4歳男児アレックス、号泣


 亮介が2階建ての白い家の前を通った時、金髪に茶色い目の4歳男児が「え―――ん‼」と泣いているのが見えた。駆け寄って来た男児のほおは紫色に腫れ上がり、手や首からも出血している。

 広場で男児の手と首に包帯を巻き、階段に座って「亮介だ」と言うと「アレックス、4歳。She hit me many times.(パパの交際相手が、何回もたたいてきた)」と号泣。

 アレックスは折れたほおの骨をくっつける手術をすることになり、亮介は小児科のソファで本を読みながらアレックスが出てくるのを待った。



 ―――午後4時。ほおの痛みがなくなったアレックスと手をつないで『カフェ&バー 月明かり』に入ると、美月に「どこ行ってたの⁉」と肩をたたかれた。

 「大通りの病院。アレックス、俺の妻美月と娘で小3の直美だ」アレックスの肩に手を置くと「こんにちは」と言って豆腐とネギ入りのみそ汁を食べ始めた。


 「アレックスの父親は58歳で、交際相手は33歳の『赤ワイン』。3年前に付き合い始め、バーで午後4時から0時まで赤ワインを飲んでいるんです」

 黒髪で25歳の男性が「鮎原清一です。ロンドン警察署で、小中学生や高校生から相談を受けています」と亮介に一礼しアユが描かれた名刺を渡した。

 


 「アレックスは1歳で母親と死別し、タカユキさんの店や『Young Flowers』で過ごすことが多かった」睦月が広場の階段に座った亮介と美月に湯気の立つ抹茶を渡し、小声で言う。

 紺色のダウンコートを着たアレックスが亮介に駆け寄ってきてひざの上に乗り、「Thank you!」と満面の笑みを見せた。

 

 

 ―――午後6時。寿司店で皿の上に止まっていた大柄なオオスズメバチのマギーが店内を飛び回り、醤油の入った容器をなめようとした3人の客の顔を毒針で腫れ上がらせると、洋服店の店長ジェームズがスマホを取り上げた。

 茶髪と新緑色の目を持つ男の子が「僕はジョニー・ブックワーム、10歳」と直美に小声で話しかける。「こんばんは。私は直美」

 ジョニーは嬉しそうな笑みを見せる直美と愛読書について話しながら顔を赤くし、50代の寿司職人に店内入り口で「出禁‼」と言われている3人をちらりと見た。


 「ジョブズ・ブックワーム、50歳。息子のジョニーとこの寿司店でイカやマグロの握りを食べるんですが、職人さんたちも困っている」わさび入りサーモンを食べ終えたジョブズが亮介の肩に手を置き、店を出た。


 

 「ジェームズさん、ありがとうございました」『スマホでの動画撮影禁止』と書かれた紙を見た5人の寿司職人が、ブブブブと羽音を立てるオオスズメバチを手に乗せたジェームズに頭を下げ、牛肉の握りを用意する。握りを食べ終えたジェームズは破顔一笑し、洋服店へと戻って行った。

 



 




 



 

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