ベラの号泣と『内密出産』
美月はベラを抱っこし、広場を歩き回っていた。風に飛ばされたビニール袋を見た瞬間「え―――ん‼」と大音量の泣き声が響き、ヤヌアーとノウレッジが飛び上がった。
泣き止まないベラにへばってベンチに座り込むと、サムの妻で60歳のジュリアがミネストローネの入った紙コップを渡す。「ありがとうございます」「ベラは丈夫になるわよ」ジュリアは嬉しそうに言い、レモネードを飲み終えた。
「ベラは実母が名前を明かさずにできる『内密出産』で生まれている。黒いビニール袋の中に同封されていた」
ヒュージがボールペンで『この子を育ててあげてください』と書かれたチューリップの便箋を美月に渡す。ジュリアがベラを抱っこし、ネモフィラの花の写真を見せると笑い声を上げた。
バンダナ店でネモフィラの花が描かれたハンカチを2枚買い、ベラに渡す。段ボール箱を開け、20個のトマトを棚に入れ終えた福が「よかったねえ」とベラのほおをなで声をかける。亮介が、包帯の入った10箱を倉庫へと運んでいるのが見えた。
ラジオ局『Young Flowers』の2階では小学生から高校生までの20人が生活で困っていることをローズとフランクに相談していた。
その中の一人で18歳の男子は父の妹に給付型奨学金を宝石の購入代に使われ高校に通えなくなったと話し、机の上に置かれたフランボワーズのマカロンを食べる。
「『トー横』から16歳の女子と保護され、寮で五月たちと英会話や漢字の暗記をしながら過ごしてます。アレックスに木で作った電車のおもちゃを渡したら、嬉しそうな顔でハグされました」
「おばは鎌倉警察署にいるらしい」フランクが言うと、男子は「お金のことしか考えないですよ」と答えて抹茶を飲み終え、411教室へ向かった。
「(奨学金持っていかれて、勉強できなかったからなあ)」ノートを広げ、映画『トランスポーター2』の中で出て来た英文を書いていく。
エドワードが「書き終えた文の中から、木曜日に暗記テストをする」と言って20人にプリントを渡した。
「20個暗記だって」肩までの黒髪で16歳の女子高校生が、プリントを見ながら「やばい~‼」と悲鳴を上げる。五月が「明子さんたちと熱唱して覚えよう」と答え、広場で6曲を熱唱する。
「聴きながらノートに書くと、暗記できるよ」と五月。女子高校生は明子に発音をチェックしてもらいながら20個の単語をノートに書き終えた。
―――木曜日。20人は暗記テストを終え、黒オリーブとトマト入りのサンドウィッチを食べていた。
通りの雪かきを終えたエドワードが、女子高校生に「発音の良さに驚かされた」と声をかける。「ありがとうございます‼」深く頭を下げ、「ありがとう五月!」と歓喜しながら石畳の上で踊った。
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