剣と魔法じゃどうにもならない世界
鮎河蛍石
剣と魔法じゃどうにもならない
瘴気雲が渦巻く曇天のもと、魔王城の門前に王政監督官に連れられ冒険者三名と一頭が到着する。
「本日は大変足元の悪い中、参集いただきありがとうございます! これより
昼間にも関わらず黄昏刻を思わせる薄暗い空模様であっても、眩いばかりに輝く白銀の胸当てを装備した監督が号令を取る。
「よろしくお願いします」
冒険者一同は王政監督官に一礼をする。
「城門は先の戦闘で開いてますのでね。そのままお進みください」
一行が巨人の大口を模した悪趣味な意匠が目を引く、城門を潜ろうとしたその時だ。
「あらあら。監督官様ドラゴンが怯えてしまって進みません! 城門を壊しちゃってもいいかしら?」
ジョロキア王国に里帰りしていた冒険者の一人、元竜操騎兵のカーミラが監督を呼び止める。
「これは困りましたね。門の解体と改修の工事は発注済みですし…………」
魔王城の接収に伴う、要塞への改築事業を王政府よりドワーフ土木組合へ既に依頼が成されている。したがって冒険者が城門を破壊する技能を有していても、ここで下手に壊してしまうと、後々面倒なことにになってしまう。
「人間様に仕事を奪われちまったな! 段取りの組みなおしだ!」
職人気質のドワーフ土木組合の親方に、叱責される明確なイメージが、一瞬監督の脳理をよぎる。
「荷物を運ぶのが若干骨ですが、表に繋いでおくことは可能ですか?」
「魔者とか盗賊とか出ないかしら?」
「大丈夫です。この一帯は勇者御一行が、徹底的に殲滅しておりますから。何も出てきません」
「わかりました! メタリカこっち!」
大容量の荷役車を引く陸上火吹きドラゴンのメタリカを先の攻城殲滅戦で石柱化した、門前に聳える巨木にカーミラが繋ぐ。
「いいい子で待っててね」
「ごふ」と鼻を鳴らすメタリカの鼻を撫でながら、カーミラは城門の方へ戻る。
「すみませんお待たせしちゃって。普段はこんなこと無いんですけど」
「いいってことよお嬢さん」
巨大な
「絶滅した巨人族はドラゴンを食べていたと伝承がありますし、無理もありませんよ。巨人の意匠は効果的なドラゴン返しのようですね」
鑑定士のボージャックは目を細めながら石造りの巨人を眺め、メタリカが示した怯えに説明を付けた。
「門は改修しない方がいいのか」
今後の守りを鑑みて、改修プランの検討が必要性だと感じた監督が独り言ちる。
「では改めまして参りましょう」
一行は巨人の暗く長い喉を渡り入城を果たす。
◆ ◆ ◆ ◆
「なんだってこんなに散らかってるんだ…………」
「凄惨ですね。縄がこんなにこんがらがって」
「あらあら汚い部屋」
「先の戦闘でだいぶ荒れてますからね。いやあ調査するにも、隣国との緊張が高まっており、市民の皆様は同盟領に疎開されたりや、軍の方々は前線に赴かれておりまして、人手が足りておらずこの有様でして」
「これを片付けるのが我々の
「
「急募とありましたが」
「領内の外れにある魔王の元居城を放置してますとね。別の魔物が居着いちゃったり、盗賊が占拠しちゃったり、いろいろ国防上の不具合が生じますので。我が国で早々に接収し管理しようとなった訳です」
「つまり建て替えをさっさとやりたいから、危ないモノを事前に撤去しようって腹か」
「理解が早くて助かりますイザークさん。修羅場を潜り抜けてこられた歴戦の用心棒の勘の良さでしょうか。事前調査で魔王の遺物に害が無いのか確認し、逆に有益な物があれば回収しようと。危険度が未知数ですので、手当は多めに付けさせていただきます」
「ざっと見たところ使える物はなさそうです。勇者殿は徹底的にやられたようだ。本来であれば国一つを易々と滅ぼす神秘の武装が、朽ちた亡者の肉体をたちどころに復活させる禁忌の医術が、土塊を金に置き換える秘伝の技術が、枯れた農地であっても根ざす食物の育成法が、荒れ狂う大海を易々と超える航路図が、絶大なる暴力と魔力によって棄損したことがわかります」
「物の用途と状態をたちどころに看破するボージャックさんの鑑定能力」
「使い物になれば世界の有りようを変えてしまう発見だったかもしれません。見ようによっては、魔王城の道具が棄損され世界の均衡を守ったと言える」
「あらあら。難しいことは存じ上げませんが、何はともあれ荷物を運び出しちゃいましょう。メタリカの様子も気になります。あの子寂しがり屋なので」
剣と魔法じゃどうにもならない世界 鮎河蛍石 @aomisora
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