【短編】雀(すずめ)。

大河原雅一

幼少期に見た名前を知らないアレ。

みなさんは幼少期の頃の記憶をどの程度辿れるだろうか?


一番古い原初の場面がアニメ番組だった人は幸いである。

(おっさん的に笑うポイント)


なるべく記憶を捏造しないよう慎重に記憶をほぐしていってもらいたい。

見るものすべてが目新しく、形も色も名前もあやふやだったあの頃に思いを馳せてみよう。


__


1978年の夏。

おっさんはまだ2歳と数ヶ月。

当時は東京都内のコンクリート団地の3階に住んでいた。

重度の「あれなーに?」星人だったため自分の相手をしている間、母親は家事もろくにできなかったようだ。

母親は子供を昼寝で寝かしつけている間に掃除、洗濯、夕食の支度を済ませる一般的な昭和の主婦である。



目を覚ますとベビーベッドに寝かしつけられていた。

状況的にお昼寝から目覚めたタイミングである。

母親の姿は見当たらないが、洗濯機の音が聞こえるので家事をしているのだろう。


ベランダの窓は開け放たれ、レースのカーテンがそよ風に靡いている。

部屋の内側に靡くカーテンの外側(つまりベランダ側)に何かいる。


不定形のぐちゃぐちゃしたもの。


いつもは家のあちらこちらに見えているものが、今日は外側にいる。

これは外から来たもの、つまり「お客さん」ではないか!


どうしたの?

「きた」


なにかいたの?

「いた」


何も見えないけど?

「いなくなった」


どんな色?

「ちゃいろ」


ここは3階だから鳥かしらねぇ

「とり」


雀ねきっと

「すずめ」


母親との会話は連想ゲームのようなもので、子供が語る言葉のかけらを元に、どんなに不可思議なものでも母親の常識の枠に納められていくのである。


黒ければカラス

茶色なら雀

緑ならバッタ


動いていれば動物の枠組みに、色でなんとなく「名付け」をして世界に定着させるのだ。


なるほど、先ほど見たのは「雀」なんだ!

またひとつ覚えた。嬉しいね!


__


母親の常識は一般常識としては十分なものであり、とても感謝している。

ただそれが「正解」とは言えないものもあったことは確かだ。


後日、真新しい動物図鑑で本当の「雀」を見た時、衝撃を受けたことも記しておく。

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