どうせ結末は変わらない、と思った

紫乃遼

それがすべて

 緊急医の笑い声。大学から直接、勤務医でもある教授2人に両脇を抱えてもらいながら隣の大学病院の緊急室へ運んでもらった私は、その時点でもう半身不随だった。テストがあるからと右半身をひきずって1時間半の通学を成し遂げたのに、テスト直前の昼休みに限界が来てしまった。

 MSだと言われた。見えたMR画像は授業や国試の過去問で見たどんな画像よりも汚く典型的で、なのに私は「MSって何の略語だったかな、Multiple…日本語でなんだっけ」と呑気なことを考えていた。

 バイトリーダー、学生団体リーダー3つを兼任していた私が各先に連絡を終える頃には、全身不随にまで症状が進行していた。緊急の点滴はまったく効かず、寝たきり全介助で投薬される日々が続いた。授業の合間にお見舞いに来てくれた同級生はみんな笑顔で、去り際に少し泣きそうな顔をした。みんなMSがどんな病気か、習いたてだったから知っていた。

 完治はしない。寛解と再発を繰り返しながら悪化していく。症状は病変部位によって異なる神経難病。神経欠損だからリハビリは無効。リハビリする側の学生だったから、私もみんなもよく知っていた。

 友達とビュッフェに行く約束をしていた。秘書検定や漢検も控えていて、フィリピンでのプレゼンも控えていた。ゼミも決めて、神経の研究者になることを決めたところだった。それをぐちゃぐちゃに壊したのは、神経難病だった。皮肉すぎる。

 主治医は「一生治らないけど諦めるな」とグッジョブして笑った。あの笑顔が今も忘れられない。大学は中退するしかなかった。

 でも5、6年経った今は思う。希望にあふれていたあのとき踏みにじられた夢や生活は、今の平穏につながっていた。金色を黒でぐちゃぐちゃに塗りつぶされたように感じたけれど、残ったのは温かみのあるペールイエローだった。すべてが終わって、また始まる。それがすべてなのだろう。

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