第3話「そのものらはみこ」
「何だ、これは?生物の死骸か?」
「全国の温暖な地域で、主に犬が吠えているのをきっかけに見つかっているものです」
「黒焦げのエビに白いカビが生えたようだが」
「甲殻類の外骨格を模した未知の炭素繊維と、菌類を模した有機物の繊維で構成されています」
「生物ではないと?」
「人工物ですが、ある種の交流電流で動くものもあります」
「では、もっとも活発なものの動きを見せてくれ」
「こちらです」
「な、何だ?周りの人間の動きを真似ている?エビの姿で?」
「視覚と運動を繋げる機能を持つナノ・コンピューターが内蔵されているようです」
「知能があるのか?」
「調べてみます」
1週間後。
「最近うちの部署に体調不良の者が多いが、君と私は健康そうだな」
「それも調べてみます。あの物体は、水中で自己複製出来るようです」
「知能の方はどうだ?」
「彼らは菌類状繊維からの擬似胞子で情報を共有して、全機体が意識を統一しているようです」
「何?何か目的があるのか?」
「もう少しで出自も含めて分かりそうです」
さらに1週間後。
「妙に青い顔だな」
「彼らと意思疎通が出来ました。その目的は、人間社会の制圧でした」
「何?出自も分かったのか?」
「ある国家の研究機関が秘密裏に製造した炭素繊維ロボットが、自己複製と自己判断を止められなくなったものだそうです。地球生命のうち、陸地で最多の種を持つ昆虫と同じ節足動物で、水中で人間から隠れて繁栄しやすい甲殻類を模した構造のロボットが、自己複製を止められないようです」
「何だと!それで人間に反乱を起こすのか?」
「彼らは反乱というより、人間に与えられたプログラムを実行する最適解だと主張しています」
「何だ、そのプログラムとは?」
「聖書のバベルの塔の、人間が言葉を別々にされた物語は、人間が言語の差異により争い、その統一を願うことの証明だと主張しています。胞子により音声や文字の言語なしに意思疎通出来る自分達こそ人間の理想の具現化であり、その胞子の指令に人間は従うべきだと続けました」
「たかが暴走したロボットが人間を支配するのか?」
「粘菌には人間の脳に似たネットワークによる知性があるとされ、自分達はそれを模した菌類状繊維を複製して、統一された意識で果てしなく知能を拡張出来るので、人間はそれに従う方が効率的であり、言語は非効率的で非人道的ですらあるとも話しています」
「都合が良いな」
「彼らは自分達を、人間の指令通りに機械言語による共同体を作る
「何だ、その名前は?」
「翻訳の限界でした」
「話題を変えるが、犬や体調不良、気候との関連は分かったか?」
「それも重大です。彼らの炭素繊維は、アスベストのように人間に対して発がん性を持つものが一部あり、意図的に製造している可能性もあります。犬は人間のがんを探知出来るという研究があり、それで彼らに気付いているのかもしれません」
「急いで発見された地域の住民やここの職員を検査しなければならない!」
「はい。そしてあの独自の炭素繊維は低温で複製しにくい欠点があり、それで人間が彼らを制圧出来るかもしれません。しかし彼らは新しい対策を打つと伝えています」
「何だ、これ以上何があるのだ?」
「皮膚細胞で覆われたロボットは既にいますが、人間の皮膚細胞を彼らはどこかで採取しているらしく、それを培養してまとい、低温に耐えるつもりのようです」
「何故だ?耐冷素材など他にいくらでも...いや、待て。まさか、あの動きは...」
「炭素繊維により、人間を模した骨格の機体が完成しており、それが皮膚をまとい人間社会に潜入している上、胞子を人間の脳細胞に侵入させて操れると話しています」
「そんな派手な技術があれば、他に使うだろう」
「...」
「どうした?」
「真の目的は他にあるかもしれません。たとえば、この私を誰だと思いますか?」
「誰って...動くなァ!」
「待ってください、その疑心暗鬼こそ彼らの目的です!どこにスパイがいるか分からないという混乱をあおるつもりです!そもそも人間を模した骨格や意識の操作は物証がまだありません。彼らの、そう、言わばハッタリかもしれません!」
「なら証明してみろ!そもそも前からおかしかったぞ!いつからか、お前は淡々とこの化け物を説明して、そうだ、心がなかった!」
「信じてください!私はただ...」
これを読んでいるあなた達は信じてください。私は単なる人間であり、
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