第56話

「そうか! おかしいと思ってたんだ! 原型館には強力な魔法が掛っていて、水玉のドアには蜘蛛の巣がいっぱいあった。誰かが通ったら蜘蛛の巣が破れるどころか、館の魔法で破れないはず……。つまり、誰も帰って来たものがいないということだ!」

 グッテンはやっぱり賢い。この館で有名な学者なのが頷ける。そう僕には解らなかった。

「グッテン。その通りだ。原型館には行ったっきり帰ってくる者がいないんだ。ハリーに騙されたんだな」

 雲助が言う。

「やっぱり……」

 グッテンがハリーの狂気を見に染みたような表情をする。

「ハリーめ」

 さすがのコルジンも怒った顔をした。

「ハリーおじさん。……こ……怖い人」

 ロッテは悲しそうな顔をして俯いた。

「開けるよ」

 僕は黒い暗黒の両開きドアを開けた。

「いらっしゃーい。よく戻って来たね。それも黄金の至宝まで持って来て」

 

 ハリーおじさんは金色のスーツを着こなし、僕たちを招き入れた。僕の手の黄金の至宝を見つめる。

 恐ろしく細い女がハリーの傍に立っている。

「ハリーおじさん! あなたが僕たちにしたことは大変なことですよ!」

 僕はハリーおじさんに、鋭く言い放つ。

 ハリーおじさんは部屋の中央で目を四方八方にして、こちらをにこにこ見ている?

 その顔はいっさいも恐ろしくは無く、それでいてどこかはしゃぎたいといった顔だった。

「ハリー。これはどういうことだ。俺たちをはめたのは何のため?」

 コルジンが両腕の筋肉を引き締めた。まるで、弓を射るみたいにその体はきりりとひきしまる。

「ハリーさん! あなたは自分が何をしたのか解っているのですか!?」


 グッテンは鋭い鋭利な刃物のような声を発した。

 ロッテは僕の後ろへと隠れる。

 ハリーおじさんが右手を上げた。

 すると、ハリーの部下の黒タイツが、いっせいにどこからか現れ僕たちを囲み、機関銃が向けられる。恐ろしく細い女も機関銃を向けた。

「面白くなってきた。やっぱり面白くないといけない。さあ、さっさと黄金の至宝を渡してくれ!」

 ハリーおじさんは僕の所へとゆっくりと歩いてきた。

 僕はハリーおじさんが僕の手を触った時に、黄金の至宝を念じて捻じった。

 周囲がぐにゃり。

瞬間、コルジンとグッテンがとても心配そうな顔を向けているのが垣間見えた。ロッテは驚いた表情が変わり頬を染める。

 

 ここは原型館の館の端っこ。

「ふむ。これが黄金の至宝の力。なかなか、なかなか、なかなか、面白い」

 ハリーおじさんと僕は一対一だ。

僕は一対一の対決をすることに決めたのだ。

 ハリーおじさんはキョロキョロと辺りを見回し。僕から離れた。

「ハリーおじさん。きっと、ここにはとんでもないものがあると思う。それはもうそろそろ始まる」

「?」

 

 僕はあのグランドピアノのメモを思い出していた。この部屋には何かある。そして、それはもうすぐ起きる何らかだ?そんな感じがする。

「ねえ。それを渡してくれないか。俺はこの館から出たいんだよ。……どうしても」

「無理だと思うよ。きっと、ここでハリーおじさんは大変な目を見る」

 その時だ。周囲の空間に何か得体の知れないものたちの息吹を感じる。それと、囁き声だ。背筋が冷たくなってきて寒くもないのに震えそう……。そして、それは部屋の中央に集まって、見えない形を造りだしていった。

「あれー? なんだー?」

 

 ハリーおじさんはその得体の知れない形を見つめる。その表情は何も表せない。

 それは亡霊の塊となった。

 その中に、ある人がいた。

 それは、僕が100人は眠れるベットで見た美しい女性の亡霊だ。

「メアリー!」

 ハリーおじさんは血相変えて叫んだ。

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