第54話 気づけなかったこと

54.気づけなかったこと







「どうしようかなぁ」


【野営地】の自販機で買ったジュースを飲みながら、今はダンジョン内の建物の陰からリーダー格の『機械種マギア』を偵察しつつ考えている。

【遠目】を使い視界内に捉えている目標の敵は、下半身はキャタピラで上半身は人型、手には銃器を持ち子機である『機械種マギア』も一緒にいる。

因みになぜ【イーグルアイ】ではなく【遠目】なのかというと、【イーグルアイ】は敵の状態によって青黄赤と色がついてしまうのでそれがちょっと邪魔な時があるのだ。なので普段から使い分けている。



相手の大きさは戦車ほどもあるのでいつもみたいにアサルトライフルやショットガンじゃ倒すのは厳しいだろう、かと言ってロケランやミニガンを使うってのもなぁ。

この先またリーダー格と戦う事があるだろうしそのたびに大物を使っていては回収できるGPも元を取れず赤字になっていくだろうし。


そう考えると1発か、または数発で倒せるように考えないといけない。


ならやっぱり使うのは〝対物ライフルFoxtrot〟かな、これに〝徹甲榴弾〟を装填して追加で【マハト】も使おう。


そうと決まれば早速準備して………いや、これでもちょっと不安だな。んー罠を仕掛けるか?

もし1撃で倒せなかった場合、もちろんだけど相手はこっちに向かってくるだろう。その際に通り道に爆発物を仕掛けてみるって言うのはどうだろうか?


『踏み均す者』を倒す時もやってみた手法だが、今回の敵ならあの時よりもっと楽に仕掛けられるだろう。


そうと決まれば早速、色々と準備しますか。





◇  ◇  ◇  ◇





「よし、準備完了だ」


準備シーン?もちろんカットだ、だって絵面が地味だもの。

あっちに行ってはペタリ、こっちにいってはペタリ、あそこにもここにもペタリとC4を仕掛けるだけだった。

本当なら対戦車地雷とかあればいいんだろうけど残念ながら【GunSHOP】には売ってなかった、あってもよさそうなのにな。


仕掛けた数は全部で8つ、1つ3000GPなので2万4千GPの出費になる。

もっと仕掛けてもいいんだろうけど正直この爆弾は仕留める為じゃなくて逃げる為の時間を稼ぐための爆弾だ。


〝対物ライフルFoxtrot〟を取り出し狙撃位置に移る、場所はリーダー格が一直線に見えるビルの屋上だ、高さは数え間違えていなければ30階建て。

C4は敵とこのビルまでの直線上の道路に2個×4か所で仕掛けてきた、足止めなので威力は期待していない。


逃走ルートは人が5人並んで降りれそうなほど大きい外階段、本当なら隣のビルとかに飛び移ってを繰り返して逃げたかったのだが、左は崩壊していてもう右のビルは10メートル離れているので飛び移るとかは無理だ。

狙撃位置の候補が他にもあったのだが、どこも別のリーダー格がいたり逃走ルートが無かったりと使えなかった。

なので消去法でここに決まった。


どうして地上ではなくわざわざ逃げ道の少ないビルの屋上を狙撃位置にしたのかは一応理由がある。

リーダー格の『機械種マギア』を偵察していて気付いたのだがあいつには明らかにコアっぽいデザインがされている部分があった。

見た目はごつごつとした機械なのだが配線のされかただとかどうみてもそこに心臓ともいえるコアがあるだろうと思わしき漏れ出た光が人型である上半身の胸の部分に見えるのだ。


そんなあからさまな弱点を見せるか?と思ったが他にコアがありそうな部分が見えないのでまぁきっと恐らく?そこがコアなんだろう。


で、問題はそんなあからさまな弱点なコアだが。あれは多分【ラドナクリスタル】だろう、なので撃てない。

じゃぁどうするかというとコアではなくそれを制御しているであろう脳と思われる部分を撃ち抜くしかない、それならコアを無事確保できるし損傷も軽微で済む。


そんな脳だが見たところそのまま頭の部分がそうなのだろう、偵察している間何かを処理している動きを見せていた。こう、目をカションカション動かしてから点滅させていた。


なので今回撃つのは頭の部分、それを狙うには地上からでは射角的に狙いずらかったのだ。そうして屋上が狙撃位置になった。



「ふぅ~」


息を吐きだし深呼吸する。1発、撃てたとしても3発まで、それで仕留める。C4を設置してある位置まで敵が来たら爆破、最初の爆破で逃走をはじめ後はランダムで爆破していく。


多分ちゃんと作戦とかを考えれる人ならもっといい案が浮かぶのだろうけど今の俺にはこれが精いっぱいだ。

何も決死の作戦とかじゃない、これをミスったのならまた次頑張ればいい。


伏せた姿勢で〝対物ライフルFoxtrot〟銃弾には〝徹甲榴弾〟を装填してある物を構えて、柵が朽ちて見晴らしがいい場所に銃身を潜り込ませスコープを覗き込む、標的であるリーダー格の『機械種マギア』との距離は1250メートル、ダンジョン内の重力は外と同じ、風はほぼ無いといっていい。

集中した思考の中で勝手に弾道計算がされていく。


「【マハト】」


最後にスキルアーツを唱えると銃全体が淡く光る、ゆっくりと息を吐き肺の中の空気を外へと出していく、ある程度吐き出したタイミングで息を止め………撃つ。



「ん、まぁいいか」


放たれた弾丸はリーダー格である『機械種マギア』の頭部へと当たりその半分を吹き飛ばした、想像では頭全部が無くなるのを想定していたが流石に相手も強くなってきているのか1撃で破壊とまではいかなくなっているようだ。


子機である箱に四つ足が生えたやつがあわあわと慌てているのが見える。あの様子だとリーダー格は機能停止したかな?




「まじか、そういうのもありなのかよ………」


子機もこのまま〝対物ライフルFoxtrot〟で撃つかと思っていると、なにやら子機3体がリーダー格に集まりだした。

そのまま見ていると子機の1体が他の2体を突然壊して配線などを引きちぎったかと思うとその部品でリーダー格を修理し始めた。


慌てて修理が完了する前に倒しきろうと銃を構えなおすが1歩遅く修理が完了してリーダー格が再起動してしまった。


「早すぎるだろうがっ!」


時間にして数秒、あまりにも早い修理スピードだった。

再起動したリーダー格は先ほど撃たれた所から弾道計算したのか顔をこちらに向けて見ている。


「ヤバイな、そして動きが思ってたよりも俊敏だな!」


動き出したリーダー格は予想通り一直線にこちらへと向かってきた、足はキャタピラだし遅いと思っていたがそんなことは無く普通の自動車ぐらいのスピードは出てそうだ。


銃を構え走っているリーダー格を狙い撃つ。


1発目は肩にあたり装甲を少し剥いだ程度、2発目は外れて横の地面を削るだけ、3発目は足のキャタピラの前のほうに当たったがそんな事気にせずにそのまま走ってきている。


無理か。


〝対物ライフルFoxtrot〟を【空間庫】へと仕舞い、いつもの装備へと戻す。〝アサルトライフルFoxtrot〟に弾は念のため〝徹甲榴弾〟と【空間庫】にはいつでも撃てる状態にした〝ショットガン〟を準備してある、弾はもちろん〝徹甲榴弾〟だ。今できる最大火力を用意してある。


太もものホルスターには〝龍殺しの一撃〟を入れてある、万が一どうしようもなくなったら使うつもりだ。


リーダー格が最初のC4の位置まで来たので起動する、大きな爆発音と土埃が舞い起こるのを横目に逃走ルートである外階段へと走る。

その間にも次、次とC4を起動して爆破させていく。


「まじでっ!?」


外階段までもう少しというところで、横から銃撃の雨が来て外階段が破壊された。

リーダー格をみて見ると土煙の奥から手にもった銃器の銃口をこちらへとむけている、そのまま追撃とばかりに銃撃が始まった。


慌ててビルの縁から離れて身を隠す。


「どうするか………」


隠れている間もガリガリガリガリとリーダー格である『機械種マギア』からの銃撃でビルの削れる音がする。


相手のリロードタイミングか弾切れを狙うか?流石に弾切れとかあるよな?

数十秒か数分か、今もなお鳴り響く銃の射撃音を聞きながら考える。



「お?」


やっぱりというか流石にというか弾切れが起きたのか射撃音が鳴りやんだ。

ビルの端っこからちょこっと顔を出して様子を見てみると撃ち切ったのか手に持っていた銃器をパージしている所だった。


これなら反撃できそうだなと思い〝アサルトライフルFoxtrot〟を構える。


「えぇ?まじ?」


手に持った武器が無くなったかと思うと肩の後ろから何か砲身が変形しながら伸びてきた。

銃身はこちらを狙っているように見える。


「やっば!」


慌ててもう一度隠れる、その後ろで大きな爆発音、風が押し寄せてきて転びかける。

恐る恐る後ろを振り返ってみると屋上の一部が大きくえぐれていた。


威力がやべぇ、何発撃てるかわからないがあの感じだと5発も撃たれたらこのビルが崩壊しそうだ。

どうしようか、唯一の逃走ルートだった外階段は破壊されてしまって逃げれない。


ビル内に階段あるだろうしそれを降りていくか?いや、でも現在進行形で攻撃を受けているし途中でビルが崩壊したりしたらやばいしな。


悩んでいる間にも追撃がきて屋上がさらに大きく削れていく。


逃げ場の無い状況とこくいっこくとせまるビルの倒壊という現実に、普段だったら絶対にしないであろう選択肢を導き出した。



「ふむ、いっその事隣のビルに飛んでみるか?」


崩壊していない方のビルは10メートル離れている、恐らくジャンプしたところで届かないだろう。

だけれど途中の階の窓を突き破って室内に入る事は出来るんじゃないか?


怪我するだろうけど俺には【再生の腕輪】がある、よっぽどの怪我じゃなければ平気のはずだ。


いくか、もう時間がない。今さっき3発目が撃ちこまれてビルがぐらぐらと揺れ始めた。

ビルの中央辺りまで下がり10メートル離れたビルを見据える。ビルに突撃する事を考えて神宮寺さんに以前貰ったフルフェイスを展開して頭部を守る。


足に出来る限りの力を込めて思いっきり地面を蹴り走り出す、勢いよく地面を蹴りすぎたのか屋上が削れて崩れていく。

ここまで来たらもう止まれない、そのまま全速力で走りビルのふちぎりぎりを踏みしめ………飛ぶ。



「あれ………?」


聞こえてくるのは風が耳の側を通り過ぎる音、見えるのはダンジョン内に作られた偽物の空と先ほどよりも高くなった視線から見えるビルの屋上。


「ぅぅぅぅぅぅぉぉおおっどっしゃー!」


転がるようにして受け身を取りなんとか体勢を整えて立ち上がり、振り返る。


「どうなってるんだ?今めちゃくちゃ飛んだ………?」


限界だったのかガラガラと音を立てて崩れ落ちるさっきまでいたビルが見える。

リーダー格である『機械種マギア』は俺が隣のビルへと飛び移ったのが見えたのか攻撃目標を変えて今度はこちらのビルを攻撃し始めた。


今いるのはさっきまで見ていた隣のビルの屋上の中心ぐらい、間違っていなければ俺はいま20メートルぐらい飛んだことになる。


頭の中が高速でぐるぐると回る思考に支配される、敵の事なんてこの時ばかりは考えれなかった。



「何が原因だ?」


どうみても人を越えた動きをしていた、あんなのTVとかで探索者がどれだけ凄い身体能力を有しているかの番組をみたときぐらいしか見たことが無い動きだ。


ん………?探索者の身体能力?そういえばあの時の番組で紹介されていた探索者ってもうすぐBランクになるかもって話しだったタレント兼探索者だったっけ?


Bランクの試験を受けるには最低でもレベルが50無いといけない、なのであの番組時で既に50を超えたところか50以下だったはずだ。

戦闘スタイルの紹介では前衛も後衛もこなす魔法戦士の万能タイプと言われていた。ステータスはレベルに比べて低くなってしまうが応用力があるので人気のあるスタイルだ。


あの時見た番組内容は確かどれだけ重い物を持ち上げられるかとかジャンプ力がどれぐらいだとかそういった検証内容だったはずだ。

確か最後には4トントラックを持ち上げたり、2階建ての一軒家の屋根へとジャンプだけで登ったりとしていた。

あれを見たときは漫画やアニメの世界の動きだなぁって思ってみてた。


俺のステータスは異常に伸びているDEXと一切伸びないINTとMND以外は平均的な上がり方をしているはずだ、多分。


つまり俺も本来なら既に人を越えた動きが出来るほどのステータスを持っていたって事?今まで気づかなかったのは自分の力に気づいていなかったのとそういった動きをする事も無かったからか?

それにそんな動きをするイメージが想像できなかったのもあるかもしれないな。



「おっと、こんなことしてる場合じゃなかった」


屋上が爆破される音で現実へと引き戻される。一旦生き延びたと言っても現状は変わっていない相変わらずビルは破壊されている。


どうしようか、ステータスに物を言わせて大ジャンプでビルをどんどん移って逃げるか?でもなぁせっかく倒せそうな獲物を逃すのもなんだかなって感じ。


「あ、あそこに外階段あるじゃん」


ビルの正面、場所的に敵リーダー格の後ろに外階段があるのが見える。距離は道路を挟むので20メートルはある、ぎりぎり届くかどうかって所か。

あそこへ移動したところですぐに攻撃されるだろうけど行くとしたらあそこしかない。


時間がない、ぶっつけ本番だ。


少しでも目くらましになるかと思い【空間庫】から買って置いてある手榴弾を取り出す。

ビルを破壊している砲撃は連続で撃てる感じではないらしく1発撃った後、次がくるまでに結構なタイムラグがある、その隙を狙って手榴弾を投げ込む。


1つ、2つ、3つ。一気に手榴弾を投げ込み急いで後ろへと下がり助走をつけて飛ぶ。


「いったぁ!」


ガンッ!と外階段へとぶつかりながらなんとか着地する。怪我はしていないが結構な衝撃が肩へときたので思わず声がでた。

だけど、ここでゆっくりしている時間はない。急いで階段を降りていき途中で敵の動きも確認する。


リーダー格の『機械種マギア』は手榴弾の爆発で装甲が軽く剥げているが動くには問題ないらしく肩の砲身がゆっくりとこちらへ向いてきている。

それをみて俺も追加の手榴弾を【空間庫】から取り出し投げていく。


「ここなら狙えるか!」


3階部分まで何とか降りてそこから〝アサルトライフルFoxtrot〟を構えて『機械種マギア』の頭を狙い撃つ。

このぐらいの高さなら万が一落ちても軽い打撲で済むだろう。


頭を狙われていると理解した敵が逃げようとするが遮蔽物に隠れる前に倒しきるべくアサルトライフルを撃ち続ける。


ガガガガと削れる音がして、次第に動きがゆっくりとなっていきリーダー格の『機械種マギア』が遂にその動きを止めた。


「ついてしまえばあっさりとした決着だったな………」


色々あったがワンマガジンで済んだ。結局は最初にちゃんと雑魚まで倒しきってしまっていればそこで終わっていたんだ、今回のはいい教訓になったかもな。

戦い始めたら様子を見るんじゃなくて倒しきれって。


「今日はちょっと自分の身体能力をちゃんと確認しよう」


自分がどれだけ動けるかとかちゃんと確認するべきだった、まさか俺がTVで見たような探索者の動きが出来るとは思っていなかった。


まぁその前にまずは【ラドナクリスタル】をあの硬そうな装甲を剥いで取り出さないとな。






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