三角関係でもややこしいのに

ぐらにゅー島

そうやってすぐに恋の方程式を解こうとする

 恋愛映画を見ているとこう思うことはないだろうか?

「いや、そんな綺麗な三角関係にならないわ。」と。

 しかしそんなことはないんじゃないだろうか。だって、そうだろう?この世の中は数式で全てが説明できるんだ。三角形は美しいじゃないか。




「…で、この恋の方程式を解いて欲しいの。」

「…なるほど?」

 そんな屁理屈をこねたくなってしまう状況に僕は今いる。好きな女の子に恋の相談を持ちかけられた。ズキンと心が痛む音がする。ちなみにその心臓の音は音速340m/sで僕を苦しめてくる。

「えっと、つまり君は好きな男がいるというのに他の男にも好かれている。そういうことだね?」

「ええ、そうよ。」

 あっけらかんとした顔で彼女はそう平然と言って退ける。なるほど、僕の好きな女の子はすごくモテるようだ。ライバルが多い…どころか僕はその恋の土俵にすら立てていなかったのだ。もう、遅かった。

「…まったく、君がそんなにモテるなんて知らなかったよ。」

「あら。だって私、貴方に言ってないもの。」

 髪をくるくると手でいじりながらそう彼女は言う。そんな王女様みたいなところも好きだった。それにしても、彼女の髪は二重螺旋構造のような綺麗なカールをしていて美しい。

「君は僕に、その男性のどちらを選べば良いか相談したいと言うことか?」

「いいえ、違うわ。だって私もう告白してきた男性たちはあらかた振ってしまったもの。」

「…え?」

 間抜けな声が出てしまった。僕はあまりの展開に追いつけない。

「三人くらいの男性が私に交際を申し込んできたけれど、全員私の友達の想い人だったの。しかもそのうちの1人は友人と婚約してましたし。」

「待て待て、なに?今何人の登場人物がいるんだ?」

「8人かしら?」

「三角関係がとても単純に見える。」

 なるほど、たしかにこれは恋の方程式を解く必要がある。流石に東大の入試問題もこんなに複雑な問題は出してこないぞ?

「ちなみに、その私の友人の中でも色々ありまして…1人は同性が好きなんですけど、相手はもう既に他の5人の恋人がいて…」

「待て待て待て待て」

「あ、同性の恋人だけで5人よ?」

「ドロドロの恋愛は聞いたことあるけど、こんなぐじゃぐじゃな恋愛模様は聞いたことない。」

 僕の理解能力はもう追いつかない。文章のことなら文系に聞いてくれ。

「あら、ここからストーカーも混ざってきて面白くなるのに…」

 なにやら彼女が呟いている気がするが、あーあー聞こえなーい。と、そう言いたくなるほどややこしや。

「…で、君は一体僕になにを聞きたいって言うんだ?」

「好きな男性が私に恋に落ちる方法に決まってるじゃない。」

 …彼女が口にしたのは尋ねるまでもない、単純明快な解答。そうだ、僕は今振られたんだ。心がキュッと締め付けられる。

「すまないが、他のやつに聞いてくれないか?僕は恋というものには疎いんだ。」

 やっとのことで僕はその言葉を口に出す。

「いいえ、無理よ。これは貴方にしか解けない問題だもの。」

 それなのに、彼女は食い下がらない。僕の服の端をぎゅっと握って離さないのだ。

「なんで僕なんだよ?」

 少し棘のあるような声を出してしまった。ハッと怯えるような顔を彼女はして、目を伏せる。その頬は紅潮しており、怒らせてしまったと僕は不安になる。

「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ…。」

「理由もわからないくせに謝らないでよ!」

 いつも冷静な彼女は珍しくそう大声を出す。嫌われてしまった。それがはっきりとわかった。僕は自由落下運動しているような気分に襲われた。冷静でなんかいられなかった。

「これ以上ぐじゃぐじゃな恋愛模様にして申し訳ないけど…僕も君が好きだったんだよ。ずっと前から!どうして僕が好きな女の子の恋のキューピッドが務まるとおもうんだ?」

 思ってもいなかった、素直な告白の言葉が口から出てくる。本当は、もっと数学的で美しい告白をするはずだったんだ。それなのに、それなのにとまらない。

「無理に決まっているだろう⁉︎僕は君に対して本気で恋をしていたんだ!」

 体育系のように、熱い熱い告白になってしまった。ダサい。完全に振られた。絶望が襲い、僕は彼女のことも見ずにその場を立ち去ろうとする。

「もう、遅いよ…!」

 彼女はそう言って僕の背中に抱きついてきた。そこで僕は気がついたんだ、この恋は三角関係でも、八角関係でもなんでもなかった。


 最初から、君と僕だけの一直線上の恋だったんだ。

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