどれぐらい知っている?」
「一般的なことぐらいですかね?確か魔法生物って【テイマー】スキルがあれば戦力として、そうじゃなくてもペットとして飼う事が可能なんでしたっけ」
魔法生物、ダンジョンで時々見つかる卵から孵る存在で特定のスキルを持っていれば一緒にダンジョンへと潜る事もできて、スキルが無くてもペットとして飼う事が可能な生物。
一般的なペットと言えば犬や猫だが大きな違いはファンタジーに出てくるような生物なのが魔法生物という事だろうか?スライムだったり妖精だったり、他にも違う所がある。
まず1つめに基本的に死ぬことがない、魔法生物を飼う際に主人としての契約をするのだがその時に主人の中に魔法生物のコアともいうべき何か、が出来る。
その何かは何なのか未だに分かっていないらしいがそのおかげでたとえ事故で怪我をしても時間が経つと治るし死んだと思われるような攻撃を受けても時間で復活する。
恐らく主人の魔力的な何かを使っているんだろうと言われているがまだ確かな事は分かっていない。
では、どういう場合に死んでしまうかというと契約した主人が死んだとき魔法生物も同時に消えてしまう。これも主人の魔力的な物を使っているんじゃないかという説が有力な出来事だ。
2つ目に、人に危害を加える事がないという事。
これについては今のところ危害を加えたという事件が起きていないだけかもしれないが何故か魔法生物は人に危害を加えない、これも特に理由は分かっていないが170年のも間そういう事件が起きていないのだから安全と考えられている。
この魔法生物は人に危害を加えないという話は時々議論されることがある、本当にそうなのか?と。だが実際この長い間魔法生物のせいで何か起こったという話が無い事から安全とされている。
「そうだな他にも種類が多いとかも特徴なんだが、今回のこのゴーレムの卵は新種になる」
「新種ですか?」
「そうだ、完全な新種という事になる」
「完全な新種?」
「魔法生物には色んな種類がいる、狼、妖精、スライム、ゴブリン、オーガ、上げればきりがないがそれだけ沢山の種類がいる。1つの種類の中にもさらに分かれる、狼ならフォレストウルフ、アイスウルフ、闇狼といった感じで細かく分かれているのだが今までゴーレム系は存在しなかったかなり貴重な卵になるな」
「なるほど?でもゴーレムって確か作ってる所が結構ありましたよね。玩具とかもありますし」
ゴーレムが貴重という話だったがそもそもゴーレムは魔道具として作られている、玩具として作る小さな所からダンジョンへと連れて行く戦闘用のゴーレムだったり。
「確かにゴーレムは作られているがこの卵のとは大きく違う、わかるか?」
「分からないです」
同じゴーレムじゃないのか?
「この卵から孵るゴーレムは魔法生物だ、魔道具ではない。そこに大きな違いがある」
「生きているかどうかってことですか?」
「そうだ、このゴーレムは生きていて。そして成長する」
なるほど?成長する生きたゴーレムか………確かにそう考えると全然違うかも。
「しかも魔法生物はつがいの相手を選ばない、同じ魔法生物なら半々の確率でどっちかの種類の子供が生まれる。この1匹のゴーレムが見つかった事でこの先同じ魔法生物のゴーレムは増えていくだろう」
「ほへー」
何だか思ったよりすごい卵だったのか?最初は美術品だと思っていたがまさか魔法生物だったとはなぁ。
「これは出来れば買い取りたいのだが、どうする?」
「どうするとは?」
買い取られる前提っぽい感じだったが。
「君が望むなら自分で育ててみるのもいいだろう、あくまで権利は君にある」
「ふむ」
確かにちょっと自分で育てて見たさはある、だって今までいなかった魔法生物なんだろう?めちゃくちゃ気になる………けどなぁ。
「例えば、これをダンジョン協会へ売却した場合なんですが。Aランク試験を受ける条件の実績になったりするでしょうか」
「ん?君はAランク試験を受けるつもりなのか?」
「はい」
「ふむ、少し待ってくれ」
柊さんはそう言うと携帯を取り出し何かを調べ始めた。
Aランク試験を受ける条件である何かしらの実績、この新種の卵の発見がそれになったりしないだろうかと気になった。
「ふむ、なるほど。若いのに頑張っているんだな………。君の情報を見る限りもう少しといったところだな」
「もう少しですか?」
「あぁ、確かにこのゴーレムの卵は功績になる。新種の発見だからなその評価は高い………が、それは運によるところが大きい。運も実力のうちとは言うがこれだけでは足りないな」
「後、何があれば足りるとか教えてはもらえませんか?」
「それは出来ない、だがもう少しという事は教えておこう」
「そうですか………」
流石に教えてはくれないか、中々難しいものだな。
「何かAランクを急ぐ理由でもあるのか?」
「急ぐ理由………特にないです」
「無いのか、ならゆっくり目指すといい君ならAランク試験を受ける事はその内出来るだろう」
言われてみれば確かに、別にAランクを急いで目指す理由とかは無いんだよね。ただランクが高いとかっこいいかな?ぐらいにしか思ってないし。
「それで、卵はどうするかね?」
そうだった、その話だった。
「ダンジョン協会へ売ります」
「了解した、それではゴーレムの卵は持ち帰らせてもらう。こちらの用事は以上になるが君からは何かあるか?」
「特にないです」
「それでは失礼する」
「はい、お疲れさまでした」
「お疲れ様、今後も君の活躍を期待しているよ」
「ありがとうございます」
話しが終わると柊さんと平井さんは会議室を出て帰っていった、それを見送って俺も会議室を後にする。
『マスターが育てなくてよかったんですか?』
ダンジョン協会を出て自動運転タクシーを拾って家へと目的地を設定して、動き始めてからヘレナが話しかけてきた。
「確かに自分で育てるのもありかなって思ったんだけどね」
『では、なぜそうしなかったんです?』
「ヘレナがいるからかな?」
『それは………………私がペット枠という事ですか?』
「さて、晩御飯何にしようかな」
携帯を取り出し今日の晩御飯は何にしようか考える、中華を食べたい気分だしネット注文でもしようかな?家にドローンで届けてもらおう。
『マスター?無視しないでもらえますか?どういう事でしょう?私がペット枠………?マスター聞いてますか?マスター!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます