第8話
そこはとても大きいガラスが隔ててあり、その向こうにはお城のような透明度のある白い両開きドアがある。大きいガラスには大きめの青色のエプロンを着た何人もが、洗剤を付けたボロ雑巾を持って必死に拭いていた。
大きいガラス。まるで、空間と空間を隔てるバリアのように、お城のような両開きドアを守っていた。
そこは広い空間。何十人もの窓拭きのような作業をしている人を易々と招き入れることができ、息を窓に吹いているものや洗剤をふんだんに使って拭いている人……壁や天井はやはり天使が幾人も羽ばたいていた。
その中に、あの赤いドアの筋肉隆々のおじさんがいた。
「ようおチビちゃん。こんなところに何の用だ。子共はまだ仕事をしなくてもいいんだぜ」
ガラスを拭くのを止め、おじさんがこちらに気付いて話しかけてきた。
「何をしているの?」
「何って? 仕事さ」
「これが仕事?」
おじさんは首を傾げたが、
「まだ子供だから仕方ないか。これはこの館から外へと出るためさ。この大きいガラスを拭いていることで、ガラスを薄くしているのさ。そうすればガラスが何時か無くなってみんなで外で自由を得るのさ」
僕はグッテンの言ったことを頭で考えた。
「700年もやっているの?」
「そうさ、でもまだまだ無くならない。強力な洗剤なのに……。あ、悪い。洗剤を持ってきてくれ。きれちゃった」
おじさんはよく見たら、年は二十代後半だった。お兄さんかも……?
「解ったよ」
「灰色のドアのルージーさんに言って、持ってきてくれ」
灰色のドア……?
数分後。あのしかめっ面のおじさんと陰気なおばさんの部屋へと辿り着いた。
「御免下さい。洗剤を分けてもらってもいいですか」
僕は沈みかけていく気持ちを振るい立たせた。
ドアが開くと、
「まあ、あの時の坊やね。これをどうぞ」
またあの時の陰気なおばさんが挑むような顔。
「有難うございます」
僕は必死にニッコリと笑顔を作った。
トクトクと、僕の持っている容器に液体が入る。おばさんは軽々と洗剤の入った大きい容器を持って、僕の作業用の小さい容器に入れる。
「まあ、がんばれよ」
雲助が能天気なことを言う。
僕は何とも言えない嫌な気分を覚えながら俯き加減で天使の両開きドアへと歩きだした。途中、雲助が、
「どうやら、この館の人は外へと出たい一心で毎日仕事をして過ごしているんだな」
「僕と正反対だね」
「ここは変わり者だらけだな。いや、真面目なのか」
雲助が考えだした。
「もし、天使の両開きドアから外へと出られたとしても、僕は一生ここにいるよ」
僕は外へと出たくはないんだ。この気持ちは何十年経っても変わらない。
「お前、やっぱり変わっている」
雲助の言葉に僕は耳を貸さなかった。
天使の両開きドアを開けると、筋肉隆々のお兄さん? が、
「ありがとよ。そうだ名前をお互い知らなかったな。俺はコルジン。よろしくな」
「僕はヨルダン。こちらこそ」
コルジンは洗剤の入った容器を片手で持ち、ボロ雑巾に付ける。そして、力強くガラスを拭き出した。
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