恋の花、咲かせます。

たつみ暁

恋の花、咲かせます。

 校庭の一角にある花壇はぐちゃぐちゃだった。

 踏み荒らされ、明らかに鋭利な刃物で草花を切り取られ、スプレーで落書きがされている。

『ブス』『クズ』『死ね』

 心無い言葉に、胸が痛くて、身体が震え、ぽろぽろと涙が溢れる。

『花を育てるのが上手なんだね』

 親しい友達の少ない私の気持ちを落ち着かせてくれるのは、潰れかけた園芸部の先達が残したこの花壇を整える事だった。

 それを、たまたま見ていてくれたひと。眼鏡の奥の目を優しげに細めるのが綺麗で、恋に落ちるのに時間は要らなかった。

 家が園芸店を営んでいるというその先輩は、私の知らない知識を沢山沢山教えてくれた。その度に、私の心の中の恋の芽は順調に育って、蕾になった。

 だけど。

 その蕾はもう咲かない。先輩が私に気をかけるのを疎んだ誰かさん達のせいで、しおれてしまう。乾いた土に、ぽたぽた雫が落ちた時。

「大丈夫だよ」

 耳元で囁く、柔らかく低い声が聞こえた。

「君の想いは届く。土を鋤き返して、この種を蒔いて」

 手の中に、小袋がぽとりと落ちた気配がする。はっと顔を上げて振り向けば、そこには誰もいなかった。

 何の不思議だろう。それでも、声に従ってみようと決意して、無残な花壇を整えて、種を蒔いた。


「まだ懲りないの?」

「バカなんじゃない?」

 夜の校庭に忍び込む女子達がくすくす笑う。鋭い鋏とスプレーを持って。

「特別扱いされてると思ってるのが許せないのよ」

 新しく整えられた花壇を踏み荒らそうと足を踏み入れた時。


『純粋な気持ちを踏み躙る者に、天罰を』


 どこからとも無く響く声と共に、ぐわっと土から緑の触手が生え、少女達に絡みつく。

「なっ、何!?」「た、助けて!」

 嘆願も虚しく、卑怯者どもは触手に引きずられて、地中に消えた。


「さあ」

 どこからとも無く現れた緑の髪の青年が、満足そうに腕組みして笑う。

「邪魔者はいなくなり、恋の蕾は美しい花を咲かせるだろうね」

 

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恋の花、咲かせます。 たつみ暁 @tatsumi

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