神は人間を作ろうとしたが不器用すぎた

クマ将軍

授業を始めます

 私ことメーアは人間創造の授業を担当する神である。

 私は私の世界を運行し、かなり高度な文明を築き上げてきたエリート神です。そうした実績を買われ、次代の神を育成する神育成校の講師として雇われました。


「それでは授業を始めます」

『はーい』


 今この教室にいるのは私を除いて五人。

 この五人が神育成校の生徒にして次代の神です。案外人数が少ないと思っている方もいるかもしれませんが、神はそんなに多くありません。

 神に寿命はなく、永久不滅にして高次元の存在。自らの意思で同胞を増やすことはなく、私たちは世界……つまり宇宙の誕生と共に生まれる存在なのです。


 ですが世界の誕生はそう多くありません。

 悠久の時の果てにふとした偶然によって生まれます。ですのでここにいる五人というのは寧ろ多い方なのです。


「あなたたちの世界は今、空っぽの空間です。そうした空間に私たち神は色々な物を詰め込む事が出来ます。詰め込めば詰め込むほど世界に力が溢れ、私たち神の力も上がる……そして出来る事が増えていきます」


 それでは何故、私たち神はそうするのか。


「何故なら私たち神は生命の営みが好きです。私たちと共に生まれた世界が元気に活動しているところを見るのが好きだからです」


 理由はそれだけです。

 ですが神はそれを生きがいにしているのです。

 見れば生徒全員、私の言葉にワクワクしていました。半身とも呼べる自分の世界を良くしたい。それだけで彼らは熱心に私の言葉を聞きます。


「私が担当する人間創造は数ある創造科目の中で最も基本にして最重要の科目です。ここで完璧に仕上げれば後の管理は楽になり、楽しめますよ」

『はーい!』


 よろしい。

 私は彼らの返事を聞いて笑みを浮かべます。


「それでは皆さん机の上にある粘土を取ってください。それで人間を作りますよ」


 人間とは世界の血液です。

 愚かでありながら愛おしい生物。彼らの活動によって世界は発展も衰退も思いのまま。世界を運行する楽しみの八割が人間という存在なのです。


「人間の姿は我々神と同じです。奇跡のようなバランスで保つ人型こそが人間にとって重要なのです。なのでちゃんと人体という物を観察し、覚えながら作ってくださいね」


 先ずは形です。

 生徒たちは自分の姿や他人の姿、教科書に載っている人体模型図を見ながら成形していきます。そんな彼らを微笑ましく見ていると、一人の生徒が目に入りました。


「……うーん、うーん」

「どうしましたか?」

「あっ先生!」


 彼女は机の上に置いてあるぐちゃぐちゃな粘土を見て唸っていました。

 はて、一度粘土を捏ねたのでしょうか。


「実はどうやっても上手くいかなくて……」

「なるほど。焦らなくていいですよ。先ずは教科書の人体を真似しながらやりましょう」

「……分かりました! 私、頑張ってみます」


 そうして彼女は粘土を手に取り見様見真似で成形していく。


「よし! 完成しました!」

「どれどれ……」


 なんと出来たのは両腕だけやけにぶっとい人間でした。


「米津○師ですか?」

「やっちまいました……」


 やっちまったというレベルじゃないでしょう。

 こんな努力と未来は美しいと言うような人は偶然で出来ません。

 え? たまたま? うっそだー。


「えぇ……? なんでこうなるの……?」

「それは私が聞きたいのですが……取り敢えずやり直しましょう」

「はい……」


 そう言って彼女は再び成形した。

 そして出来たのは……頭だけ肥大化した人間でした。


「オーマイゴッド……」

「ゴッドはあなたです」


 これじゃあ自重で早々に潰れちゃいます。

 潰れなくても寝たきり生活です。


「可哀想ですから作り直しましょう」

「はい……」


 そうして彼女は再び成形を始める。

 人間の顔の部分を針で成形して……そのまま針が顔を貫通しました。


「ジーザスクライスト……」

「私も嘆きたい」


 ここだけ猟奇的な現場になっています。誰か助けてください。ほら、そこのあなた。人間の創造が終わったのでしょう? ちょっとご学友の助けを……目を背きましたね。


「私って……こんなに不器用なんですね……」

「言わなくても分かります」


 彼女は項垂れながら粘土を手に取ります。

 そしてそのまま成形すると……おぉ! 今度は上手に出来たじゃないですか!


「先生! やりました!!」

「えぇおめでとうございます! 奇跡ですね!」

「奇跡?」


 一瞬疑問符を浮かべた彼女ですが、自分が人間を作れた事に喜んで人間を手に持ちながら踊ってます。するとどうなるかお分かりですね? はい。人間の頭が取れました。


「に、人間ーっ!?」

「何をやってるんですかあなた……」


 不器用だけじゃなくドジっ子属性もありましたか。

 形だけ作っても魂は入れてないのでまだ粘土のままです。ですのであのまま動けばどうなるのか分かっていた筈なのにこの子は……。


「もう一回、作り直しですね」

「はい……」


 そう言って彼女は作り直します。

 ですが奇跡は早々起こらないからこそ奇跡。

 彼女は二度と完璧な人間を作る事が出来ませんでした。


「……神は死にました」

「勝手に殺さないでください」


 ってかあなたも神でしょう。


「……仕方がありません。私も手助けをしましょう」

「先生ぇ……」


 さぁ先ずは粘土を手に取って大まかな人間の姿にしましょう。


「よし! 出来ました!」

「おぉ凄い! 何故この調子で今まで出来なかったんでしょう!」

「……」


 何か言いたげですが次に行きましょう。

 あとは細かいところを掘るだけです。体型は完璧に出来ているためミスっても不細工な人間が出来るだけです。気楽に行きましょう。


「オーマイブッダ……」

「二大宗教揃い踏み……」


 出来上がったのはまた両腕が肥大化した人間です。


「なんでまた米津○師ですか」

「分からないですぅ……」


 下手すれば彼女の手で新人類が出来てしまいます。それはそれで別にいいですが、今の彼女のレベルでは扱いきれないでしょう。


「これは……補習かもしれませんね……」

「そんな待ってください! まだ私は出来ます!」

「あなたが出来ても人間は出来てませんよ?」

「私は世界を見守る神なんです……! 例え不器用でも私は人間たちの生活を見たい! だからお願いします! 私にチャンスをください!!」


 なんという、なんという熱意でしょうか。

 私が神として生まれたての頃、人間の営みを見たくて徹夜で頑張ってきたのを思い出します。まぁ神なので徹夜しても大丈夫でしょうが。


「分かりました……! 頑張っていきましょう!」

「先生!!」


 こうして私と彼女の人間創造が始まりました。





「初めに、人間の体型を教科書通りに成形して……」


 彼女は力を込め過ぎたのか粘土をぐちゃぐちゃにしてしまいました。


「なんてこった。あなたはいつもそうだ。誰もあなたを愛さない」

「そんなー」

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