頭、弾、魔、マママ

冬眠

頭、弾、魔、マママ

 僕はとっても優しい。

 人を大切にできるいい子だ。


 俺はかっこいい。

 女に優しくできる。


 私は疲れた。

 人と会話するのはもう、うんざりだ。


 僕は朝目を覚ますと、俺になって私になる。


 朝から私たちは、忙しい。


 頭の中でぐるぐると思考を回す。

 きっとこの苦労は誰にもわからないことだろう。


 わかってほしい。

 どうでもいい。

 知っていてくれたらありがたい。


 昔の自分は多くの縛りがあって息苦しかったものだ。

 生きるのに相当の苦労をした。


 助け船のない太平洋の真ん中で泥舟を漕ぐ思いだったはずだ。


 私はいつしか逃げ道を探した。

 きっと助かる一筋の光を。


 そして、見つけたのは自殺だった。


 今だと簡単に拳銃が作れてしまう時代だ。

 安い3Dプリンターを購入して、型を作る。

 組み立てて弾丸を装填。


 あとは引き金を引くだけだ。


 躊躇いもない。

 後悔もない。


 だからこそ油断したのだろう。


 下手な拳銃は無事弾を出すことに成功はしたものの、私を完全には殺してくれなかった。

 私のような優しさを残してしまったのだ。


 そして、弾丸は私の頭の中で止まったのだ。


 その時からだ。

 だんだん私が分からなくなったのは。


 残ったのは、壊れた拳銃と私の顔の傷、そして僕と俺と私。


 きっと一つのはずなのに混ざれない何かとして私たちは生まれたのだ。


 僕たちの中の本当は誰なのか、もう分からない。


 俺は僕で私だ。


 俺がしたいことは、俺がしたいことだからいいのだ。

 好きにさせてもらっている。


 この体の持ち主はいつも変わる。


 本当を忘れてしまった俺たちは、もう戻れない。


 最後に見つけた助け舟は彼らだったのだ。

 僕たちだった。


 だから、きっと救われた。


 もういないかもしれない本当の自分というやつのために私たちは各々の時間を大切にするのだ。


 今日はゲーム。


 今日はナンパ。


 今日はテレビの視聴。


 僕たちは、自由で何の縛りのない世界で生きている。


 さて、散歩に出かけようか。


 私は何もしたくない。

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