第27話 新井さんの誘い

27.新井さんの誘い









足払い倒れた所にハンドガンで胸に2発撃ち続いて頭に1発撃ちこみトドメをさす。そのまま前蹴りでもう1体のゴブリンを蹴り飛ばし体勢を崩したところに頭に2発撃ちこむ。


こちら側のゴブリンは片づけたので振り返り新井さんの方を見るとあっちでもちょうど最後の1匹が新井さんの【棒術】で叩きのめされた所だった。


生きているゴブリンがいなくなったのでまずはハンドガンの残り弾数を確認する、そのあと武器をホルスターへと入れてドロップ品を確認していく。


「そっちは大丈夫だったかい?」


「はい、大丈夫ですよ。新井さん方こそ大丈夫でした?」


「えぇ、こっちは実質3人パーティーみたいなものですからゴブリンが3匹ぐらいなら余裕ですよ。それよりも神薙君はソロなのに2匹も相手させてしまって悪いね」


「いい練習になるから平気ですよ、楽しいですし」


ハンドガンによる近接戦闘の戦い方に変えてから何度かゴブリンで練習して今ではそれなりの形になってきた気もする。

アサルトライフルでの戦い方も嫌いじゃないけどこういったパーティープレイの時はハンドガンの方が戦いやすいかもしれない。

それにここは特別狭いダンジョンだしこういった戦い方があっているのかもしれない。


ゴブリンが5匹の場合は今みたいに新井さんがムンちゃんとランちゃんとで3匹を相手にしてくれている間に俺が割り込んで2匹をひきつけて倒す。

ゴブリンが3~4匹の時は順番に新井さんと俺で入れ替わって倒す事がほとんどだ。新井さんが戦う時はさっきみたいにランちゃんに盾役をさせてムンちゃんが火力担当新井さんは遊撃とかのサポートって感じだ。

見ていた感じすごく安定していて危ないシーンがひとつもなかった。


交代で俺が戦う場合は見つけた瞬間遠くから〝アサルトライフルCharlie〟で瞬殺だ、ゴブリンが4匹ぐらいなら近づく前に全部倒せる。

正直5匹が相手でも余裕だとは思うが今日は折角の新井さんとのパーティーなんだからこんな時にでしかできない戦い方を経験しておきたい。


「あ、神薙君あれボス部屋みたいだよ」


正面の行き止まりに大きな石で出来た両開きのドアが見える。どうやらボス部屋についたみたいだ。


「ここのボスってホブゴブリンでしたっけ?」


「確かそうだね。10階層のボスはホブゴブリンが3匹同時に出てくるんだったかな?」


ホブゴブリンみなさんご存じのゴブリンのちょっとつよい版だ、体も力も大きく強くなるがここまでゴブリン相手に余裕だったしちょっと強くなる程度のホブゴブリンじゃ相手にならないと思う。


「どうやって戦いましょうか?」


「う~ん、そうだね。まず1匹を神薙君の先制攻撃で行動不能にさせて動けなくしてから、もう1匹をランちゃんと私で抑えるから残りの1匹をムンちゃんと神薙君で優先して倒すってのはどうかな?」


「ふむ、いいんじゃないですか?」


先制攻撃で1匹を行動不能にするのか確かにそれがいいかもしれないけど……倒せるなら倒してしまっても構わんのだろう?


なら先制攻撃で倒して見せるしかない。


ボス部屋に入る前にお互いに装備に不備が無いか確認していく。

俺はハンドガンのマガジンにちゃんと弾が予備までそろっているか、アサルトライフルも同様に確認していく。

今回はアサルトライフルで1匹を一気に倒してしまおうと思っている。


新井さんの方はムンちゃんとランちゃん両方の様子におかしなところが無いか確認しているっぽい、後は水分補給とちょっとしたおやつを与えているみたい。


いいな………俺もおやつあげたい。


「ん?神薙君もあげてみるかい?」


「いいんですか?」


「構わないよ、はいこれ」


物欲しそうな俺の視線に気づいたのか新井さんが気持ちを汲み取ってくれた。そんなに物欲しそうな目をしてたかな?とちょっと恥ずかしくなったがおやつをあげてみたかったので気にしない。


新井さんに手渡されたのは乳白色の何かを練り固められた物、これがおやつになるみたいだ。


「はい、どうぞ」


「きゅ!」


「くぅん」


しゃがんで手のひらにのせてそれぞれ差し出す、おやつを食べるときにムンちゃんとランちゃんの鼻がひくひくと当たって少しくすぐったい。


受け取ったおやつをはぐはぐと食べている隙を狙ってもふもふと撫でる。ムンちゃんは割と構ってくれるから触る機会があるけどランちゃんはまだ人見知り中なのかあんまり触らせてくれない。

なのでこういう時を見逃さず撫でる。


「それじゃぁそろそろ行こうか」


「はい」


ひとしきり撫でまわしたので満足したので本命のボス戦にうつる。


「敵が飛び出してきてもいいようにランちゃんを先頭に次に神薙君、そして私とムンちゃんで中に入ろうか。そして神薙君は好きなタイミングで攻撃を開始してくれるかな?」


「了解です」


ランちゃんが先頭なのは防御スキルをもっているからか、確かに盾とか持ってないしそれがいいのかもな。こんなことなら今まで出番のなかったライオットシールドを取り出したほうがよかったかな?


〝アサルトライフルCharlie〟を構えてボス部屋の扉に触れる、すると一瞬ぴかっと光の線が扉に走りゴゴゴと音を立てて開いていく。


扉がゆっくと開いていき部屋の中が見えてくるとそこは洞窟内では無くフィールド型のダンジョンみたいに外の様子にそっくりだった。

小高い丘にごつごつとした岩、細い木が何本か生えていて川があるのか水の流れる音がする。

しかし横をみるとダンジョンの壁があるのが見えるのでここがボス部屋だというのがはっきりわかる。



そんなボス部屋の中でホブゴブリンがどうしているかというと寝転がって休んでた。



3匹が3匹とも各々のお気に入りの場所なのかな?別の場所で寝転がっていた。


いや、まぁうん。いいんだよ?人が来ない間は好きに過ごしてもらっていても。でもさ扉が開く音が聞こえたよね?なんでそんな寝転がった状態でここに人がくるなんて驚いたみたいな顔をしているの?

一瞬ここがダンジョンのボス部屋じゃなくて動物園にでも来たのかと思ったよ。


「ぎゃぁぎゃぁ!」


一番近く手前にいた1匹のホブゴブリンが立ち上がりその手に武器をもって威嚇してきたので〝アサルトライフルCharlie〟を構えて射撃していく。

胴体を狙いつつ射撃する際の反動を利用してそのまま頭部まで撃ち抜いていく。


「ぎゃっ!」


「ぎゃぎゃ!」


仲間のホブゴブリンが倒されたのを見て奥にいた2匹が慌ててこちらに近づいてくる。


「ランちゃん!【釜盾】!」


「くぅ!」


「ムンちゃん、俺達もいくよ!」


「きゅ!」


作戦通り1匹のホブゴブリンをランちゃんが【釜盾】で抑えて新井さんが【棒術】でけん制している。

その隙にもう1匹の方のホブゴブリンを俺とムンちゃんで攻撃していく。


まずはムンちゃんがその脚力を生かしホブゴブリンに駆け寄っていきその視線を誘導してそのままさらに奥まで通り過ぎて行った。

俺からは隙だらけのホブゴブリンの背中が見えるので〝アサルトライフルCharlie〟で上半身を撃っていく。


「ぎゃっ!」


攻撃を受けて驚き振り返ったホブゴブリン、その瞬間を逃さずにムンちゃんが【狐火】を頭部を狙い撃っていく。


「ぎゃぁ………」


【狐火】を頭部に受けたホブゴブリンはそれが致命傷となったのか倒れて動かなくなる。

それを見届けたムンちゃんは急いで新井さんのほうへ走り寄っていったので俺も追いかける。


「新井さん!こっちは終わりました!」


「了解、それじゃぁこっちも倒しちゃおう」


新井さんがそう言うとランちゃんと新井さんの立ち位置が一瞬でスイッチし、新井さんの【棒術】がホブゴブリンに襲い掛かる。


「【螺旋突き】!」


「きゅ!!」


新井さんの持っていた棒がうなり回転を加えた攻撃がホブゴブリンに命中する。大きく吹き飛ばされたホブゴブリンにムンちゃんが【狐火】で追撃して戦闘終了だ。


「おぉ、すごい威力だな………」


【螺旋突き】恐らく【棒術】のアーツスキルだと思われるがホブゴブリンをあそこまで吹き飛ばす威力があるとは。


「ドロップ品を拾おうか」


「はーい」


ひと汗かいたのか袖でおでこの汗を拭いた新井さんは以前のちょっとくたびれた感じは無くなっていてまさにできる男って感じになっていた。






◇  ◇  ◇  ◇





「お疲れ様!」


「お疲れ様です」


探索が終わり打ち上げにきていた、今いるのは以前もつれてきてもらったお店【花咲】だ。

新井さんと一緒にカウンター席に座りパスタとジュースを注文して食べている。

ムンちゃんとランちゃんはお店の奥の方になぜか専用の席が用意されていてそこでご飯を食べている、あれを見る限り新井さんがどれだけこのお店に通っているかわかってしまうというものだ。


今回のダンジョン探索で手に入れた収入は25万だ。魔石やら貴金属やら宝箱からでた物も全部協会へ売って1人25万、つまり全体では50万の稼ぎになった。


この金額は特に宝箱からレアな装備が出たわけでもなく50万なので、もし仮にここにレアドロップ品とかが加わると桁が1つ変わってくる。


普段は全てGPに換えてしまうから分からないが俺も本来ならこれぐらい稼いでるんだよな………

まぁちょっともったいないかなって思うだけで今後もGPに換えていくつもりだけどね。


「それにしても今日の神薙君の動きは凄かったね、私はもうあんなに早く動けないよ」


「そんな事ないですよ、新井さんの動きも凄かったですよ?」


「そうかなぁ?」


食事を続けながらも会話を続ける、あの時のあれが凄かったとかあれがよかったとか。あの時はもっとこう動けばよかったやあれでもよかったんじゃないか?とか。


話題はほぼダンジョン探索の事についてだが共通の話題なので楽しい。


途中で【花咲】の店主である宇瀬七海さんも会話に混ざったり。あの時大型ショッピングモールに新井さんと一緒にいた女性花井さんも合流して楽しい打ち上げになった。



食事も終わりだらだらとジュースを飲みながら雑談していた時、新井さんが何か考えるように黙り込んでしまった。


「どうかしたんですか?」


「実は今日ね、神薙君を誘ったのは単純に遊びたかったのもあるんだけど他にも話しがあってね」


「はぁ、なんでしょう?」


「神薙君はクランに興味はないかな?」


「クランですか?あのクラン?」


「どのクランの事を指しているか分からないけどまぁ探索者の集まりを指すクランの事だね」


「ふむ」


クランと言えば以前探索者交流会でお世話になった佐々野さんを思い出す、彼女は【朧月】というクランに入っていたはずだ。


クランというのはいわゆる探索者の集まりで会社みたいな物だ。

一般の人が学校を卒業になり企業へ就職するように探索者たちも学業を終えるとクランへ就職したりする。


学生時代にクランへアルバイトという形ではいりそのまま就職する人もいれば就活をして入る人もいて就職の仕方は様々だ。

俺もこのまま探索者としての道を続けるならどこかでクランへと入る必要があるかもしれない。


一般的に会社の規模に大小があるようにクランにも勿論大きい所と小さい所がある。

ほとんどの学生が大規模クランの有名な所へ入りたがるがその理由もわかる、なぜなら福利厚生がしっかりしているからだ。


ダンジョン探索する際の武器防具であったり回復薬などの雑貨品から日用品、住むところなどまでお世話してくれるところがほとんどだ。

探索中に怪我した際の補償などもクランの規模で変わってくるだろう。


自分の命に直結するんだ、そりゃみんな大きなクランに入りたがる。



「それは新井さんがクランを立ち上げるって事ですか?それとも新井さんは既にどこかのクランに所属しているとか?」


「クランを立ち上げようかと思っているんだ」


クランは基本的に書類申請するだけなので立ち上げる事自体は簡単だ、その後の運営が大変なだけで。


「クランをですか?」


「そう、いずれはクランにしたいって感じかな?今はそれよりも何て言うか仲のいい友達の集まりみたいな?そういった物でもいいから、そこから始めてみようかなって思ってね」


「ふむ」


「神薙君はまだ学生の身だ、だからアルバイトとかそういった形でもいいからどうかなって思ってね」


「ふむ、まぁアルバイトでいいなら構わないですよ。ただ俺も自分の探索する時間が欲しいので労働条件は色々と決めていきたいと思いますけど」


「そうか!よかった、それにもちろん分かってるよ神薙君は基本ソロなんだろう?ちゃんとそれに合った形にしてみるよ。気に入らなければ後からこの話を断ってくれても構わないからね」


クランへ入ると有益なのは自分にあった依頼を持って来てくれることだろうか?スキルに合わせて戦いやすい相手を探してくれたる、それにあった依頼があればそれを案内してくれる。


探索者としてダンジョンへ潜って毎日数十万も稼いでるのに入る必要ある?と思うかもしれないが依頼という形で何々の素材が欲しいみたいなのを受けると報酬でさらにお金がもらえたりする。

それにさっき言った福利厚生だね、今まで自分で購入して管理していた雑貨品をクランで管理してくれるようになるので考える事が少なくなる。


それに情報も知らない事も教えてもらえる、ただの探索者としては知れないような事をクランへ入れば入手できるようになる。果たして新井さんにそこまでの情報を入手する手段があるのかって話しだがまぁそのへんは追々かな。


デメリットとしては自分の時間を削られるぐらいか?もしなにか依頼されたらそれをすることになるだろうし。

いや、まてよ?それも考えようによってはメリットか?自分が思いつかない事を教えてくれるんだから。


まぁそのへんもこの後の話し合いで新井さんと詰めていくしかないな。今のところ大きなデメリットというほどの事は思い付かない。


持っているスキルにしてもわざわざ全部言う必要ないしな。








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