第16話 探索者交流会 #2

16.探索者交流会 #2









「次、神薙」


「はい、俺は見ての通り銃を使って戦います。近接時は片手剣を使う事もありますが、基本的には遠距離でいつも戦ってます」


「ふむ、【銃術】スキルは覚えているか?差し支えなければスキル内容も教えてくれ」


「はい、俺の【銃術】は1分間だけ銃の威力を上げるバフスキルです。」


以前にも話したが【銃術】や【剣術】などのスキルで覚えれるアーツスキルは人それぞれなので事前に教えておかないとPTを組む際に色々困る。人によっては自分のスキルを教えるのを嫌がる人がいるが、それはそれでしょうがない、一種の個人情報みたいなものだし。


「そうか、教えてくれて感謝する。次、雪白玲奈」


教官役である佐々野さんはメモを書きながらも次の人へと移る。自己紹介の途中で佐々野さんからは今後スムーズに物事を進めるために悪いけれど呼び捨てにさせてもらうと断られたのでそれを了承している。


まぁ確かに戦闘中にいちいち、さん付けで呼んでいては連携が遅くなってしまう。



「私は片手剣と盾を使って前衛で戦うわ、スキルは【剣術】と【盾術】それに【体術】も覚えています。【剣術】は【スラッシュ】ただの攻撃だけれど切れ味上昇効果がある。【盾術】は【パリィ】、相手の攻撃を跳ね返せるわ物理でも魔法でも。【体術】は5分間身体強化をおこなえる【バイタリティアップ】を使えるわ」


すげぇめちゃくちゃ前衛型だしスキルも戦闘に使えるいいの覚えてるなぁ。俺なんて直接使えそうなの【銃術】だけなのに………


「ふむ、完全な前衛型か。次、雪白香奈」


「え、えっと。私は【氷魔法】で今覚えているのは【アイスニードル】と【アイスダスト】の二つです。【アイスニードル】は氷の槍をいくつか飛ばして攻撃するスキルで、【アイスダスト】は相手を氷の霧で目くらましする魔法です。魔法はそれぞれ30回ほど使えます」


「なるほどな、ふむふむ。前衛1に中衛2後衛1か、バランスが悪いが問題ないだろう。それでは軽く作戦を決めるぞ、基本的には私は手を出さないのでそのつもりでいるように」


どうやら佐々野さんが作戦や連携を考えてくれるようだ、教官役だからかそうした戦略的な物の知識もあるのかな?


「まぁ連携とはいっても簡単な物だが、雪白玲奈が前衛で敵の動きを止めて神薙か新井がアタッカーとして攻撃する、そのまま倒せるようなら倒して無理そうなら雪白香奈の魔法でとどめだ。魔法を使う以上使用回数に制限があるので、出来る事なら神薙と新井が倒しきるのが望ましい」


「私一人だけじゃ相手によっては抑えられないわよ?」


「そこは問題ない、最初は少ない数からこなしていくつもりだし多めにきても私が間引くから安心しろ」


「それならいいわ」


「それでは取り合えずやってみましょう、雪白玲奈を先頭に新井、雪白香奈、神薙の順で陣形を組みなさい……………違う、そうじゃない。真っすぐ並ぶんじゃなくてちょっと横へ広がるのよ、そう、みんなそれぞれ自分の立ち位置をちゃんと確認して役割を考えなさい」


佐々野さんはそれだけ言うと俺達の後ろに下がった、本当に簡単にしか決めないんだな、これが普通なんだろうか?う~ん、でもまぁがちがちに作戦決めても全てに配慮できるとは限らないしな。ある程度を決めて残りは流れにしたほうがやりやすいか。


そして俺が最後尾で役割を考えなさい………か、周りへの警戒かな?特に後ろ。いつもソロの時は一応全方位に集中して探索しているがまぁ同じ様に警戒しつつ進めばいいのかな?


「わかったわ、それじゃぁまずは軽く魔物に出会うまで進んでみるわよ。何かあれば言ってちょうだい」


雪白玲奈が盾を構えて歩き出すのでそれぞれまわりを警戒しながら歩き出す一方で新井さんの召喚獣であるムンちゃんはどこか余裕の表情で歩いている。もしかしたら敵が近くにいないのが分かっているのかもしれない、野生の勘ってやつ?




「早速オークが来たわよ」


数分も歩くと【週末の夜】ダンジョンでの初めての魔物であるオークが見えてきた。大きさは180センチぐらいか?オークは太っているからそれ以上にでかく見えるが、どうやら都合よく1体だけのようだ。

オーク…………言わずと知れた豚みたいな二足歩行の魔物だ、物語によってはその生き方から忌み嫌われている生物だ。


だけれど物語と違い現実のダンジョンで出てくるオークはいわゆる女性を襲ったりはしない。衝撃的だが、オークは草食なのだ。主にキノコや木の実を食べている。


薄い本的な展開にならず残念に思う人もいるかもしれないが現実でそんな事が起こってみろ根絶やしにされるぞ?それに探索者に女性がいなくなってしまう。


後、ダンジョン内にいる魔物が食事をするのか?って所だが普通にする。ダンジョンに魔力的な物を貰って飢え無く生きているのかと思われるかもしれないが、そこまで不思議生物でもないみたいだった。


まぁそういったわけでオークは現実ではそんなに嫌われてない、見た目的に生理的に受け付けないとかはあるみたいだが。


「まずは雪白玲奈がオークの動きを止めろ!そこへ攻撃だ!誤射しないように気を付けろよ!」


教官の佐々野さんが後ろから指示を飛ばしてくる、一応指導もしてくれるんだな。


「行くわ!【バイタリティアップ】!」


身体強化スキルである【バイタリティアップ】を唱えて雪白玲奈さんがオークに突っ込む、オークも既に戦闘態勢に入っているのでお互いに睨み合いになっている。


「はっ!」


雪白玲奈が片手剣でオークに切りかかるが普通に避けられた、その後にオークも腕を振り攻撃を仕掛けるが盾でうまい事受け流している。


「ムンちゃん!」


「きゅ!」


「ガァッ!」


新井さんの掛け声でムンちゃんが【狐火】を飛ばし、うまい事オークに当てるが軽く火傷を負わせた程度でトドメとまではいかなかったようだ。


見ているだけなのもあれなので俺も攻撃に加わる事にする。今はちょうど正面で雪白玲奈さんがオークの動きを止めてくれて、新井さんとムンちゃんは左に展開しているので俺は右に展開して被らないように射線を広げる。

一応〝アサルトライフル〟とかの説明欄には人相手にはセーフティがかかって安全だって書いてあるけど本当かわからないし試すのも怖いからな。


サイレンサー付きの〝アサルトライフル〟でオークの頭を狙い撃つ。


「グラァッ!」


サイレンサーで静かになった射撃音が数発聞こえる。連射だと怖いので単発撃ちだ、頭を狙って撃ったがちゃんと当たっているようでオークから血が流れている。だがやはりこれも決定打にはならないみたいだ、さすがにDランクダンジョンと言えばいいのか今までみたいに余裕とはいかないな。


頭を狙い続ければ倒せそうだがここは動きを止める為に足や腕を狙う事にする。


「目くらまし入れます!【アイスダスト】!」


「これでお終いだ!【スラッシュ】!!」


「ガッ……アァ」


足を撃たれたオークが怯んで、すかさず雪白香奈さんが目くらましの【アイスダスト】を入れた、その隙を見逃さず雪白玲奈が【スラッシュ】を使い首を切り落とすと、オークはドシンと音を立てて崩れ落ちた。


「ふぅ」


戦闘時間は2~3分ぐらいだろうか?初めてのPT戦だがやっぱり他人がいる分戦いづらいな。敵の盾となってくれるのはありがたいがそれでもやりづらさの方が大きいかもしれない。


「ふむ、いい感じではないか?良くも悪くも普通だがその分癖が無いから連携がとりやすい。よし、ここで少し戦闘評価をするぞ、その前にオークを片づけよう」


佐々野さんが死んだオークに近づき腰につけていたポーチを外して片手に持ちそのままオークに手をかざす、するとオークがポーチに吸い込まれるように消えた。

オークの死体の近くで鼻をスンスンさせていたムンちゃんが突然消えたオークにびっくりして新井さんの足元へと帰っていった。


「わぉ、それって【収納袋】ですか?」


「あぁ、そうだ」


初めてちゃんと【収納袋】を見たがあんな感じで消えるんだな。


「倒した魔物はどうするんですか?」


「成果物に関しては最後にダンジョン協会へと売却して4等分にして分ける。私は協会から依頼料が支払われているので必要ない」


売っちゃうのか~まぁそれが揉めることなく無難なのかな?って事は売上は倒した分だけ増えるって事なんだな。

それに教官役は依頼料が支払われているのか………いくらだろう、ちょっと気になる。


「さて、先ほどの戦闘だが。特に問題はない、初めての戦闘だし初対面同士ならあんなものだろう。だが、あえて言うなら4人もいれば全員が戦闘に関わる必要はない、誰か一人は戦闘を俯瞰で見て何が起きてもいいように備えておくのがいいだろう」


なるほど?まぁ確かに4人全員が戦闘するのは視野が狭くなって危ないかも?


「そういった事を念頭に置いて4人で話し合ってみろ」


教官役である佐々野さんはそれだけ言うと腕を組んでこれ以上はしゃべらないぞのポーズをとった。


「そうね、まずは神薙君に周囲の警戒をお願いできるかしら?私と新井さんと香奈でオークの相手をするわ。けれども周囲が安全で戦闘に加われそうだったらいつでも攻撃に入ってくれていいわ」


「了解」


「新井さんとムンちゃん?はさっきの感じでいいと思うわ、けん制してくれたら私か香奈でトドメを刺すわ」


「はい」


「きゅ!」


「香奈はタイミングを見て自分で攻撃をして?どうしても必要な時は言うわ」


「わ、わかったよ」


雪白玲奈、彼女はそういった素質でもあるのかリーダーとしての風格がある。落ち着いているし指示も妥当だ。

酷い言い方になるかもしれないがムンちゃんの攻撃ではオークにトドメを刺せるだけの火力がない、けん制が精一杯だろう。


そして俺の銃もだ、頭に撃ってもオークは死ななかったし手足を撃って動きを止めるぐらいしかできないだろう。

その点彼女の【スラッシュ】の威力は凄かった、オークの太い首が綺麗に切断されていたからな。そして恐らくそんな彼女といつも組んで探索している雪白香奈さんの魔法はトドメを刺せるだけの威力があるんだろう。

身近でその威力を知っている彼女がそう思って作戦に組み込んでいるんだ。そういう事だろう。


チラッと佐々野さんの方をみてみると腕を組んでうんうん頷いていたので問題なさそうだ。


「それじゃぁ次に行きましょう」


再び歩き出したので遅れないようについていく。


う~ん、これがPTを組むって事か……………





◇  ◇  ◇  ◇





「今日一日お疲れ様。これが今日の成果だ」


そう言って佐々野さんはお金が入ったであろう封筒を一人づつに渡していく。封筒を少しあけて中身を見てみるが3万ほど入っていた。現在地は集合場所だった会議室3、そこで一日の終わりの会みたいなことをしている。


集合時間がお昼過ぎでそこから5時間で5体、大体1時間に1体だが途中色々確認しながら行動してたし他の普通のPTはきっともっと倒して稼ぐんだろうな。

それでも一人3万ならいい値段だと思う。【週末の夜】ダンジョンが人気なのも頷ける。


因みにオークは精肉されてスーパーなどで売られることになる。昔はオークを食べるなんて気持ち悪い!みたいな考えもあったそうだが170年も経てば普通に食卓に上がるレベルには食べるようになる。


戦闘に関しては可もなく不可もなく普通だった、問題が起きなかったしいいんだけどちょっと退屈だったのは秘密だ。


後、雪白香奈さんの魔法だが初めて見たけどそこまでの感動はなかった、今の時代VRゲームでああいったエフェクトは見慣れているしもっと派手なのも見たことあるし、正直あんなもんかって思ってしまった。


それでも【アイスニードル】はオークを一撃で倒せるぐらいの威力があったから少し羨ましかった。


「今日はこれでお終いだが、帰りに4人で打ち上げをするように。一応それが習わしというか慣習というか、私も馬鹿らしいとは思うが問題なければ行くといい。それじゃまた明日、同じ時間にここへ来るように」


今日一日教官役をしてくれた佐々野さんはそれだけ言うと帰っていった。俺達4人の中に微妙な空気が流れる。


「どうしますか?私は打ち上げに行ってもいいと思いますが3人は高校生ですし辞めておきますか?」


新井さんが年長らしく会話の主導権を握ってくれた事に少しほっとした。何を言えばいいのかわからなかったからだ。さすが大人だ、伊達に歳はとっていない。


「私と香奈は19時までなら行けるわ」


「う、うん」


「俺も問題ないです」


「それじゃぁ折角だし行きましょうか、おすすめの所があるんですよ」


新井さんはムンちゃんを抱きかかえ会議室を出て行こうとするので後をついていく。

おすすめの場所か~どんな所だろう?















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