鬼塚清志郎の過去
46年前の春、桜田は妖怪について研究している大学のチームに参加していた。
桜田が研究チームでフィールドワークの一環として三重の牛鬼淵に行った時だった。桜田達の前に3〜4歳ぐらいの男の子が淵の近くで桜田達の様子を伺っていた。
桜田は男の子に気づくと
「君、どこから来たの?お父さんは?お母さんは?」
そう尋ねたが、
「桜田さん、子供怖がってるよ」
同じ研究チームの1人が声をかけた。
「そうみたい…。でも、変なんだ」
「普通逃げるよね?逃げないんだ」
桜田が話すともう1人が鋸を持ってやってきた次の瞬間、男の子はびっくりして尻餅をついて口をわなわなさせた。
男の子の様子に異変を感じた同僚は
「この子…まさか…牛鬼…」
同僚が怯えながら言うと男の子は牛鬼の姿になって逃げた。桜田は男の子の後を追いかけ、淵から数メール離れた所で男の子に追いついた。
「ごめんね。怖かったでしょ?大丈夫だよ。落ち着いて」
桜田が優しい声色で話しかけると牛鬼は男の子の姿になった。
「君、牛鬼だったんだね」
「うん…」
男の子は首を縦にして頷いた。
「お父さんとお母さんは?」
「いない」
「君の名前は?」
「清志郎」
清志郎はぶっきらぼうだが、桜田の質問にちゃんと答えた。
「清志郎君かー。僕は桜田宗二郎。妖怪の事、研究してるの」
「研究?」
「そう!」
「宗二郎のお父さんとお母さんは?」
「東京にいるよ」
「東京?」
「うん!東京!」
当時桜田は東京に住んでいて実家から大学に通っていた。
「清志郎君はここにいて寂しい?」
「寂しい」
清志郎は顔を上げ、桜田に抱きついた。
桜田はどこかで清志郎の気持ちに気づいた。
-この子はずっと1人で辛かったのだろう。
その時、桜田を心配して同僚達がやって来ると桜田は清志郎を引き取ると話したが、同僚達は訳が分からないといった気持ちだった。しかし、桜田から清志郎の話を聞くと理解してくれた。
次の日、桜田は清志郎を連れて自宅に戻ると両親と5歳下の妹はびっくりし、清志郎を育てる事を猛反対したが、桜田が三重であった事を全て話すとちゃんと育てる事を約束し、清志郎は桜田家ですくすくと育った。清志郎は桜田の亡くなった知り合いの子供という事にし、名前を『鬼塚清志郎』と名乗った。
それから清志郎は幼稚園に通う事になるが、同じ組の園児から虐めを受け、怒った清志郎は牛鬼に姿を変えて園児を怪我させた。幼稚園教諭は桜田に連絡し、すぐ桜田は幼稚園に行き、園長と教諭、怪我した園児の親に謝った。
桜田の家族は清志郎の人柄を理解しているため、清志郎を慰めた。
事件から数日後、清志郎は桜田にこう聞いた。
「桜田先生、妖怪って悪者なの?」
桜田はしゃがみ、
「うーん。いい妖怪もいるから全部が全部悪い訳じゃないよ」
「嘘!だって僕はそれで幼稚園の先生から怒られたし、鬼太郎と悟空は悪い妖怪を倒してるよ」
「清志郎、お約束したでしょ?幼稚園で牛鬼の姿になるのはやめようねって。それに鬼太郎は人間達を守るために、悟空は三蔵法師を守るために悪い妖怪を倒してるんだよ。けど、清志郎は悪い妖怪じゃないよ?清志郎は優しい子」
「優しい子…」
「うん。清志郎は優しいよ。僕の自慢だよ」
「桜田先生、ありがとう!」
「いえいえ。後、牛鬼の姿になりそうになったら6回数えるんだよ。1…2…3…4…5…6って」
「わかった!」
笑顔で清志郎は答えた。
それから清志郎は桜田の言いつけで牛鬼の姿になりそうになったら6秒数える事を意識し、小学校に行く頃にはもう変化する事はなかった。
清志郎が小学4年生のある日、桜田は京都の大学に勤務する事になり、2人で京都で暮らす事になった。
清志郎は京都で小学4年生から高校まで友人ができ学校生活を楽しんでいた。
高校卒業後は建設会社で働くが2年で辞め、転職活動中、夫婦で経営している何でも屋で働く事になった。何でも屋の仕事が楽しく鬼塚にとってはやりがいがあったが、鬼塚が入社して4年後、社長が亡くなった。社長の妻は鬼塚に何でも屋を畳む事を言われ、鬼塚は途方に暮れていた。
桜田に相談するなど、自分の将来を考えていた鬼塚はふと名案が浮かんだ。自分で何でも屋を開くと。そのために鬼塚は京都を離れ東京に住み、清掃から引越しなど数多くのアルバイトをして資金集めをし、3年後何でも屋を開き、現在に至った。
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