雪解け道
eggy
三月上旬、快晴、予想最高気温10℃。
というフレーズを聞くと、ようやく春の到来と誰もが上機嫌、浮かれ出しそうにも思われるが。
北海道では、そうとも限らない。
つい先日までの積雪の名残が、道端のあちこちに残っているのだ。ここであたかも春真っ盛りの気温に包まれたら。
解けた雪が流れ、いたるところぐちゃぐちゃ。防寒短靴はもちろん革ブーツの類いでも、足を濡らさずに歩く自信の持てない道行きとなる。
それでもたいていの車道は午過ぎともなると雪も消え、乾いたアスファルトが見えてくるのだが。
ここにまた、腹立たしい事実がある。
勤勉な住民たちが、あちこちで自宅前の雪を割り、車道に撒き広げ出すのだ。
車通勤中乾いた路面に油断していて、突然の
俺の自宅まで500メートルという路地脇に住む爺いも、そんな仲間だ。
しかもこの爺い、数年前に一人娘が俺に振られたからと当てつけの遺書を残して投身自殺を果たしたものだから、何度も押しかけてきては恨み言を連ねていったという因縁の相手だ。
最近はそれも諦めたようだが、こちらの車を見ると狙ったようにシャベルで雪を投げてくる。
こちらも負けずスピードを上げて、泥雪を撥ね掛けてやる。本人がいなくても、奴の家の玄関先に泥を飛ばしてやるのだ。
この日もいつもと変わらない帰宅時間、爺いの家の前には露出した路面に撒き広げた雪が解け出して見えていた。
好戦的な気が湧いて、俺はアクセルを踏み込む。
と、妙なものが見えた。
奴の家の手前、アパートの二階露天通路に、男の姿。
いきなり両手で振った、バケツから飛んできた泥水。
一瞬で、フロントガラスが真っ茶色に塗り潰されていた。
「わああ!」
慌てて、ブレーキ。しかし撒き広げられた雪に突っ込んでスリップしたか、効き目なく。
走行方向が、分からなくなり。
刹那。全身が大きな衝撃に包まれていた。
雪解け道 eggy @shkei
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