第41話

 気にしない気にしない……。


「ヨルダン。早めにコルジンたちと合流しよう」

「何を言っているの。僕は怖くないよ」

 僕は豚の色のドアに向かう。

 ドアは「ぎぃぃ!」と開いて中の様子を窺う僕の耳を嫌というほど逆撫でた。


 後ろをどうしても、雲助と一緒に振り返ってしまうが、僕は極力元気良く中に入る。

「わっ!」

 そこでは、これ見よがしに、部屋の真ん中に……人が顔をだした袋が天井に垂れ下がっていた。鮮血が床に垂れていて、顔はどんな恐怖ならそんな顔が出来るのかと思えるほど、醜く歪んで血で勢大に真っ赤になっていた。

「こいつ。ついさっき死んだのか」

 雲助が息を僕の顔に吹きかけながら言った。

 僕は恐怖なんかで体の力が抜けてきていた。でも、負けないぞ。

「ウーふーーー」

 後ろから人の声なのか解らない声がした。

「ヨルダン……。振り向くなよ……振り向くなよ!」

 雲助がまた僕に息を吹きかけながら喋る。

 カタカタと足音のようなものが迫って来た。

 僕は体の自由が震えで奪われていくのを頑張って耐えた。

「見るな。見るな見るな見るな。見るな見るな見るな見るな!」

 雲助が生暖かい息を僕の顔に吹きかけながら言う。

「こんなことに、負けないぞ!」


 僕は元気を100倍だして振り返った。


 上半身は人間。下半身が血が塗られた足が4本のマネキン人形。片方だけ裂けた口の目玉が垂れている顔。髪は焼きただれて所々禿落ちている。女か男か解らない。それは……人間でもない。

「ヨルダン逃げろ!」

 雲助が必死に叫ぶ。

 僕はその声が耳に入ると、一目散に目の前の虹色のドアへと走り出す。後ろからカタカタと足音が聞こえるが、その動作は比較的にゆっくりしている。これなら逃げられる。

 「ウーーふーー」

 後ろから怪物の声が響き渡る。

 恐怖を元気で跳ね除けながら僕は意識を束ねてドアを開ける。

 そして、まっさきに部屋へと入るとドアを閉めた。

 小刻みに震える足を心の中で叱咤して、僕は中央の椅子に座る。質素な木材質のその椅子はロッキングチェアだった。


 そこで、言うことを聞かない心臓と体を落ち着かせる。

「ここは安全なのかな?」

「ヨルダン。まだ駄目だ」

「疲れちゃった……。でも、怖くなんて無いぞ!」

 僕は決して疲れからではない足の震えを心の中で叱咤した。体が動きづらい。

「ヨルダン。早く逃げるんだ。ここは危険だぞ。追ってくる」

 僕は重い腰を上げて、また、ドアを開ける。この部屋にあるドアはぐんじょ色だった。

 その次の部屋、その次の部屋と進んで行くと、あの怪物の声が聞こえなくなった。もう諦めたのかな?

 果てしない廊下を歩いていると、また、部屋に辿りつく。代わり映えしない。

 コルジンたちの部屋からだいぶ遠いところへと来てしまった。もう戻れそうもないかも。さすがに、僕も死んじゃうのかな?。どうして、人って死ぬのかな?

 僕は死を恐れない! 絶対に!!

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