第25話 30階層のボス
25.30階層のボス
「────!!」
5体いる『彷徨う騎士』の頭部を順番に狙って1体につき2~3発で倒しきるイメージで撃っていく。
まずは1体目、続けて指切り射撃で流れるように2体目3体目と倒していく。
「───……」
「ぎゅぉぅ!」
ズシンと音を立てて倒れた『彷徨う騎士』の陰から『狂人メイド』が出てきておぼんを投げつけてくるがあえて避けずに倒す事を優先して射撃する。
「ぎゅ……」
「あ、いたっくはないな」
倒す事を優先したので当然おぼんが体に当たるが今回から装備している〝プロテクターCharlie(全身)〟 が『狂人メイド』からの攻撃を防いでくれる。
おぼんは太ももに当たったがちょっと衝撃があったぐらいで他には何も感じなかった。
「防具を更新するだけでここまで余裕が出来るとは思っていなかったな」
今回は防具の効果を確かめるためにわざとおぼんを食らったが基本的には攻撃を受けないように動くつもりだ、だが万が一という事がある。その時の為にちゃんと今のうちに確かめておきたかった。
まぁその結果、かなり安心できるほど防具が硬くいい感じだという事がわかった。
「見た目が完全に悪役側っぽいのだけが難点か」
首元までの全てを覆う黒色の防具なのでこれで頭も防具を装備していたら完全に悪役側の人だったかもしれない。
けどこれバランスを考えるなら頭も何か被りたいんだよな。
探索者の防具事情としては、みんな基本的に各々の好きな防具を着たりしている。中にはゲームであったようなデザインにしたりして半分コスプレに近い感じになってる人もいたりする。
まぁそういった人は配信業をしている人でエンタメとしてあえてそういった防具を着ている人だったりもするが中にはガチでその装備が好きでゲームや漫画などでしか出てこない防具を現実に持ってくる人もいる。
そういった人達はある意味要注意だ、配信業の人なら配信のネタとされる可能性があるし、ガチの人は一種の狂信者なのでちょっとでも対応を間違えると怖い。
触れなければ祟られないのだ。
では、そんな中で全身黒いプロテクターの俺はどんな目で見られるのかと言うと、多分普通。
なぜならもっと変な人がいるから。
さっき言ったコスプレっぽい人から中世の騎士っぽい全身鎧の人だったり、そんな中でなら俺は比較的まともな部類だと思う。
「次は18階か」
『悲愴の洋館』の攻略も順調に進み今いるのは17階、そして目の前の階段をのぼれば18階にいける。
みんなは疑問に思ったんじゃないだろうか?毎日1階層からのぼっていってるのか?って。安心してくれ『悲愴の洋館』の転移陣には人それぞれ個別に階層記録機能がついていて攻略した階層から続ける事ができる不思議機能がついている。
こういった転移記録機能は他のダンジョンでもある所はある、主に階層が多くなってしまう洞窟型によくあるがフィールド型にも稀にだが置いてあったりする。
因みにもしパーティー内で攻略済みの階層が分かれてしまった場合は低い方に合わせられる。
まぁそんな感じで転移する階層を選べるから攻略途中でも安心して帰れる。
「あ、敵」
18階層へ移動して少し探索しているとすぐに敵が現れた、距離にして50メートルちょっとといった感じでぎりぎり【気配感知】の範囲外のようでまだこちらには気づいていない。
見た感じ『彷徨う騎士』が7体ほどに多分後ろにまた見えない『狂人メイド』が隠れていると思われる。
「【マハト】」
【銃術】のアーツスキルで銃の威力を上げる、昨日スキルレベルが5になって効果時間がさらに伸びたので割とゆっくり戦っても平気なぐらいにはなってきている。
とは言っても威力が強くてすぐに終わっちゃうんだけどね。
片膝立ちになり〝アサルトライフルCharlie〟を廊下に置いてあった棚に固定してしっかり構える。
一発撃つと『彷徨う騎士』が1体倒れて動かなくなる、2体目は頭にあたり装備しているヘルムが砕けて倒れる。
3体目4体目は薙ぎ払うように撃ち続けたまま流れで倒していく、ここまで倒して時間にして数秒だろうか?やっとこっちに気づいた『彷徨う騎士』が走ってこようとするのを今度は狙いやすい胴体を狙って撃つ。
大体は1発で倒せて、多くても2発、余分に撃ってしまい3発といった所か。それぐらいで次々と『彷徨う騎士』を倒していく。
倒れて動けなくなった『彷徨う騎士』の死体を別の『彷徨う騎士』が踏んでこっちにこようとするのでその隙を狙って倒していく。
途中でリロードを挟みながらも危なげなく『彷徨う騎士』を倒しきった、どうやら今回は隠れている『狂人メイド』はいないようだった。
倒した『彷徨う騎士』を全てGPに換えていく、7体で595GPかうまいな。
この調子ならすぐに20階層のボスに行けるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
△月〇〇日
あの日から僕の世界は灰色になってしまった。ご飯を食べても味がせず、あれだけ楽しかった剣術の稽古にだって何も感じなくなってしまった。
ただ毎日を無気力に過ごすだけの日々になってしまった。
だけど、ある日そんな灰色の日常に変化が現れた。わが領地に敵国の兵士が攻めてきたのだ。
攻めてきた理由はよく知らない、想像はできるけどそれが確かなのかはわからない。だけどそれもどうでもよかった、僕はどこかにこの感情を向ける先を探していたんだ。
どこでもよかったそれを今日見つけたんだ!
肉を切る感触、絶望を浮かべるその表情。聞こえてくるのは後悔の悲鳴のみ。
胸が躍った、戦争の中で僕は喜びを見つけたんだ!
△月×〇日
最近部下の小言がうるさい、なぜ僕にそれを言うんだ?攻めてきているのは向こうだろう?
なぜ攻めてきている相手にこちらが配慮して捕虜なんて取らないといけない、全て殺せばそれで済むだろう?
それよりも!今日はものすごく嬉しい物を見つけたんだ!僕の両親が殺された理由だ!
見つけた資料によると僕の両親は大きな利権の絡む商売をしていたらしく、商売敵である隣国に暗殺されたらしいんだ!
ある日突然殺されていなくなってしまった両親の仇がこんなところで見つかるなんて!幸いな事にこの契約書には相手の名前も書いてある、だけどおかしいな?なぜ数ある貴族の名前の中に、わが国にいる貴族の名前が書いてあるんだ?
まぁ理由なんて後で聞けばいいか、リストの上から順番に殺していけばそのうちわかるだろう。
〇△月〇日
リストにあった名前を順番に消していってはや数か月がたったが順調だ。
僕の部隊は街を破壊する毎に大きくなっていった、今ではよく知らないやつらまでいるが構わない、僕の邪魔さえしなければそれでいい。
小言のうるさかった部下は全員斬った、そのおかげか最近は物凄くやりやすい。僕に文句をいうやつはいないからな。
あの日見つけた契約書のリストもそろそろお終いが近い、隣国の貴族の名前はもうない。残りはわが国にいる貴族の名前だけだ。
毎回殺す前に僕の両親の事を聞くのだが全員が口をそろえてよく知らないという、なぜよく知らないのにあの契約書に名前があるんだ?おかしいだろう?
まぁその問題ももうすぐ片が付く、なぜなら契約書の最後の名前はわが国の王の名前なのだから。
□×月〇〇日
また、世界が灰色になってしまった。
契約書にあった名前は全て殺した、わが国の王だった者もだ。
殺す前に両親を殺した理由を聞いたのだが、聞いた瞬間理解できなかった。あいつは何て言ったと思う?「邪魔だったから」だとさ。
邪魔だった?僕の両親が?なぜ?どんな理由で?邪魔だったにしても他にやりようはなかったのか?どうしてすぐに殺してしまうなんて手段をとるんだ?
そういったらあいつは「お前もそれが楽だからすぐに殺すんだろう?今だってそうじゃないか」だってさ僕に剣を突き付けられた王だった者はそういって僕の事を笑ったんだ。
だから殺した。
腕を斬り、足を斬り、耳をそいで、鼻をそいで、喉を潰し、目を潰し。ゆっくりと死の恐怖を味合わせて殺していった。
最後には泣いて許しを請うていたが関係ない、そのまま首も斬り落とした。
後に残ったのは虚無感だけだった。僕は何をしたかったんだろう?両親の仇を取りたかったのは本当だ、だけどこれが、この惨状が僕の願ったことだっただろうか?
城のバルコニーから城下町を見下ろす、あちこちで火の手があがり住人の悲鳴がここまで聞こえる。
そうして城下町を眺めていると遅れてやってきた騎士に斬りかかられた。僕は死にたくなかったので当然応戦した。
そして気づいたんだ、戦う相手の敵わないと悟った瞬間に浮かべる絶望の表情、聞くに堪えない悲鳴。
そこで僕はまた胸が躍った。そして気づいた!
あぁ………そうか僕はこれが楽しいんだ。これが生きる喜びなんだって!
ハハハハ!殺しつくそう!好きなだけ!やりたいだけ!僕を止めれる部下だって両親だって親戚ももういないんだから!
ハハハハハハハハハハハハ!
読んでいた日記をそっと閉じる。
「う~ん、怖い」
◇ ◇ ◇ ◇
18階で見つけた日記を読んでからちょっと微妙な気分なまま20階層に着いた、ボス戦だ。
あの日記から分かる通りボスはユリアンなんだろうなぁ。
マガジン全てに弾が補充してあるのを確認して〝アサルトライフルCharlie〟にも問題がないか確認してから20階のボス部屋の扉を開けていく。
「ガアアアアアァァァ!!!」
「うぉ!いきなりかよ!」
扉を開けて中に入った瞬間ユリアンだと思われるボスが接近してきたので慌てて避ける。
さっきまで俺が立っていた場所に剣先が突き刺さる。
流石にあの攻撃はいくら防具着ていてもやばそうだ。
「くそがー!」
ユリアンに向かってマガジン内の弾を全て一気に撃ち尽くす。
「ガッガァァァアッァ!」
「あぶねっ!」
銃弾が当たってユリアンが出血するが、気にも留めずに剣をふりぬいてくるので転んで避ける。
リロードを素早くしてこちらに振り向いた瞬間の隙を狙ってユリアンの頭部に全弾ぶち込む。
「ガァッ!ガッアァァァ………」
「あー何とか倒せたか………」
戦闘時間にして1分にも満たないんじゃないかというほどの瞬殺だったがその内容は濃かった。
まさかボス部屋に入った瞬間攻撃されるとは思っていなかった。
改めてボスであるユリアンを見てみる。
濃い赤色の肌にむっきむきの体、その姿はとても人には見えない。どっちかっていうとオーガとか鬼とよばれる存在に見える。
ストーリーが違うからか『肉塊のユリアン』と姿形が全然違う。
「これが『狂鬼のユリアン』か」
『狂鬼のユリアン』はその体が素材になるのか消えずに残っていたので近づいて【GunSHOP】スキルを開きGPに換えていく。
「1200GP!高く売れるんだな」
ついに一匹売るだけで大台の1000を超えた、入ってすぐ攻撃してくることはわかっているしそれさえ気を付ければ周回もありだな。
そして『狂鬼のユリアン』が片手で扱っていた剣、俺からすればその大きさは完全に両手剣レベルのデカさだがそれもGPに換えていく、こっちは600GPだった。
そしてお楽しみの宝箱、中身は片手剣だった。
黒い持ち手に鈍く光る刀身、形がかっこいい。
まぁこれもGPに換えていくんだけどね、宝箱からでた片手剣は500GPでした。
「じゃぁサクッと30階層までいっちゃうか~」
◇ ◇ ◇ ◇
と、いうわけでやってきました30階層【悲愴の洋館】最後のボスだ。
道中飛ばしちゃうのかって?だって代り映えしないんだもの。
変わったところと言えば一度に出てくる敵の数が増えたぐらいで『彷徨う騎士』が10体に『狂人メイド』が5体の団体が普通に出てくるようになった。
まぁ数が多くなっても銃の優位性が強すぎて余裕だったけれど。
後は普通に攻略して途中で宝箱も何個か見つけたけれどアクセサリーが1個あったぐらいで残りは銀食器と回復薬だった。
日記も見つけて中身読んだけど3人分あったのでボスはきっと………
「よし、いくか」
いつも通り装備の確認をしていく、マガジンの予備まで全部銃弾が込められているか。防具がどこかおかしくないか。
全部一通り確認してから一呼吸いれてボス部屋の扉を開けていく。
「最後は家族そろってか」
予想通りボスは3体いた『悲愴の伯爵』『狂信のアマリア』『肉塊のユリアン』だ。
ストーリー的に3体同時に出てくるのはおかしいがまぁダンジョンだし細かいことは気にしてはいけない。
ボス部屋に入った瞬間からボス達は3体ともこちらに気づいていて【気配感知】スキルのおかげで視線がビシビシ来ているのが分かる。
「【マハト】」
ボスが近づく前に倒しきる、その気持ちでバフスキルを唱えて〝アサルトライフルCharlie〟を構える。
「ア゛ァァァァァ!!」
「ぎゅぉぉぉぉぉう!」
「イヤ゛ァァァァ!」
「うるせぇ!」
ボスが1体だけなら普通だった叫びも3体揃うとものすごくうるさい、声が重なって気持ち悪く聞こえる。
まずは動きの速い『悲愴の伯爵』から倒していく、マガジン内の全ての銃弾を撃ち尽くす。
「ア゛ア゛ァァァァァ………」
「まずは1体」
『悲愴の伯爵』は体中に穴をあけて死んでいったのでそれを見届けつつ素早くリロードを済ませる。
「ぎゅぉぉぉう!」
いったいどこからそんな声が出せるのか『肉塊のユリアン』がその触手を動かし攻撃してきたのでそれを転がって避けていき、そのまま撃つ。
「ぎゅぉう!ぎゅうう!」
「イヤ゛ア゛ア゛ァァァ!」
『肉塊のユリアン』に攻撃した事でそれが引き金になったのか『狂信のアマリア』が動きだして魔法を飛ばしてくる。
火の魔法が飛んできたのをみて大きく逃げる、触手が飛んできたのをみて転がって逃げる。
攻撃が一瞬やんだ瞬間を狙って銃弾をぶち込んでいく。
「ぎゅぉぉぉぉ………」
「ア゛ァ!イヤ゛ァァァ………」
まずは『肉塊のユリアン』が死んだ、そしてそれに気を取られた『狂信のアマリア』も銃弾を避けきれずに後を追う様に死んでいった。
「はぁ………疲れた」
余裕で倒せると言っても流石に3体同時はきつかった。
リロードをした際に落としたマガジンを拾い、ボス3体のドロップ品も拾っていく。
今回は『悲愴の伯爵』からちょっと豪華な懐中時計がドロップした。『肉塊のユリアン』からは魔石が5つ、こいつは他に何か落とさないのか?
『狂信のアマリア』からはドレスと魔石、今回は指輪などのアクセサリーはドロップしなかった。
「これで【悲愴の洋館】は完全攻略だな!」
後は周回するかどうか帰ってゆっくり考えるか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます