第52話

「ふうーむ?」

 大浴場からの帰りで、グッテンに出会った。

「おう。グッテン珍しいな?」

「ああ。私もお風呂へと入ろうかと。何だか原型館から帰ってきたら、むしょうにお風呂へ入りたくなったんだ」

「お前もか」

 コルジンとグッテンが話している。

 

 僕はグッテンがお風呂へ入るのが、珍しいことなのは知っている。どういう心境の変化なのかな?

「そうか。そうだよな」

 コルジンが納得顔で言った。

「そう。あの原型館での水で気持ちが変わったのさ。……これならば大浴場のほうがましさ」

 あ、そうか。原型館での水は脅威だ。それなら、大浴場の方が良いに決まっているよね。

 怖くないもんね。

「じゃあな」

「ああ」

 グッテンは黒いジャージ姿で大浴場へと消えた。

「なあ。おチビちゃん。俺たちは原型館という不思議で凄いところから帰って来た。これはとても凄いことさ。きっと、何年代も昔でも凄いことだと思う。黄金の至宝も持って来きたし……」

 

 コルジンが僕の肩に大きな手を置いて話した。

「うん。僕もそう思うよ。でも、それはコルジンたちのお蔭なのさ」

「ははっ、それはこっちのセリフだぜ。おチビちゃん」

 僕たちは大浴場の湯で体が温かく、心も温かくなる。こんな友達を持てて素晴らしい限りだ。

「明日にハリーおじさんに出会おう。黄金の至宝を渡しに」

「そういえば、賞金を半分にするんだったな。おチビちゃん。ハリーは何にその黄金の至宝を使おうとしているのかな。俺なら原型館へと行ってあの不思議な鳥をタダで、食い放題にするんだがな?」

「きっと……この館から出るためさ」

 僕は雲助の言ったことを思い出す。

「そうだ。この館から外へと出ることが出来るのさ。その黄金の至宝は。この館で一番強い魔法だ」

 雲助が言った。

「この館から外へ……」

 コルジンが硬直してしまった。

 

 それはそうだろうと僕は思う。今まで必死に天使の扉でガラスを拭いて、外へと出ようとしたのに。旅行から帰ったらあっという間に、外へと出られるんだから。なんだかコルジンが可愛そうだ。でも、死に物狂いの結果でもあると思う。僕たちは立派だよ。

「そ……それは本当なのか?」

 コルジンは俯いてしまった。

「うん。コルジン大丈夫?でも、死にそうになるほどの体験の連続だったし……。いいんじゃないかな?」

 コルジンは腕を摩って顔を上げた。

「ああ。何とかな……。本当におチビちゃんは凄いよ。君が来てからこの館が凄く変わった……。本当に夢みたいだ。確かに死にそうな体験だったし」

「あはは。それとコルジン、ちょっと早いけどキャサリンおばさんのところへ寄ってみない?」

「え、まだ早いよ。明日にしよう」

「夕食は何?」

「おいおい。落ち着けないのか……。今日は豪華にチキンスープだ」

「やったー」

 

 そんな話をしながら、おじいちゃんの館でハリーのショーでの救世主ぶりや、原型館を旅立って黄金の至宝を見つけ、無事に帰ってきたりと、困難を成功させてしまう僕。それを自覚すると、いやでも興奮する気持ちは……顔を上気させ落ち着けなかった。何だか僕はゲームのRPGの勇者みたいだった。

 僕たちは館の迷路を途中、人々の驚嘆な顔を見ながらコルジンの部屋まで歩いて行った。

 その次の日からは僕たちは黄金の至宝を持ち、原型館からの帰還者として館の住人から広く知られるようになった。噂があちこち……。

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