白と黒の館へ

主道 学

第1話 不思議な館へ

 優しかったおじいちゃん。僕だけのおじいちゃん。だけどもういないんだね。


 僕は走った。降りしきる雨の中。何故、生物は死ぬのだろう。近所にいたリンおじさんやペットのも、生き物だから……?

 僕も死ぬの?

 走って、走って、息が苦しくなっても走った。 

 僕の白のローブの寝巻きが……湿り出す。

 気が付くと、いつの間にかおじいちゃんの大きな館に着いていた。

 それは、白い色と黒い色の2階建て。白と黒が縦横に館を自分のスペースをちゃんとわきまえているかのような模様だった。

いつの間にか、雨の止んだ東の方からの朝日がその白さをより一層、白くする。まるで透明な何も変哲もないコップに入れた、山羊の乳みたいだ。

 黒い色の方は、つやつやの漆黒が光っている。


 玄関の扉を開けると、鍵がかかってないことと、両脇にある雫が滴る植木鉢の片方に大きな蜘蛛がいたことが解る。

 僕は中に入ると、蜘蛛が話しかけてきた。

「坊主。中の中には、入るなよ」

「え」

 僕はしゃべる蜘蛛に振り向いた。

「その中さ。その中の中には入っちゃいけない」

「ここの人に怒られるから?」

 僕は蜘蛛を見つめると、

「大丈夫さ。おじいちゃんの館さ」

 泣き顔が自然と普通になる。

「そうじゃない。中の中には……」

「入るなだろう。でも、いいんだ」

 僕は強引に中に入った。

 蜘蛛が僕の肩に乗っかった。

「人間の子。名前は?」

「ヨルダン」

「いくつだ」

「13歳」


 そんな話をしながら、色とりどりの家具が置いてある広間へと足を運んで行った。ここにはもう誰もいない。誰も住んでいない。住んでいたのはおじいちゃんだけ。

 僕の散らかり放題の部屋の数倍の広間は、赤や黄色の豪華な家具が壁に所狭しとある。中央には大きな階段があり、その階段を上ると正面と両脇に部屋がいくつかある。その豪勢な部屋の大きさも僕の部屋の大体3個分はあるようだ。とても大きい。

 この広い広間を見渡すと、どうしても遠い昔のことを思い出す。

優しかったおじいちゃんの館へと、一人でやって来ては、何時間と二階の奥の部屋で本を読んだ。僕はその度におじいちゃんにこの館に泊まっていってもいいんだよと言われた。


 でも、泊まると何日も泊まり続けてしまいそうで、怖い気持ちが僕の心を蝕んだ。それは、家に帰りたくない気持ちが雪に投げ出された雪玉のように次第に大きくなって、そんな気持ちを抱えながら、この世の終わりといった顔で家に帰ることが怖かった。

 僕は二階へと上がる。光輝く豪華な階段は、ミシリ、ともしない。僕の体重を軽々と平気な顔して受け止めた。

 二階へ上ったら、まっ先に一番奥のおじいちゃんの写真を探しに行くつもりだった。おじいちゃんの写真と共にずっと眠るつもりだ。一生。誰かが来ても、何と言われても……。


 その部屋はおじいちゃんの奥さんの部屋だ。何年か前に亡くなってしまったおじいちゃんの最愛の人。その奥さんの部屋に、おじいちゃんは世界中から集めた宝石をどこかに隠しているんだっけ……。

 僕は一目見たくなった。おじいちゃんの世界中から集めた宝石はいったいどんな輝きをするのだろう。

 奥さんの部屋の扉は鍵が掛っているはずなのに、少し開いていた。中に入ると、


「駄目だ駄目だ。中の中に入っちゃ」

 また蜘蛛が意味の解らないことを口走る。

 僕はそれを無視して部屋の中へと入った。

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