第21話

「ハリーの部下たちだ」

 ぞろぞろと現れる黒タイツにグッテンが呟く。

「キャサリン! 大丈夫だよ!」

 ルージー夫妻の夫の方が緊張と混乱を乗せた声でそういうと、クイズ台に天国からかの白い照明が照らし始めた。その照明のせいでルージー夫妻の夫は仏像の光背のようなものを得た。


 一方、キャサリンの方は不気味な赤い照明で照らされた。

「あなた。これが終わったら旅行へ行きましょう」

 キャサリンと呼ばれたルージー夫妻の妻は以外と気丈夫のようだ。心が弱いと言われているが、お金が絡むと一般的なおばさんと同じく強くなるのだろうか。

「さあさあ、これより……クイズを……始める。運命の車輪は回転しだして、もう誰にも止められないよ!」

 100人の観客席は全て暗黒の緊張感にドップリと浸かった。しんと静まり返っている。でも、僕だけは目をキラキラしている・・・。これから、起きる事は一生忘れない・・・そんな予感めいたものが僕にはあった。

「さあ、早速始めようか。第一問、この近辺の古き大地には山というものがあって。その山は何て言うのでしょうか?……さあ早く、答えないと」

 それまでなかったBGMが、観客席の奥の方から聞こえてきた。大きい音量なのに、みんなの耳に入らない。それと、ハリーのクイズは僕には簡単過ぎた。だって、日常的に……毎日見てたから。

 僕はクイズが簡単過ぎて気を落としそうになった。

「ヨルダンくん! これは、古文書のことだ! 君ならば解るかも知れない!」

 グッテンは顔を上気させて、興奮気味に早口に喋りだした。

「うん。それは解るさ……簡単過ぎるよ」


 僕は頭を回転させなくても解る事柄に、心がしぼみだした。

「おい! キャサリン! 俺は解らんぞ! 何を言っているのか?!」

 ルージー夫妻の夫の方が早口に喚く。クイズ台への照明がレッドランプよろしく赤く明滅しだした。

「まあ、どうしましょう!」

 赤い照明に照らされたキャサリンは叫んで、拷問椅子の中、暴れ出した。

「なんだ。勉強不足だね。こんな簡単な問題も解けないなんて?これじゃあ、お先真っ暗だよ!観客には刺激が足りないから派手にぶっ放すよ!」

 黒タイツたちが一斉にキャサリンを取り巻き、腰にぶら下がっていた機関銃を観客席に向け出した。グッテンたちが助けられないように。

「さあ、制限時間以内に答えられるかい?」

 ハリーが軽いステップをした。この場面を盛り上げようとしているのか、そのステップはみんなの心拍音のように規則正しい。

 僕はドキドキする。胸の鼓動をそのままに、戦慄する美しい少女の横顔、拷問椅子のキャサリンおばさんの慌てふためく顔……を見ていた。

「ブー! 時間切れでーす!」

 ハリーが片手を大きく振った。


 キャサリンの座る拷問椅子に、天井からカタカタと機械の音がしたかと思うと、何やらショットガンのようなものが降りてきた。それは、火炎放射機だ。火炎放射機が火を噴く。

「ぎゃああああ!」

 拘束されているキャサリンは顔を炎で焼いた。

「ヨルダンお願いだ! 君なら解ける問題だと思う! 助けてやってくれ! 私の持っている知識では頭から取り出すのに時間がかかるんだ!」

 グッテンが隣の僕に向かって、叫んだ。

 コルジンは顔を大きな左手で覆う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る