第40話

 見ると、ブロンズ像の下に子供一人は入れる穴が出てきた。

「僕がためしに行って来る。雲助肩に乗ってくれ」

 僕は意気揚揚と雲助を肩に乗せると、暗い穴へ入ろうとした。

「おチビちゃん。亡霊がでたらどうする。俺も行くよ」

「無理だ。子どもサイズだ。ヨルダン何か見つかったらすぐに戻って来てくれ。きっと、この部屋からみんなで出られる方法の糸口があるかも知れない」

「あたしも行く。怖いけど」

 僕はみんなににっこりとして、

「大丈夫。僕は死を恐れない。ロッテはここにいて」


 中は真っ暗だった。まあ、当然かな。布袋をしっかりと持って、下半身を入れて後は頭を地面へと持って行く。僕は原型館への探険と言う名のパンに、興味というおいしいスパイスをかけて、穴を這いつくばる。地面は珍しい赤い土だった。

 僕はどこへと続くのか解らない穴の中を、いくらか這いつくばると、急に頭上から光が漏れているところへと出た。

「ここには何があるの」

 雲助の顔が光で見える。

「解らん。でも、とてつもなく大きいベットがある」

 僕はそれを聞いて頭を穴から出した。

「わ!」

 

 そこには、雲助の言うとおりの巨大なベットが部屋いっぱいにズンとあった。……100人は眠れる。

「ここなら、みんなでいつまでも眠れるね」

「端っこはどうした」

「勿論、言ってみただけさ」

「それにしても、端っこに行って、それから黄金の至宝をゲットしても。どうやって、帰ろうかな。館の特殊な亡霊が出入り口付近にいるし、蜘蛛がいっぱいいた水玉模様のドアには魔法がかけてあるようだし」

 僕は部屋いっぱいの巨大なベットに寝転んだ。とてもフカフカで洗いたてのベットだ。

「だからヨルダン。恐らく戻れないぞ。無理だと思う。けれど、コルジンたちをどうやってあの部屋から出すんだ」

「うーん」

 僕は考えながら、なんと・・・寝てしまった。


 遠くで痛みがする。

 きっと、雲助が起こしているのだろう。

 あ、僕は寝てしまったんだね。

 みんなをあの部屋から出さないと……。


「ヨルダン! 起きろ! ここには危険がいっぱいある!」

 僕は目をぱっと開ける。

「え!」

 目の前には美しい女の亡霊が僕の目と鼻の先にいた。

 その女性がいきなり目をひっくり返して、手に持ったナイフを振り上げる。

「ヨルダン!」

 僕は必死にかわした。

 そして、立ち上がると言うことをなかなか聞かない体で、巨大なベットをモフモフと走り出す。僕の寝巻きはこのベットの部屋にはとても似合う。雲助が肩で「危ない。危ない」と呟く。

 

 ベットは遠くの鮮やかな緋色のドアへと続いていた。僕はドアへと逃げる。額に温まった冷や汗がつたう。ドアを閉めた。

「ヨルダン。コルジンがいないから無茶はするな。原型館は危険がどこにだってある」

「解ったよ」

 僕はバクバクいっている心臓と呼吸を整える。

「ふー、怖いわけじゃないぞ」

 僕は部屋を見回した。そこには家具が色々と置いてある場所だった。水色の水槽には金魚が三匹いた。あれ……魚がある。

 今だにがくがくいっている膝を叩いた。

 ドアが二つ、草の色と豚の色だ。

 どっちから調べようか?


 後ろから悲鳴がした。でも、聞いた時のない声だ。さっきの女の亡霊だろう。僕は足がすくみそうになるのを極力、踏ん張って耐えた。

 後ろにあるさっきの部屋からの赤い色のドアが思いっきり何かで叩かれる。

「何?」

 僕は必死に外へと繋がる心の蓋を閉じようと、努力を続ける。

 また、悲鳴が聞こえた。

「どうなってるの?」

 考えるのは嫌だ。想像するのも絶対に嫌だった。

 蓋を閉めたはずの心が、勝手にコルジンを呼び始めようとする。

「ぎゃあああああ」

 ……三度目の悲鳴が……止んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る