第5話 Fランクダンジョン
5.Fランクダンジョン
『日本ダンジョン協会山野支部』から出てダンジョンを目指す。カバンに入れて持ってきていた装備はロッカールームに寄って着替えてきたので今は完全フル装備だ。
ダンジョン前には自分と同じような年齢の人達でわいわいと賑わっている、なかにはこれから一緒にダンジョンへ行こうとPT募集している人達もいる。
学校の受業や、何かしらのイベント事の時にVR空間での集まりになったことで現実での人と人とのつながりが薄くなった事で出会いの場が色んな所に移っていった。
その一つがここ、ダンジョンだ。
ダンジョン前でこんなに活発にPT募集しているのはFランクダンジョンぐらいで、普通はダンジョン協会が仲介してくれる。ならなぜここではこんなに活発なのかと言うと。
ここがダンジョン入場許可書をもらってからちゃんと活動し始める最初のランクのダンジョンだからって言うのもあるけど。こういった低ランクダンジョンでPT募集をしてその後有名になるようなクランやPTが実際にいるのと、そういう映画やアニメなどが人気があるからだ。
多数の人がそういった事に憧れて活動している。
じゃぁ俺自身はどうなのかって?そんなのもちろん決まっている。
「いいなぁ……」
ああいった行動力を持てずに遠くから眺める事しかできないぼっち。それが俺だ。
「ねぇねぇ君達、ダンジョンに入るなら俺達と一緒にどう?こっちも丁度二人なんだよね」
「いらないわ。行くわよ香奈」
「う、うん」
「あ、ちょっ……」
わお……ちょうど目の前でPTの勧誘を見ちゃった。しかも声をかけた青年ふたりはあっけなく振られたのが衝撃だったのか動きを止めて固まってしまっている。
対して女性の二人は青年の事なんて気にも留めずにダンジョンへと歩いていった。
思わず見ていたが女性二人はモデルかと思うほどスタイルも顔も整っている。
綺麗な赤髪にキツネ顔と言うのだろうか?少しきつめのきりっとした顔立ち。身長は170ぐらい、一般的な革装備を身に着けて武器は片手剣に丸盾と探索者の基本装備だ。
もう一人の女性は桃色の髪に幼い顔つき。身長は150ぐらいだろうか?もう一人の女性と比べたらだいぶ背が低い。こちらも一般的な革装備を身に着け、その上からローブを着ている。武器は片手剣のみだ。
そりゃあんなかわいい子を見つけたら声をかけたくなる気持ちはわかる。その行動力には惜しみない拍手を送ろう。心の中で。
そんな勧誘場面に出くわした俺も、未だに固まっている青年の横を通り過ぎてダンジョン内へと入っていく。
そこそこ人がいるダンジョンではGランクダンジョンにあったような石造りの大きな門は常にあきっぱなしになっている。人が通るたびに開けてしめてを繰り返していては時間がかかるので、その代わり開けっ放しににして門の横にはダンジョンのランクよりも上のランクの人が数人門番代わりに立っている。
ダンジョン内に入るとくるぶしほどまで伸びた草が覆い茂る草原が広がっている。こういったダンジョンはフィールド型ダンジョンと言われる。
『ふわぽん』がいたのは洞窟ダンジョンだ。
フィールド型も洞窟型もどっちもメリットがあり、どっちもデメリットがある。
洞窟型は出現するモンスターの種類が少なく、広さもそこまでない。さらに下に降りる階段の位置が決まっているので一度地図が出来ると攻略がスムーズに進む。
フィールド型は出現するモンスターの種類が豊富で、一層あたりの階層の広さが洞窟型とくらべてかなりひろい、そのかわりそこまで深い階層はできない。そしてフィールド型では下に降りる階段の位置が月に一度変わる。
後は洞窟型では長く潜り続けていると息が詰まるけど、フィールド型では外とほぼかわらないので開放的だ。
他にも変わったダンジョンはあるけど、それはまた今度にして……。
「ほんとに外と違いが分からないな」
頬を撫でる風、土や緑の匂い。太陽から肌に感じる熱。何もかもが外と変わらない。
ただあの太陽は偽物だし。空には限界があってある一定以、上をいくと壁があるそうだ。
ダンジョンを出てすぐは草原だが、遠くには森が見える。
モンスターと戦う前にもう一度装備の確認をしておこうかな?
まずは防具だ、留め具が緩んでいる箇所は無い…な、うむ。次は武器だ。
〝ハンドガン〟 攻撃力:10 耐久値:50
実際にある銃をモデルに作られた拳銃、魔物を相手に使う事を想定されていて、人相手にはセーフティがかかり怪我をさせない安全な造りになっている。
〝実弾(ハンドガン)〟 攻撃力:5 耐久値:10
【GunSHOP】スキルで扱われる拳銃に使える銃弾、魔物を相手に使う事を想定されていて、人相手にはセーフティがかかり怪我をさせない安全な造りになっている。
発射された弾は暫くすると自然に消える設計になっている。
昨日【GunSHOP】スキルで買った銃と弾だ。訓練用とは違いこっちには攻撃力がちゃんとある。しかも人相手にはセーフティがかかる様になっており万が一誤射してしまっても怪我をすることが無いみたいだ、これは素直にうれしい。
どんな武器でも、それこそ料理に使う包丁でさえ使い方を間違えれば人を傷つける、使う人次第なのはわかってはいるが事故でとかそういった心配をしなくていいのは心に余裕ができる。
弾は100発で10GPだったので2箱分買って背負っているカバンに入れておく。
後は予備の〝ハンドガン〟用のマガジンを4つほど買い足しておいた。マガジンがひとつだけだと毎回弾を入れなおさないといけないから大変だってことに寝る直前に気が付いたので慌てて買ったんだ。
そして〝訓練用ハンドガン〟〝訓練用非殺傷弾〟にはなかった【攻撃力】と言う数値。果たしてこれが何なのかだ。
ゲーム的な言葉で言うなら【攻撃力】とはそのまんま相手に与えるダメージの数値だ、だがここは現実なのでゲームの様にはいかない。
現実に攻撃力10の片手剣があったとしてそれを使って人を切りつけるとどうなる?相手にはVIT【防御力】がある。防御力は何のためにあるのか。
答えは抵抗値だ。
簡単に説明するなら肌の上に目に見えない透明なバリアが張ってあると考えるのが分かりやすいかもしれない。
【攻撃力】はそのバリアを削る量の数値だ。
防御力10の相手に攻撃力10の攻撃で切りつけるとどうなるか、攻撃が通る。
攻撃が通るなら最初から急所を狙えば一撃か? 一撃で倒せる。
では防御力10の相手に対して、攻撃力5の攻撃の場合どうなるか。
答えは片手剣なら切れはしないが青あざができる程度には攻撃が通る。ただしそれは真正面から素直に素肌で防御すればの話し。
実際には盾で防御するし、鎧もきている。攻撃を受け流したりもする。
なので【攻撃力】や【防御力】はあくまでも目安の数値でそこまで厳密に計算する必要はない。
そもそも、相手の防御力なんて測る方法なんてないし、こっちの攻撃が通る保証もない。じゃぁ攻撃力とかの目安はどうやって測るんだというと。ダンジョン協会がランク事にどれぐらい攻撃力と防御力、それにレベルがあればいいかって発表してくれている。
先人たちの蓄積された努力のおかげだな。
例えば今きているここ、Fランクダンジョンなら。
【Fランクダンジョン】
<静寂の森>
必要最低レベル 1
必要最低攻撃力 5
必要最低防御力 3
という風に発表されている。これだけの数値があればよっぽど運が悪くなければ死なないだろうって数値だ。
一般的に数万円ほどで入手できる初心者用の装備、片手剣なら攻撃力は10以上あるし。革鎧なら防御力は5以上ある。よほど粗悪品でなければ……
そういった店で買う武器の数値は信頼できるのか?こっちは調べようがないのにって所はどうなのかと言うと。
職業鍛冶屋、鍛冶スキルなどを持った人達は自身が作成した武器や、それに関連する物限定だが鑑定できる。それで知った数値を売る時に値段と一緒に紙に書いて張り付けてある。
さらにその数値が虚偽でない事を確認するために抜き打ちで定期的にダンジョン協会所属の人間が検査している。そうすることでダンジョン協会お墨付きのお店になり店的にもメリットがあるそうだ。
ダンジョン協会が認めた信頼できるお店って事だ。
ではもし、お店とダンジョン協会が共謀して嘘の数値が書いてあったら?
そこまでされたらどうしようもないし、考えるだけ無駄だ。
そもそもそういった犯罪はどの世界でも同じような物だ。食品の生産地詐欺とか、ネットショッピングで広告と見た目が全く違う物が送られてくるとか。
なので武器や防具は評価のちゃんとした安心できる店で買いましょうって事だな。
そういった見分ける目も大事だ、探索者だからとかじゃなくても。普通に生きていく上で。
右の太ももに〝ハンドガン〟左の腰には片手剣。『ふわぽん』の時には活躍する場がなかったが今回からはマガジン交換時や弾がなくなった時のために片手剣を持ってきている。
「よし、いくか」
装備の点検を終わらせて歩き出す。
「お?早速か」
草原を少し歩くとモンスターに遭遇した。額に角が生えたウサギ、『一角兎』だ。
ホルスターから〝ハンドガン〟を抜き取り安全装置を外して構える。『一角兎』は様子見しているのか鼻をひくひくさせながらこちらを眺めているだけだ。
『一角兎』との距離は20メートルほど〝訓練用非殺傷ハンドガン〟で沢山練習したからこれぐらいの距離なら外すことは無いとは思うが、相手は練習していた的より小さい。少しドキドキしながらもトリガーを引く。
「ぷぎゃっ」
「よしっ」
上手い事一発で当たってくれた。当たり所がよかったのか『一角兎』は倒れて動かない、ので近寄ってみる。
死んだふりしていた場合を想定して〝ハンドガン〟を構えたまま近づいていく。
「死んでる……っぽいな。つんつん」
完全に死んでいる事を確認できたので〝ハンドガン〟に安全装置をかけてホルスターへしまう。
たしか『一角兎』は角と肉と毛皮が売れる素材なんだよな?つまりは解体するよりこのまま丸ごと持って帰った方が楽そうだ。
まずは『一角兎』の血抜きをする。やり方は事前に調べてあるので問題ない。
血抜きが終われば、背負っているカバンから冷却ジップロックを取り出す、これは中に入れた物の鮮度を保つ簡易冷蔵庫のような機能を持ったジップロックだ。
ダンジョンからモンスターを持ち帰るなら必須になる消耗品でそれぞれ大きさによって値段も違ってきて高機能だから少し高めの値段設定だが、モンスターを売却すればすぐに取り返せるので無駄に使わなければ平気なぐらいの値段だ。
『一角兎』の大きさはペットなどの動物のウサギよりも一回り大きくそれなりの重量がある。
「意外と重いんだなぁこの感じだと5匹ぐらいが限界かもしれない」
倒したモンスター専用に買ってきた袋に、冷却ジップロックにいれた『一角兎』をいれて背負う。
まだレベルが低く、ステータスも低いので荷物がそんなに持てない。
レベルが上がってステータスも上がると最終的には車を片手で持ち上げたり出来るようになるらしい。高ランクのダンジョンへいく探索者がTVの企画でそんなことをしていたのを見たことがある。
そんな馬鹿力持っていると日常生活で大変そうに思えるが、人間とは不思議な物で脳が勝手に制御をしているのかドアノブをつかんだところで握りつぶすなんてことは無い。
「お?二匹目だ」
少し歩くとまた『一角兎』を見つけた、まだこちらには気づいていないようなので先ほどと同じ様に〝ハンドガン〟を構えて、先制攻撃をしかける。
「きゅ?ぎゅー!」
「やべっ外した!」
さっきは1発で倒せたのでいい気になっていたかもしれない、俺の射撃の腕なんてまだまだのはずなのに。
「ぷぎゅ~」
1発目を外すと『一角兎』がこちらに気づき突進してきたので慌てて撃ちまくる、すると何発目か分からないがうまいこと当たったのか『一角兎』は倒れて動かなくなる。
「焦ったぁ……気を付けないとな」
先ほどと同じように血抜きをして冷却ジップロックに『一角兎』を入れて背負う。
「先はまだまだ長い、頑張るか!」
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