第39話 風魔法
アバディンに移り住んでから俺の生活は変わった。まずカトレアとサディーが不在の為、魔法の授業と歴史、貴族作法とかの授業がなくなった。その代わりギュンターとの剣術の修行と、冒険者ギルドのクエストがメインとなっている。
しかし、変わらないこともある。ベッドのシーツは毎日新しい物に変えてくれるし、出てくる食事だって豪華だ。大量に魔制石を使うため、庶民ではめったに入ることが出来ない風呂にだって毎日は入れている。何不自由ない貴族の生活を送れていると言えるだろう。
そんなアバディンの生活だったが、また変化が起きようとしている。ヘストロアからフリーダが兵を連れて明日帰ってくるのだ。それを迎えに行くためにギュンターは朝早くから出ていき、この屋敷の使用人たちも出迎えの準備をしている。
そんな忙しい時に俺は気温が下がって雪降る中、マリアとルーナを連れてアバディンとスカリアの森の間にある、ベンセレム北方平原にやって来た。
「さぁ、ルーナ、俺に風魔法を見せてくれ」
こんな寒い中、わざわざ平原に来た理由は一つ。魔法の修練の為だ。
魔法属性には特徴があり、炎魔法なら破壊力、闇魔法ならデバフ、光属性ならバフと治癒などの特徴がある。俺は炎魔法ならカトレアとの授業や、クエストの実践で自信が付くくらいには習得出来たが、俺が扱える属性はまだ風、土、闇がある。
炎と違って魔力量が多くないからメインには使えないだろうが、それでも扱えて損はない。特に風魔法は移動能力に定評があったはずなので、ぜひとも習得しておきたい。先日の魔力枯渇のように、魔法でどれほどの魔力を使うか分かっていないと、同じことを繰り返しかねない。
「はい! えーと、どれからお見せしましょう?」
「どんな魔法がつかえるんだ?」
「使えるのは
ルーナは自嘲気味に話すが、それは俺も同じことだ。ギュンターとマリアが居れば、後衛は後ろから魔法を放つだけで事足りる。だができない事と、出来るけどやらない事では、意味が全然違う。
「そうか。
俺は風の魔力を手に集め、ルーナが使っていた
魔法のイメージを固め、集めた魔力を解き放つと、ドゴォ! という風の音と共に、積もっていた雪がえぐられて、雪で見えなかった平原が姿を見せる。舞い上がった雪は、振ってくる雪と共に、再び地面に降り積もる。
「すっごい……私なんかよりも威力が出ています! それに前から思っていたんですけど、ご主人様は魔法陣なしでどうやって魔法を使っているんですか? 私ご主人様の魔法をみて、魔法陣なしで魔法を使おうと思って試しては見たんですけど、体の魔力がムズムズして上手く発動が―――むぎゅ!」
ルーナが話している最中だというのに、マリアはルーナの頬を掴み、話を阻害する。
「いいから。ルーナはフィンゼル様の指示通りに魔法をお見せすればいいの」
「ふぁい」
ルーナが返事をすると、マリアは掴んでいた頬を放す。
マリアの凄みにルーナはたじろぎながらも、魔法発動の準備をする。
「えーと、はい。次行きます!」
ルーナは右腕を上げ魔法の準備が整ったことをアピールする。
「
ルーナの背中から緑の魔法陣が浮かび上がり、そこから風がルーナを包み込むようにして、纏いつく。すると次の瞬間―――
「飛んだ……」
ルーナの体は、軽く50メートルほど上空に飛び上がる。そして風を纏ったまま、ゆっくりゆっくりと、まるでパラシュートを背負っているように降りてくる。
「ルーナ凄いじゃないか! こんな事できるなんて!」
「えへへ。まだこれが限界ですけどね。お姉ちゃん達は自由に空を飛び回れました……」
初めは照れる様な仕草をしていたが、自分の姉の事を思い出し、暗い顔になって行くルーナ。
「そ、そうだったんだ……。今度はもう一つの
「そうですね! 分かりました!」
俺は無理やり話題を変更させると、ルーナは魔法陣を構築し、次の魔法に移る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます