小人のポクルと 宝箱
碧絃(aoi)
小人のポクルと宝箱
小人の僕は森の中に住んでいる。
森の中で1番大きなクスノキが、僕の家だ。
人間が登って来れない高さまで登って、太い枝の反対側へ回れば、部屋の中に入れる。
木目調の部屋の中は、赤や紫の木の実で作った飾りや、どんぐりの帽子で作った3段の小物入れ、森の花で作ったドライフラワーのリース。僕のお気に入りのものばかりだ。
そして部屋の奥には、ベッドと同じ大きさの宝箱がある。
色んな色の木を集めてきて、アンティーク調に仕上げた箱は、僕の自信作だ。
宝箱の中には、人間の街から集めてきたものがたくさん入っている。
綺麗な色の玉をつなげて輪っかにしたものや、僕が使うのにちょうど良い大きさの可愛いコップやお皿、踏むと音が鳴る黄色い鳥もある。
僕にとっては全部大切な宝物だ。でも、この間遊びに来た友達に見せると——。
「こんなの、宝物じゃないよ。ゴミばっかりじゃないか」
友達にはゴミばかりだと笑われてしまって、僕は少し悲しくなった。
たしかに箱の中にぐちゃぐちゃに詰め込んであるけれど、いくらなんでも、ゴミはひどいと思う。
ある日、僕は宝物を入れるための布を背負って、人間の街へ向かった。
毎日ではないけれど、同じ場所へ行けば、珍しいものが山のように置いてあるのだ。
僕が、いつも宝探しをする場所へたどり着くと、大きな袋がたくさん置いてある。
——今日は、どんなものに出会えるだろう。
わくわくしながら宝の山に手を伸ばすと、突然、人間の子供の泣き声が聞こえてきた。声はどんどん近づいてくる。
——どうしよう。早く隠れないと!
小人の僕は、人間に見つかると大変なことになってしまうので、
女の子は、泣きながらこっちへ歩いてくる。悲しそうな声が聞こえて、女の子の目の周りは赤くなっていて、だんだんと僕まで悲しくなってきた。
すると女の子は、僕が隠れている大きな袋の横に座り込んだ。たくさん泣いたので、疲れてしまったのかもしれない。
座り込んだまま泣いている女の子を、放って置けなくなった僕は、大きな袋の陰に隠れたままで声をかけた。
「どうして泣いているの?」
僕の姿が見えないので、女の子はキョロキョロとしていたが、小さな声で答えてくれた。
「友達からもらったブレスレットが、無くなったの」
「ブレスレット?」
僕は、そのブレスレットというものが、どんなものなのかが分からなくて、首を傾げた。
「それはどんな見た目をしているの? 色とか、形とか……」
「ピンクと赤の丸いのが紐に通してあって、手につけるものなの」
女の子は大粒の涙をこぼしながら、右手で、左の手首を掴んだ。
——ピンクと赤の丸いのがつながっていて、女の子の手首と同じ大きさのもの……?
僕の頭の中に、宝箱が浮かんだ。
「ちょっと、そこで待ってて!」
女の子に向かって叫んでから、僕は急いで家に戻った。
色んなものがぐちゃぐちゃに詰め込まれた箱の中から、あるものを取り出して、それを肩にかけ、また女の子の元へ向かって走った。
そして、息を切らせながら女の子のそばへ駆け寄ると、泣いていた女の子はぴたりと泣き止んだ。
「ねぇ、探しているのはこれじゃない?」
僕は箱の中にあった、綺麗な色の玉をつなげて輪っかにしたものを差し出した。
「あ! これ、私のブレスレットだ!」
「この間、ここに来た時に拾ったんだ。君が落としたものだったんだね」
僕が言うと、女の子は服の袖で涙を拭って、笑顔になった。
「ありがとう! 小人さん」
「えっ……? あ!」
その時初めて、人間に姿を見られてしまったことに気が付いた。小人の僕は、人間に姿を見られてはいけないので、気をつけていたのに。
でも、女の子が笑っているから、まぁいいか。と思った。
友達は『宝箱じゃなくてゴミ箱だ』なんて言うけれど、女の子がこんなに喜んでいるんだから、やっぱり箱の中にあるのは全部宝物だ。またバカにされたとしても、僕はもう気にしない。
次に友達が遊びに来た時には、胸を張って『宝箱』だ! と言おうと思う。
小人のポクルと 宝箱 碧絃(aoi) @aoi-neco
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