目撃
森崎一春は、重政冬子達に自分の母親が見た事を見た全て話した。
遡る事、数週間前、一春の母・森崎久子はスーパーまで買い物に行った道中、何でも屋のビルの前を通りかかった。
なんだか気になった久子は、ビルに入り表札を見ると見覚えのある『何でも屋』の文字が見えた。それは、授業参観の際、鬼塚と名乗る牛鬼からもらった名刺に書かれたロゴと一致していた。
すると2階から
「鬼塚を出せ!」
と怒声が聞こえ、足音を立てないように階段を上がるとそこには、重政冬子達の親が怒鳴って中に入ろうとしていた。
依頼者であろう高齢女性が中に入れなくて困っていた。
久子は気づかれないように様子を見た。
「警察に通報したほうがいいかな…。でも、通報したらあの人達何をしてくるかわからないわ」
そう考えた久子は階段を降りた。
夕飯の時、久子は夫の義治と一春にこの事を話した。
「それは営業妨害だからやっぱり警察に通報すればよかったんだ」
義治がそう言うと
「あの人達は、保護者の間でも性格悪い事で有名だし、過去に新人の先生を退職まで追い詰めたのよ。何するかわからないわ」
久子は困った。
「昨日のニュースでコンビニの店長を土下座させて威力業務妨害罪で捕まった話があるだろ!通報すべきだ。見てみぬ振りはいけないぞ」
「そうよね…」
「何でも屋って授業参観の時来てたあの牛鬼の何でも屋か?」
「そう。牛鬼…」
「あれは一春のクラスメイトを助けただけだろ?」
「そうね…」
「とにかく、今度また何でも屋のビル通る事があったらちゃんと警察に通報するんだぞ」
「わかった」
久子が何でも屋のビルを通ったのはそれから2週間後の事だった。
階段を上り見ると重政冬子達の親はいなかった。久子はドアをノックすると中から伊万里が出てきた。
「はい、依頼ですか?」
「いや、そうじゃなくてお話があって…」
久子がそう言うと伊万里は何かを察し、久子を中に通し、向かいあって座った。
「どうかされましたか?」
伊万里が聞くと
「牛鬼は?」
それを聞いた伊万里は目を大きく開け
「鬼塚は休日でして…というのは嘘で、行方不明なんです」
「行方不明?」
「はい」
「あの表に重政さん達いらっしゃらなかったんですが…」
「私達にはわかりかねますが、鬼塚がいなくなってから来なくなったんですよ」
「そうですか…。もしいらっしゃったら警察に通報しようかと」
「警察?」
伊万里が疑問に思うと久子は伊万里に訳を話した。
「それはありがとうございます。私共でもそのように致します。わざわざありがとうございました」
その後、伊万里は久子に重政冬子達の親の情報を教え、帰宅した。
久子は義治と一春に鬼塚が行方不明だという事を話すと
「牛鬼、三重に帰ったんじゃないかな?」
義治が言うと
「何故?」
一春が聞くと
「いや、子供の頃、牛鬼淵という三重にある牛鬼が住んでる淵の話を聞いたからさ」
義治がそう教えた。
「えーどんな話?」
一春が聞くと義治が記憶を辿りながら牛鬼淵の話をした。
だが、この後何でも屋の一行は鬼塚の居所を知るが、そこは三重ではなかった。
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