魔王様は計画を練る

 今回一番の難点はどうやって方相と戦うかだ。

 退店後に襲う……ただの犯罪者だ。通報されたらお終いだし、人形にされた人の安全が保障出来ない。

 ネットで方相を煽りまくる……ブロックされたら、終わりだよな。

 大村からもらった方相の資料に目を通す。


方相徹 二十四歳 現役時代のジョブはドールマスターで、モンスターの人形を使役して戦っていた。人形は戦いで勝った魔物を封印して増やしており、主戦力は前衛のリザードマン、盾役のロックゴーレム、偵察役のジャイアントバット。

 現役最後の戦いで、インプキングのリピードを倒し、その魂を手に入れた。

 ……やばい。頭が痛くなってきた。

(リピードって、犯罪計画と幇助の罪で捕まえた奴だよな)

 日本に来ている魔族、犯罪者が多すぎじゃないか?絶対に好感度ガタ落ちだぞ。


「しげちゃん、頭を抱えてどうしたの?……春告鳥先生とパーティーを組んでいた人だ」

 訓練を終えた桜が声を掛けてきた。方相は、ユニフォームガーディアン界隈で有名なんだろうか?


「桜、知っているのか?」

 今はどんな情報でも欲しい。方相の生活パターンとかが分かれば、襲撃計画を練れる。


「春告鳥先生の学生げんえき時の話に良く出てくるんですよ。良くプレゼントや映画のチケットをくれる優しい仲間だったそうですよ」

 春告鳥先生は、素直に仲間としての好意として受け取っていたらしい。そして、もらったペアチケットで友達と映画を見に行ったそうだ。

 あれ?なんだろう。敵の話なのに涙がこぼれそうになってきた。


「純粋で素直な、リア充って残酷なんだな。他にどんな話を聞いたんだ?」

 ああいう時に使う“たまたま手に入った”とか“俺は興味ないから”ってのは、あくまで方便なんだぞ。後の生活が気まずくならない為の保険なのに……。


「うーん。自分のジョブで生活をたてている成功例だって教えてもらった位ですよ。仕事が、忙しくて同窓会にも来てないって言ってたしましたし」

 それ、生徒に教えちゃ駄目なやつ。気まずいし、周囲が眩し過ぎて行けないだけだから。

(結婚してたり、良い仕事についてたりする奴に限って“気にしないで来れば良いじゃん”とか言うんだよな)

 お前等のリア充自慢が、どれだけ魔王様の心をえぐっているか自覚はあるのか?お前等の普通が特別に思える人間だっているんだぞ。


「しげちゃん、インプキングって強いの?春告鳥先生の話だと、凄く苦戦したらしいんだけど」

 インプは、小悪魔の一種で人を騙す事にたけている。魔王軍での主な役割は、噂の流布や情報収集。


「強くねーよ。第一、インプキングなんて種族聞いた事ないぞ……ただ、あいつ等、心の隙間に付け込むのが得意だから、日本で急成長した可能性もある。その結果、キングって名乗ったんだろ」

 都会から転校してきた奴が、田舎でお洒落通を気取る様なもんだ。


「しげちゃん、基準だと大概の魔物弱くなるでしょ……そうだ、この後用事ある?」

 もう定時が近い。昔なら許されなかったけどユニフォームガーディアン関係の売り上げが凄いので、大手を振って直帰出来ます。


「スーパーに行く位だよ」

 洗剤が残り少なくなってきたのです。ついでに袋ラーメンを買っておきたい。


「お願い。本屋に乗せて行って。参考書とか買いたいんだ」

 桜が手を合わせて頼んできた。こういう時って“とか”の方が大事なんだと思う。そこは分からない振りするのが、武士の情けだ。


「寮の夕飯間に合うのか?……あれだったら飯おごるぞ」

 桜だから気軽に誘えるけど、他の子なら大問題なんだよな。でも知らない人が見たら、大久保君みたく誤解してしまう。


「いいの!?それじゃパスタ食べたい」

 桜なら、セイゼリヤで良いか。俺はドリアにしよう。


「わ、私も、ご一緒しても良いですか?」

 夏空さんが一緒なら誤解される事はない。セイゼリヤなら三人でもお財布に優しいし。


 最近は色んな本が売っている。お陰で有益な情報を手に入れられた……入れられたけど。


「しげちゃん、なに買ったの?収納術……引っ越しするの?」

 桜、距離が近いって。なまじ可愛い分、周囲の注目を集めるんだよな。


「岩倉さん、弘前って良い所なんですね……今度、行ってみたいな」

 そしてなぜか俺の弘前こきょうのガイドブックを買われた夏空さん……友達さくらの故郷だから行きたいんだよな。

(既知の書店員さんの目が痛いです)

 この店、前に文房具を卸しに来ていたんだよな。会社に苦情とかいかないよね。


 桜達を送った後、ホームセンターで業務用のプチプチを購入。


「まだ大丈夫ですか?」

 方相の店に頻回に行くと警戒されそうなので、隣にあるアクセサリーショップを訪ねる。


「文武事務機さん!今日はどの様なご用件でしょうか?」

 店長の“今日も買いますよね?”プレッシャーが凄いです。


「彼女のいる後輩にプレゼントしたいので、ペアのペンダントを見せて下さい。年齢は、二十代前半です」

 本当は指輪が良いんだけど、俺は伊庭の彼女のサイズを知らない。


「それでしたら、こちらはどうでしょうか?」

 店長さんが勧めてくれたシルバーのペンダントを購入。これに魔力を篭めておけば不測の事態を防げる。

 それに身につけなくても、近くに置いておくだけで効果を発揮できるのだ。


「ありがとうございます。あれ?お車は……お客様で来られたのなら、店の駐車場を使って良いんですよ」

 流石は客商売、目ざとい。


「癖で有料駐車場の方に停めちゃいまして」

 有難い事に一時間無料券をくれた……これで安心して方相を探れる。

 方相の魔力は覚えているので、視覚に頼らなくても済む。退店を確認した後、距離を取りながら尾行。

 方相が住んでいるのは、郊外にある一軒家だった。古い日本家屋で、かなりの大きさがある。

(ラルムに通っていたって事は、東京出身の方が多いか……なにより)

 東京出身なら家族と住んでいる筈。でも庭は荒れているし、あまり生活臭がしない。

 家の周囲に結界が張ってあったのだ。魔力を持っている者が侵入してきたら分かる様になっている。

 つまり家に襲撃は掛けられらないと。

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