第45話 魔力駆動
二年がたった。
俺は10歳になり、この2年間はギルドのクエストをこなしたお金で魔制剣を作って貰ったり、カトレアの魔法の授業を受けながらメキメキと力を付けていっているが、一つ伸び悩んでいるものがあった。
俺は今一人の男と屋内に設けられたリングの上で対峙している。
俺とその男は木剣を構え、互いに相手の隙を窺っていた。
「ハァァァ――――!!!」
俺は我慢出来ず気合を入れる叫び声と共に男に突っ走る。
男は俺の上段切りを受け止めると、はじき返し今度は右左と男から打ち込んでくる。
俺は2回とも男の攻撃を防ぐ。そして今度は上段に構えて、俺の頭上を狙う様に振りかぶる―――が、これはフェイントだ。
男のフェイントに反応し、右からの攻撃を上手く防いだ。
ここまでは概ね計算通り
だが本番はここからだ。
男はさっきと比べ物にならないくらいの爆発的なスピードで動き、切り込んでくる。
男の攻撃を初めの数回はかろうじて受けることが出来たが、次第に付いていくことが出来なくなっていく。
「ぐっ!」
俺は男の速すぎる攻撃にガードが崩され、後ろに仰け反ってしまった。
しま―――
そう思ったのも束の間。迫ってくる木剣を目に捕らえたと同時に、腹に重い衝撃が走り抜ける。
「ぐあ!」
俺は戦っていたリングから吹っ飛びリングから落とされてしまった。
「ぼ、坊ちゃま!」
見守っていたギュンターが俺に駆け寄ってくる。
「今回の昇級試験はこれで終わりだ。結果は不合格」
俺と対峙していた男。エル・ティソーナ流剣術の試験官は俺にそう言い渡した。
これで俺の8回目のC級昇格試験はまたもや不合格で終わった。
――
「はぁ。くそ」
俺はエル・ティソーナアバディン支部の帰り道ため息をつく。
帰ったらまたエマに馬鹿にされるな。マリアとルーナにもがっかりさせてしまう。
「坊ちゃまは……筋はいいのですが……いかんせん
ギュンターが言いにくそうだが、そんなことは分かっている。
あれのせいで俺はまだD級でくすぶっているのだ。
あれは人間の動きではない。あんなスピードで動くことは人間には不可能のはずだ。
しかし、実際に出来ているのだから認めるほかない。
「ギュンター。 今から魔力駆動の稽古を付けてくれ」
「と言われましてもな。坊ちゃまには私の知る限りの事を全て教えております。 これ以上教えれることは……」
知っている事って、
マリアにもコツを教えてくれって言ったら、『まず、体にドバっと魔力を流して、そこでギュッと魔力を留めて、バン! と破裂させる感じです!』みたいな擬音での説明だった。マリアもギュンターも完全に感覚タイプであてにならない。
「ギュンター! 頼む!見せてくれるだけでいいんだ! そこから何か掴むから!」
「坊ちゃま……分かりました! 坊ちゃまが何かを掴むまで、このギュンター! どこまでもお供いたしますぞ!」
「ありがとう!」
俺とギュンターはアバディンの外に出て、近くの草原まで向かった。
「坊ちゃま! よく見ていてください! 行きますぞ!」
そういうとギュンターは一瞬で20メートルほどの距離を移動してしまう。
やはり人間の域を超えている。
これを体に魔力を流すだけで本当にできるのか?
「どうですか坊ちゃま。何か掴めましたか?」
ギュンターは
「質問していいか、ギュンター」
「何なりと」
「
「はい。魔法ほどではありませんが、魔力を使います」
なるほど。そうだよな。俺が体内に魔力を流しても魔力が使われている感覚はない。つまりそこからまた何らかのアクションが必要と言うことだ。
「
「んー。それはちょっと違うかもしれませんな」
ギュンターは髭を触りながら考える。
「違うってどこら辺が?」
「まず、魔法を使う時は魔法陣を作らないと魔力が暴走してしまいます。しかし、魔力駆動は魔法陣を用いなくても発動することが出来ます。あ、あとその魔力属性にこだわらないですね。炎の魔力属性だろうと、土の魔力属性だろうと、体内に流して
「なるほど……。どの魔力属性だろうと変わらず
それってつまり、属性部分は関係なくて魔力の部分が重要ということか。魔法とは、属性を付与し、魔力で強化する……。昔サディーが授業で言っていたっけ。魔力で強化……強化ね……。
俺は試しに炎の魔力を体に流す。そして体を強化するイメージで魔力に指令をだすが……。
「何も起きない……」
やはり俺には才能がないということなのか。
いやまだ分からない。もしかしたらまだ解明されてないだけで、
「ギュンターってさ、
「ん? いえ……特に意識しておりませんが……」
「え? 魔力を体に流すなら、一緒にその属性も付いてくるだろ?」
「あー。確かに。ん? ですが
またも髭を触りながら考えるギュンター。
こいつさっきは自分の知ることは全部教えたと言っておきながら全然教えてない事あるじゃないか……。
だがそうか、やっとこの
俺は初めに炎の魔力を体に流す。そしてその炎の魔力から、身体強化に必要な魔力の部分を抽出する。
「ん。意外と難しいな」
感覚的には張り付いたシールを剥がすイメージ。乱暴にやるとシールが破れるように魔力も駄目になってしまいそうだ。
「坊ちゃま何をやっているのですか?」
「ちょっと黙ってて」
「も、申し訳ありません!」
俺はやっと体を強化できるほどの魔力を抽出で来た。恐らくギュンターやマリアは無意識のうちにやっているのだろう。俺は放出する魔法ばかりを鍛えていたので、この作業には苦労したが、これでやっと
俺は抽出した魔力を足に流し、強化すようにイメージする。
そ して巡らせた魔力を解き放ち、一気に走り出す。
ブオンという風を切る音とものに、10メートルほど、爆発的なスピードで移動した。
ギュンターの移動距離には及ばないが、成功だ。
やはり炎や水を放出する魔法とは違い、体に留めて強化する
しかし、それにしてもこれは―――
「はぁ…はぁ…はぁ…」
膝を付き、俺は肩で息をして呼吸を整える。
体全体から汗が噴き出る。
なんだこれ……。 体が重い……。
こんなに体力を消耗するのか……。
こんな事前にもあった気がする……。何だっけ……?
「おお! おお! ぼ、坊ちゃま! 出来ています! 出来ていますぞ! 坊ちゃま! このギュンター! わざわざ国防の任務をシリウスに託し、坊ちゃまの様子を見に来たかいがありました! 坊ちゃま! これで次の昇格試験は通ったも同然ですぞ!」
ギュンターは一人はしゃいでいるが、俺は今にも倒れそうなくらい疲労していた。
あっ、やっべ。これやばいわ。
俺は、次の昇格試験までに体力を付けようと決心したところで、視界がブラックアウトし、その場に倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます